更新日:2012.7.18
第六章 ヨーロッパの光と影 其の七
U 寝たきり老人をつくらない
■ 寝たきりにさせないシステム 上
そのマナーコートの介護で、ぼくがもっとも感銘を受けたのは、重度の要介護や痴呆のお年寄りを、「決して寝たきりにさせない」
というシステムでした。
施設内を案内されたとき、共有のリビングを見て驚きました。日本だったらベッドで寝たきりであろうと思われる人たちが、ちゃんとソファに坐っているのです。日本だったらおそらく全員がベッドから降りないような人たちです。車椅子にも乗っていません。車椅子はあくまでも移動の手段であって、坐る場所ではないからです。人間に対する考え方がぜんぜん違うのです。
もちろんお年寄りたちは寝たがります。実際にマナーコートでもソファでうたた寝をしているお年寄りがいました。でも寝たきりにしておくと、関節が硬くなって動かなくなってしまいます。また自我の閉塞といって、自分の中の世界に入ってしまいます。だからマナーコートでは、お年寄りをリビングのソファに坐らせることで、適度な運動と気分転換をさせ、一日のなかできちんとしたリズムを作っているのです。
日本にはいま「寝たきり」といわれるお年寄り(正確にいえば要介護のお年寄り)が280万人いるといわれています。でもその実態は、偽者の寝たきり老人が多いのです。はっきりいって、本当の寝たきり老人は10%もいないと思います。いま寝たきり老人といわれている人のほとんどは、寝たがり老人、寝かせきり老人で、起こしてあげれば本当は起きるはずです。けれど起きない。みんな寝たがっていて、スタッフもあえて起こそうとしません。
(次回につづく)
|