更新日:2012.6.20
第六章 ヨーロッパの光と影 其の六
U 寝たきり老人をつくらない
■ イギリスの民間施設 下
そしてマナーコートはスタッフの教育をものすごく重視していました。ぼくらに対する言葉づかいやマナーも飛び切りよかった気がします。
やはり民間の施設だけに、適正な利益を得るためにはいいサービスが必要だという意識を、スタッフ一同がきちんと持っているのです。イギリスの施設はいろいろ見てきましたが、やはり公立の施設は公務員的な色合いが強くありました。さすがのイギリスでも民間と公立ではこうもサービスが違うのかと思ったほどです。
それは日本でも同じで、措置という名目で保護された特別養護老人ホームのようなところでは、職員はとにかく与えられた財政のなかでやっていけばいいんだという感じで、みんな疲れ果てているような雰囲気があります。
ところがマナーコートは、民営の医療保険機構がしっかりとマネージメントして運営しているところなので、いかに高い評価を得るかということが常に意識されています。それが結果的に見事な介護につながるのです。
看護婦はいずれもイギリスの正看護婦の資格を取得した人たちで、スタッフの等級はきちんと制服の色で分けられていました。
庭の作り方にも工夫がありました。各ウイングはこぢんまりとした庭を持っていて、わざと庭を徘徊できるような仕掛けをつくっています。彼らは痴呆のお年寄りを抑制しません。抑制しないのでお年寄りは穏やかになります。日本では逆にぜんぶ抑制するので、痴呆状態がますます悪化してしまうケースが多いのです。
施設内の職員配置は、日本の基準とだいたい同じでした。けれど施設内は日本にくらべてとても穏やかでした。その空気を肌で感じながら、イギリスでは介護というものをすごく研究している、科学しているんだなあと思ったものです。
(次回につづく)
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