第3章
さて、第二のポイントは「発想力」である。1992年、春山 満はある飲料メーカーとともに、自動販売機の常識を覆した、車椅子対応の自動販売機『バリアフリーベンダーマシーン』を開発している。これは春山 満の発想の原動力となる「直感力」がいかに優れているのかを世間に知らしめた典型的な事例である。一部記事の抜粋になるが、内容は以下の通りである。
【当時、ある飲料メーカーが病院マーケットでの新たな活路を見つける戦略を相談する為に春山 満の元を訪れた。その際、春山 満は担当者にこのように話している。「医療の方面から攻めるのは難しいでしょう。今攻めるのであれば注目されている介護や福祉から切り込んでいくべきです。」当時、自動販売機での商品の取り出し口がは下部についているものばかりであった。もともと、利用者側の利益ではなく、供給するメーカー側の都合で作られえた構造である。機械に商品を入れるなら、一番下まで詰め込むのがもっとも多く入る、一度にたくさん詰め込めば補充の回数が少なくてすみ、補充するために必要となる人件費も削減できる、という算段だ。ただ、それは車椅子を利用している人だけではなく、その他、多くの人にとって不便なものであった。例えば、妊婦が大きくなったお腹をかがめて商品を取り出すのは一苦労である。ミニスカートの女性にしてもかがむときに後ろが気になるからイヤなものであろう。虚弱な高齢者、松葉杖のスポーツ少年・・・、それら多くの人が供給の都合で作られた。自動販売機には不便さを感じていたはずである。にもかかわらず、誰もそれを改善しようとしなかったのは、長年あたり前のように使われてきていたため、疑問を持つことすらしなかっただけなのだ。結果、現在に至っても、病院、地下鉄など多くの場所でこの自動販売機は取り扱われる事となる。】
実はこの事例、春山 満は「直感」で浮かんできたものであると語っている。車椅子対応の自動販売機『バリアフリーベンダーマシーン』は、日々、車椅子にて行動している春山 満だからこそ「直感」が働いたのであろう。
発想とは、即ち素直に感じた事例に対し、可能性を見い出すということ。そして、この「直感」の後の「発想力」が、新たな展開を生み出すのである。事例にも出したが、その直感は後に、妊婦、ミニスカートの女性、虚弱な高齢者・・・と多くの人の不満を取り除くこととなるのである。この発想により、これまで迷走していたマーケットは確固たる新たな目的を持ち、より現実的なものが見えてくる。
もちろん私も含め、日々ビジネスに於いての発想力の乏しさを痛感する。現在、私の会社の事業内容は「高齢者の住まいの提供」がメインである。幸いなことに、多くのお客様からありがたい評価の声をいただいているが、このメイン事業にこれまで以上に何かプラスアルファが必要であると考えている。しかし・・・それが中々、そう簡単には飛躍的な発想に繋がらないのだ。昔、春山 満からこのような話を聞かされた事をよく覚えている。
どういう意味かというと、
「我武者羅さも必要であるが、じっと待つ、見る事も必要である。そして風を感じたら、スピード良く動く」という意味である。
春山 満は自分の身体が不自由になり、自らが身を置いた現実の中で、介護・福祉におけるサービスの充実・進化の必要性を「風で感じていた」に違いない。そして風を感じながら、風向き・強さ、いろんな状況を想定したに違いない。そう、ただ単に我武者羅ではなく、時には立ち止まり、「風を感じること」が重要なのである。春山 満の語録には、「怒」、「突破」、「地べたを這いつくばれ」など、沢山あるが、このような冷静かつ大胆な「発想力」こそが、現在における春山 満の成功要因の一つだと言えるのではないかと私は感じる。
宮内 修 プロフィール
アイシーズ株式会社 代表取締役 1973年3月に父 宮内 義彦(現オリックス株式会社 取締役兼代表執行役員・グループCEO)の次男として生まれる。 |
春山 満 プロフィール
株式会社ハンディネットワーク インターナショナル 24歳より進行性筋ジストロフィーを発症。現在首から下の運動機能を全廃。1991年ハンディネットワーク インターナショナル設立。幅広いネットワークと体験を通した独自の視点と着眼で、オリジナル商品の開発や大手医療法人・企業等のコンサルティングなど幅広く活躍。2003年、米国ビジネスウィーク誌にて『アジアの星』25人に選出。 |
ドラ息子企画 編集者 春山 哲朗
編集者 略歴 |
アイシーズ 公式サイト | アイシーズ 公式ブログ | ||||||
ハンディネットワーク インターナショナル 公式サイト | ||||||