更新日:2013.11.20
第六章 ヨーロッパの光と影 其の二十三
X 匂いのあるナーシングホーム
■ 匂いを演出する 下
部屋のベッドルームにも細かな工夫があります。たとえば、重度の痴呆患者の部屋のバスルームは、一見壁に見える扉の向こうに隠されていました。これは安全管理のためです。部屋にはセンサーがついていて、夜ベッドから出て徘徊をはじめると、中央にあるナースステーションにわかるようになっています。また、痴呆患者は音にも敏感なので、室内の床のほとんどは、撥水加工された絨毯で敷き詰められていました。
そして面会は家族、親戚、友人に限られています。痴呆患者にとって、たくさんの知らない人がいることは不安材料になってしまうからです。この面会場所であるリビングルームのつくり方にもぼくは感心しました。各ウイングとも、8名から10名の入所のお年寄りに対して、18名分の広いリビングを確保しているのです。つまり入居者の家族が見舞いに訪れたとき、そこで家族が一緒に半日過ごせるくらいのスペースを最初から考えているのです。
日本では1人に対してどのくらいのスペースがあればいいのかという基準ばかり守って、家族のケアに関してはほとんど考えられていません。ここでは「痴呆のお年寄りとともに暮らしていくためにはどうすればいいのか」というテーマに沿って、本当にいろいろな工夫が講じられているのです。
(次回につづく)
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