更新日:2013.8.7.
第十一章 「限りある命を生きる」 其の七
■ 「死にたい奴は死なせておけ 下」
これまで数百回以上、講演をこなしているが、このときの講演だけは忘れられず、家に戻って由子に子どもたちの話をした。
「……まるで子どもたちの心は繊細で、すぐに壊れてしまうガラス細工のようやね……」
由子が言った。
難病を宣告され、坂道を転げるように病魔が進行し、不動産業に行き詰まっていたころの私と小児病棟の子どもたちの姿が、由子の中では重なっていたのかもしれない。
「死にたい奴は死なせておけ、おいらはこれから朝飯だ」
私が二〇代のときに読んだ本の中にあった言葉だが、私にはこの言葉が忘れられない。難病の子どもたちのように生きたくても生きられない限られた生命。いとおしむように生きても二五か三〇で終えなければならない生命。
この限られた生命から見ると、今の日本には少し甘ったれすぎた人が多い。博打の借金で首を括り、リストラで希望をなくし、死んでいく。不祥事が発覚したと言っては、いともあっさりと命を絶つ。死んでいきたい奴は、どうぞ勝手に死んでいけばいい。
(次回につづく)
|