更新日:2012.2.15
第六章 ヨーロッパの光と影 其の二
T 転換期を迎える「ゆりかごから墓場まで」
■ ハイミドル層のコミュニティビレッジ
まず最初に向かったのは、ロンドン郊外にあるヘンリーという高級住宅地でした。ここはヘンリーレガッタというボートレースで有名な町で、イギリス人にとっては憧れの町のひとつです。大金持ちが住む、日本でいえば田園調布のようなところです。
ぼくはその一画にある、ヘンリー・オン・テムズという小規模のリタイアメントビレッジを訪問しました。
12棟の小さなコミュニティで、イギリスの田舎の村のイメージで建築されています。風光明媚なテームズ川に面した、環境的には本当に恵まれた高齢者住宅なのですが、建物自体は2戸連棟式の2LDKで、それほど広いとはいえません。
そしてここの販売価格を聞いてびっくりしました。35万ポンド、約6000万円近くするというのです。これはイギリスの基準からすると相当に高いです。イギリスでは1000万円から1500万円あれば十分に立派な邸宅が買えます。ロンドン郊外では、600万円も出せば家が買えます。
余談ですが、トニー・ブレア首相はいまイギリス国民の持ち家政策を推進していて、住宅を買うのに必要な資金は全額銀行から借入れできるという、日本で考えたら夢のような制度を持っています。
そのなかで、ヘンリー・オン・テムズは非常に高い販売価格を設定し、見事に完売しているのです。なぜかというと、自分の老いというものを、これまでのようにイギリス政府の管理下で迎えたくないという人々が出てきたのです。自治体がつくるお年寄りのための住宅では満足できない。そこでお金があるハイミドル層の人々は、たとえば昔から憧れていた瀟洒なヘンリーの町で老いを迎えたいと考えるのです。
ロケーションを重要視した、ターゲットを絞った新しいタイプのリタイアメントビレッジ。いまイギリスでは、こうしたアメリカ型のディベロッパーたちが登場し始めているのです。
(次回につづく)
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