更新日:2007.5.23
第一章 僕がみた世界のGoodTime 其の四
■ テーマパークのような高齢者施設
オーストラリアのタスマニアにあるカランビン・ナーシングホームは、施設全体が過去にタイムトラベルをしたようなテーマパーク型の施設です。大きな倉庫のような建物の中に、40〜50年前のこの地域の町が再現されているのです。
僕が訪れたとき、設計建築したロバートさんがこんなふうに説明してくれました。
「この地域は古くから、ビールの原料となるホップの生産地でした。
そのため人々の思い出や原風景というのはホップの収穫祭や乾燥庫なのです。
私が最も重要だと考えているのは、その人が働き盛りだった40歳の頃の記憶です。
人はその頃のことを大変素晴らしかったと考えるもので、建物や周囲の様子を、とても生き生きとはっきりと記憶しています。
私はその風景をナーシングホームの環境に取り入れることを考えたのです。」
施設はホップ工場の寄宿舎のようになっていて、当時の理髪店や雑貨店などが小物まで忠実に再現されていました。部屋の壁や扉に使われている木はその当時のものができるだけ使われ、現代的な設備は雰囲気を壊さないよううまく隠されていました。
たとえ老いて認知症の症状が進んでも、自分たちの生活文化や長年培ってきた価値観に合ったコミュニティで暮らしていけるように、その場所を人工的に作り上げているのです。
もうこれは身体のケアというより、心のケアをするというサービスを、建物ごとやっているようなものです。風景といういわゆる人間の本能を揺さぶるところからケアを考えている。日本とは人間に対する考え方がきわめて違うな、ということを僕は感じました。
(2007.05.23完結)
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