更新日:2013.10.16
第六章 ヨーロッパの光と影 其の二十二
X 匂いのあるナーシングホーム
■ 匂いを演出する 上
そのなかでもぼくがとくに感心したのは、このナーシングホームの匂いでした。ウイングの中を案内してもらっている最中、ぼくはとてもいい家庭的な匂いに気がついたのです。それはおいしそうな食事の匂いでした。
「食事の匂いは痴呆のお年寄りにとって大切なケアのひとつなんです」と案内役の施設長が説明してくれました。
朝はコーヒーの香ばしい匂い、昼はクッキーを焼く温かな甘い匂い、夕方は食欲をそそるミートパイの匂い、という具合です。匂いによって生活の変化をつけ、匂いによってお年寄りをキッチンや食事に誘導しているのです。
そのため、各ウイングにはキッチンがあります。ときにはケアの一環として入居者と一緒に料理もするそうです。そこにも工夫があって、たとえば鍵がなければガスが出ないガスコンロとか、簡単に取り外しのできる温水の蛇口の把手(とって)。一見オープンに見えるキッチンですが、安全管理には十分な配慮がなされていました。
(次回につづく)
次回更新日 : 2013.11.20 (水)
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