更新日:2014.1.22
第六章 ヨーロッパの光と影 其の二十五
X 匂いのあるナーシングホーム
■ 来ないバスを待つ 下
痴呆に関しては、いまのところ決定的な解決策はありません。多くの施設では、徘徊廊下という名前の暗い“牢獄”に閉じ込めます。あるいは精神病棟の痴呆病棟に入れます。痴呆は精神病ではないのですが、一般病院では受け付けないのです。そして痴呆にとって最悪なのは「抑制」されることです。これによって、問題行動がどんどん促進されてしまうからです。
ところがアダーズ・ナーシングホームでは、これらの痴呆を抱えたお年寄りたちを「抑制」せず、じつに自然にうまく管理していました。それは人間というものを非常に深く知っているからこそ、できることだと思います。もうひとつ驚いたことがありました。
夜勤の看護婦さんがたった2名しかいないことです。夜になると十字形の中心にあるナースステーションを明るくして、各ウイングの境の扉を開け放ち、端に行くにしたがって照明を落としていくのです。すると誰かが徘徊をはじめても、人間は明るい方へ来る習性がありますから、たった2人の看護婦さんでもセントラル(中央)でケアをすることができるのです。入居者ばかりでなく、スタッフのコストやケアを考えたそんな工夫まで行われているのです。
人間というものを深いところで知ったシステム。ぼくはこのアダーズ・ナーシングホームのあり方に、とても大きなヒントを得たような気がします。
(次回につづく)
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