更新日:2013.9.4.
第十一章 「限りある命を生きる」 其の八
■ 「親の面倒を見ない国 上」
「揺りかごから墓場まで」は、福祉国家を標榜したイギリスのスローガンだが、今はそのイギリスやスウェーデンを追い抜き、世界一の福祉国家となったのがデンマークである。その整えられた福祉の現状を視察しようと、四年前の秋、久しぶりにヨーロッパを訪れた。
現地で見聞きしたことの中に興味深い裁判の話があった。
一つは、ある聾唖(ろうあ)の青年が起こした裁判である。彼は「大学に行きたいので、国家は私に手話通訳をつける義務がある」という請求を起こした。
最高裁判所はこの青年の言い分を認め、手話通訳をつけることを政府に命じた。青年にはその後五年間、手話通訳者として国家公務員がつけられるという。その国家公務員の年収は、日本円にして約八〇〇万円。これが税金から支払われつづける。
もう一つの裁判は、施設に住んでいる脳性麻痺の青年が、「コペンハーゲンでアパート暮らしをしたい」と請求したものだ。
青年は二四時間の介護を必要とするほどの重度の障害を持っている。裁判所は訴えを認めたが、一年三六五日、二四時間の介護をするためには一ニ人の専属のヘルパーが必要になるという。一人の青年を介護するため、国家は毎年膨大な人件費をかけるのである。
(次回につづく)
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