総合トップ > 商品一覧 > バリアフリー型自動販売機 > 第4章
商品の歴史
商品ラインナップ
「優しさ」という怪しい言葉

パンフレットには「大塚の優しさ。車椅子対応型自動販売機」「大塚の社会貢献。優しい福祉対応型自動販売機」とキャッチコピーが掲げられていたのです。
「こんなクサい名前、あかん!」
春山は頭ごなしにパンフレットを否定しました。
「車椅子対応型、福祉対応型、優しさ……、こんなくさい名前の自動販売機、誰が導入するんや? 表面的な言葉に引きずられるな。弱者救済? 不自由な人への思いやり? なんやその清く、暗く、貧しい発想は! 優しさ、優しさって連発するな! 大体、優しさを連発するようなやつに、ろくなやつはおらん」

春山は商品の開発において、常々言っていることがあります。「褒めてはくれるけど、誰も買ってはくれない商品にしたらだめだ。褒めてくれたらよだれを垂らさんばかりに欲しいと思わせないと」。 「福祉対応型自動販売機」。確かに聞こえはいいですが、それでは高齢者や障害がある人のための特別な自動販売機というイメージを持たれてしまう恐れがあります。つまり、褒めてはくれるが、それを導入してくれる人が誰もいなくなる商品にしてしまう恐れがあるのです。特殊性を取り除かなくてはいけません。
「私がネーミングしてやる。『大塚製薬のバリアフリーベンダーマシン』。よおっし、これでいこう」
どちらがスポンサーか分からない傍若無人な物言いでしたが、こうでもしなければ時間をかけて開発した商品が「ただ褒められるだけ」で終わってしまいます。

この自動販売機は、車椅子の人にとってはじつに使いやすいようにできていますが、本当は潜在的なバリアを感じている人たちすべてに対応するためのもの。ですから、車椅子は「主」でなくて「従」に。しかし、攻めるときは車椅子を「主」にし、水戸黄門の印籠のように「これが目に入らぬか」と言いながら車椅子を強調し、マーケティングではまたそれを「従」にする……。春山はこの二重構造の戦略でコカ・コーラやキリンビバレッジの要塞に風穴をあけるよう、徹底的に教育し指示を出しました。

こうして『大塚製薬のバリアフリーベンダーマシン』は、これまでに全国で8000ヵ所ほどに設置されるようになりました。この商品名でなければきっとここまでの普及はなかったことでしょう。

第一章 第二章
第三章 第四章