介護される人が介護者を囲むように位置することで、介護者がひとりひとりに均等の距離を保つことができ、効率的に食事介護が行える。介護される人も輪になって席に着けば、お互いの顔を見ながら和気あいあいと食事を楽しむことができる。アメリカのサンディエゴで見つけた介護テーブル開発の方向性は、さらに決定的なタイミングと共に具現化へと向かいました。
春山は帰国後も時間さえあれば、頭の中でテーブルに関する情報とアイデアの反芻作業を繰り返していました。厚生省(現在の厚生労働省)から業務省力化予算拡大の通達が出されたのは、その年の秋でした。
当時の細川内閣が出した第二次補正予算案。それは開設3年以上の社会福祉施設を対象に、業務省力化のための機器導入には一施設あたり500万円~1,000万円の補助金を出すというもの。いわば今回依頼を受けた特別養護老人ホームのような古い施設の救済制度。特殊浴槽、介護用ベッドをはじめとした補助の対象項目に、なんと「食堂」という項目が加えられていたのでした。春山は思わず興奮しました。
「これや!このタイミングを外したらあかん」
キーワードを見つけてから動き出す早さはどこにも負けない。
それこそ零細企業の即断即決。
「今、開発中のものは全部中断や。食事テーブルの開発を最優先にしろ」
気まぐれとも聞こえる、この春山の号令に社員たちは唖然としました。
しかし気まぐれではなく、春山は何よりもこのタイミングをずっと
狙っていたのでした。商品開発の担当デザイナーと早速打ち合わせをし、
サンディエゴのナーシングホーム以来、頭の中にファイルしていたアイデアと
情報をくまなく彼に伝えました。
いよいよ、会社一丸となって介護用食事テーブルの開発に
乗り出すことになりました。
ところが、そこからが大変でした。