更新日:2013.6.19
第六章 ヨーロッパの光と影 其の十八
W ドイツとデンマークにみる老いの逆指名
■ ヘルプレスネス 下
あのフランスのホテリア・パリメール・アレシアのように、積極的な医療を行わないのです。心は支えますが、身体は支えません。風邪薬や便秘薬、睡眠導入剤のような簡単な薬以外のものは与えないのです。だからプライエムは、死を選択した場所でもあるのです。
日本の特別養護老人ホームは違います。そこでは5年も6年も、床擦れをつくりながら平気で生き続けます。高齢者医療はドル箱ですから、ぶち込めるだけぶち込んでおくのです。そしてお年寄りたちは介護状態を重度化させながら、非常に辛い長い年月を送るのです。
デンマークでは、もうひとつ、早く息を引き取る理由を聞きました。それは「ヘルプレスネス」の状態になるからだというのです。日本語に訳しにくい言葉ですが、「さいなまれるような無力感」というような感じの言葉です。そういう状態になると、コトッと息が落ちる、スッと命が落ちるというのです。だいたいが伴侶と死別して、そのヘルプレスネスの状態で入居してきます。だから案外早く逝ってしまうというのです。
ぼくは思わず訊いていました。「デンマークの人々は、その事実を知っているのですか。プライエムに入ると1年もたたずに死んでしまうということを」
するとエプライムの担当者は、「新聞を読めるようなふつうの暮らしをしている人だったら皆知ってますよ」と答えました。
ぼくはそれを聞いて、あのコペンハーゲンの酒場で出会った“グッド・タイム”の老人たちの様子を思い出しました。自らの責任で老いを完璧に支え、最後の厳しい現実を容認しているからこそ、あのように第三の人生を輝かすことができるのだと―。
(次回につづく)
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