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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

僕がみた世界のGood Time

第三章其の三
更新日:2011.8.5
第三章 セント・パトリックの裕福な息子 其の三


■ 老いは個人の責任である

セント・パトリックでぼくを案内してくれたのは、リンチーさんという女性の施設長でした。施設のあちこちを案内してくれたあと、彼女はある所で立ち止まり、ぼくにこういいました。
「あのお年寄りも資産をすりつぶした1人なんですよ」

それは入口に近い美容室で、ちょうど髪をシャンプーしてもらっているお年寄りでした。 その美容室は施設内にあるものの、福祉でもボランティアでもないふつうの美容室で、シャンプー&カットで30ドルという表示が出ています。
お年寄りたちは、ここで髪を整えてもらったりお化粧をしてもらうと、とても喜ぶということでした。

資産をすりつぶしたというそのお年寄りには、ちょうど見舞い客が来ていました。息子さんとその家族です。とても身なりのいいその中年の息子さんは、母親へ美容室の利用券をプレゼントしていました。美容室の利用券は、セント・パトリックの見舞い客にとっては、とてもポピュラーなプレゼントだそうです。

しかしそれはいいとして、その中年の息子さんはいかにも金を持っていそうな人でした。後でわかったのですが、ぼくが来たとき庭先にとめてあったベンツも彼の車でした。 ぼくは不思議でたまりませんでした。なぜ裕福な息子がいるのに、資産をすりつぶしたお年寄りの費用をセント・パトリックは出そうとしているのか。

そこでぼくはリンチーさんに、当然のように質問しました。
「どうしてあの裕福そうな息子さんに費用の請求をしないのですか?」
するとリンチーさんは、目を丸くして、呆れたようにいいました。
「何をいってるのですか、春山さん。老いは個人の責任ですよ。息子さんたちには関係ありません。アメリカにはそんな風習はありませんよ。個人がすりつぶした財産を、なぜ息子さんに請求するのですか?息子さんには息子さんの人生があります」
だから母親の人生はわたしたちが支えます、親の老いを子どもにツケまわしはしません、とリンチーさんはハッキリいいました。

いくら親が資産を食いつぶしても、その子どもたちはベンツに乗って堂々とお見舞いに来て、シャンプー&カッ卜券などをプレゼントしているのです。たとえ親の入居費用が基金から出ていたとしても、誰もそこでペコペコしていません。

ぼくはその光景を見ながら、アメリカの自己責任のすごさを垣間見たような気がしました。はたして日本では、ここまで自己責任を持つことができるでしょうか。いやそれ以前に、これを自己責任であると理解することができるでしょうか?





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