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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

新しい家族へ

第4話前編
更新日:2009.9.4
第4話「老いる」(前編)

欧米で重ねた検証に独自の分析を加え、医療・介護領域の意識改革を提言してきたハンディネットワーク インターナショナル (HNI=http://www.hni.co.jp/)春山 満代表の連載だが、半ばを迎えた今回よりいよいよ具体的な「行動指針」が示される。
初期の要介護から最期を看取るまで、一連の流れを担うエーキャット(ACAT=エイジド・ケア・アジャスタブル・チーム) のコアに薬剤師が位置づけられることの意義性について評価するとともに、春山代表が「事業の集大成」として取り組む 「先見の旅」の内容から自らの“ハッピーリタイアメント”を描いてみてはいかがだろうか。


◆医療制度の良さ評価せずエスカレートする不平と不満◆

世界経済の枠組みそのものが変わり、日本の存在感が日を増して希薄になる今、 21世紀を生きる日本人にとって、この国日本を再生することは最も大切な命題である。

戦後の日本は世界で屈指の発展成長を遂げたが、その発展は守られ過ぎた特殊な環境の中での歪な成長でもあった。 これは政治や外交、そして経済だけにとどまらず、医療・介護界において特筆すべきことである。 果たして私たち日本人は、世界と比べて、この国の素晴らしさに気づいているのか。 この国のでたらめさに気づいているのか。そして、この国の「平等という名の不平等」に気づいているのか。

たとえば医療制度。救急・産科に始まり、国益として守らなければならないこの国の医療は、いま崩壊しようとしている。 勤務状況の過酷さや勤務医報酬の不足ゆえにと、個々の不平や不満はエスカレートするが、 そもそも国益として守らなければならない医療の枠組みを作るのは大きな政府の仕事であり、個々の妙な使命感や泣き言に左右されてはならない。 医師不足や看護師不足がクローズアップされ、全国の救急・産科病院は閉鎖に追い込まれるとマスコミは報道するが、 一方でこの国の病院は世界と比べて例がないほど数だけは充足している。

しかも、その全国の病院や診療所は「いつでも・どこでも・誰でも・何度でも」低額の自己負担で利用できる。 こんな素晴らしい制度を持つ国は世界にほとんど存在しないのに、私たち日本人はこのありがたさに気づかず、さらなる不平 と不満をエスカレートさせる。

◆望まれるフェアな老いの選択肢◆

その半面、欧米先進国と比べて、自己責任で自己選択できる高度先進医療や混合医療が、いまだ未発達である。 ここに「平等という名の不平等」があることに、私たちは気づかなければならない。貧しい人々や僻地の人々も守る。 これは国や地方自治の重大な責務。しかし世界第2位の経済大国日本において、豊かな人々が自己責任と自己負担で自己選択でき る高度先進医療や介護・生活サービスを併せ持つことも重要だ。

混合診療や上乗せ療養サービスに対し、長年議論は続き必要性は説かれてきたが、その都度「お金持ち優遇」「弱者切捨て」 「平等でない」との情緒的切り口で批判が集中する。しかし、いま求められているのは「平等という名の選択肢のない不平等」ではなく、 厳しくともフェアで「公平」な選択肢である。私たちは、この呪縛から脱却しなければならない。そのためには「2階建てバス方式」が 必要だと私は提唱する。

たとえば、日本の医療・介護制度をコンビニ弁当に例えるなら、600円の日替わり弁当。飢えはしないが、毎日なら飽きる。 まずくはないが、豊かな人にとっては不満足。ただ、貧しい人も豊かな人も600円の既得権を持っている。これがこの国の「平等」。 そこに、1,000円の幕の内弁当が食べたければ、自己負担400円を支払って選択できるようにする。また、5,000円のすき焼きや、と きには1万円の会席コースを選ぶのも自由。

「2階建てバス」で例えるなら、1階は全員が低額の負担で乗車できるフロア。2階へ昇るとさまざまな医療、介護、療養サービスが、 自己責任と自己負担で用意されている。たくさんのメニューの中から「あなたとご家族は、迎えた老いに対してどれを選びますか?」 と堂々と提案し、比較・検討して選択する。これによって「漠然とした不安」と「漫然とした不満足」が解消される。

この方式はサービスだけにとどまらず、医師、看護・介護職の職能に応じた「2階建てバス」、そして何よりも情報提供サービスの「 2階建てバス」として今後必要になるだろう。

(後編につづく)次回9月18日(金)UP予定!





※このコラムは「DRUG magazin」2009年8月号に掲載された連載を再掲載したものです。





闇に活路あり