特定技能外国人、業務内容や賃金、介護報酬上の配置基準算定は?

新たな人材確保として注目される 介護分野の「特定技能」について  Vol.4 

新しい人材確保の取り組みとして期待される在留資格「特定技能」。 これにより外国人介護士が実際に来日したら、どんな業務を担うのでしょうか。 また、雇用の際に注意することは? さらにいつ配置基準にカウントできるのかについても気になります。 今回は、特定技能「介護」の人材の業務内容や介護報酬上の配置基準算定について紹介します。

<目 次>

介護の特定技能外国人の業務内容は?        

介護施設に課される条件とは?           

特定技能の外国人介護士、雇用条件や賃金は?    

転職可能な特定技能。対策のために知っておきたいこと

特定技能の外国人介護士、介護報酬上の扱いは?   

就労と同時に配置基準に算定できるが、注意も必要  

採用できる人数は?                

外国人介護士の採用、今後の見込みについて     

介護の特定技能外国人の業務内容は?

新たな在留資格「特定技能」は、人材不足が深刻な14の特定産業分野で外国人が就労できる資格です。この制度を利用して来日する外国人は、それぞれの分野で一定の技能を持っている、いわゆる「即戦力」ということになります。

なかでも、とりわけ人材不足が深刻なのが介護業界です。

一刻も早く特定技能の外国人に来日して働いてほしい、そのために早く受け入れ体制を整えたい、そう考える介護施設は多いのではないでしょうか。

では、特定技能の外国人を受け入れる場合、実際に介護施設で、どのような業務を担うことになるのでしょうか。また、させてはいけない業務はあるのでしょうか。

介護の特定技能1号の業務内容については、以下のように示されています。

[特定技能外国人が従事する業務区分]
【特定技能1号】
・身体介護等(利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助等)のほか、これに付随する支援業務(レクリエーションの実施、機能訓練の補助等)
※利用者の居宅で行われるものは対象外
(「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領 —介護分野の基準について—」資料より)

介護の特定技能外国人は、介護施設における業務を行うことになるのですが、その範囲は決められています。

入浴、食事、排泄の介助等の身体の介助、それに付随する支援業務としてレクリエーションの実施、機能訓練の補助等があげられます。

日本人が通常することとなる関連業務(例:お知らせ等の掲示物の管理、物品の補充等)や安全衛生業務(安全衛生教育、福祉用具の使用方法及び点検業務等)も業務に含まれます。

介護分野以外の仕事をさせるのは、資格外活動となるため禁止されています。

そして、訪問して行う介護は業務の対象外なので、特定技能の介護士にこの業務をさせることはできません。

つまり、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅などで、介護サービスが「訪問系(訪問介護・訪問看護など)」で提供されている場合は、特定技能外国人の受入れ機関として認められないことになるのです。

介護施設に課される条件とは?

特定技能の外国人を雇用したいと考える介護施設では、どのようなことに気をつけたらいいのでしょうか。

特定技能の人材を雇用する先は「受入れ機関」と位置づけられています。介護施設はこれにあたりますが、その受入れ機関に対して、特に課す条件として以下があげられています。

【受入れ機関に対して特に課す条件】
・厚生労働省が組織する協議会に参加し、必要な協力を行うこと
・厚生労働省が行う調査又は指導に対し、必要な協力を行うこと
・事業所単位での受入れ人数枠の設定
    (分野別運用方針の概要(介護分野抜粋)より)

厚生労働省が組織する特定技能協議会は、構成員が相互の連絡を図ることにより、特定技能外国人の適正な受け入れや保護に有用な情報を共有し、構成員の連携の緊密化を図ることを目的に設置されました。

また、各地域の事業者が必要な特定技能外国人を受け入れられるよう、制度の趣旨や優良事例を全国的に周知するとともに、地域における人手不足の状況を把握し、必要な措置を講ずることを目的としています。

協議会に参加し、協力することで、課題や問題を共有し、制度をよりよいものにしていくことが期待されます。

【分野別運用方針の概要(介護分野)】

04_01_分野別運用方針の概要(介護分野)東京都.png

(東京都 ホームページより)

特定技能の外国人介護士、雇用条件や賃金は?

介護の特定技能外国人の雇用は、受入れ機関(介護施設)による直接雇用となります。また、派遣形態の雇用は認められていません。

介護分野における特定機能1号で外国人を受け入れる場合、外国人と介護施設との間でフルタイム(労働日数が週5日以上かつ年間217日以上で、かつ週労時間30時間以上)を前提とした直接雇用契約を結ぶことが求められます。

特定技能の中でも、農業や漁業のように季節性のあるものは、派遣会社が外国人と雇用契約を結び、その派遣会社から受け入れることも可能ですが、介護分野ではこれは認められません。

賃金については、特定技能の資格を得て入国してくる外国人に対して、同じ業務をしている日本人労働者と同等額以上を支払うことが法で定められています。

特定技能の人材は、一定の技能を持った即戦力として来日します。したがって、「日本語が出来ないから仕事が出来ない、だから賃金が低い、というのはあり得ない。なぜなら、仕事に必要な日本語は習得済みのはずである。」というのが出入国在留管理庁の考え方なのです。これは技能実習生にも当てはまるため、もはや「外国人は低賃金で雇うことができる」といった前時代的な考え方は通用しないのです。

日本人と同じ仕事をしていて、しかも能力も同じなら、賃金は同じようにしなくてはいけません。また、日本人に賞与があるのなら、外国人にも賞与を支給します。就業規則に記された通りにしなければいけないのです。
しかし、一見すると同じような仕事であっても、明確な違いがあれば、給料や賞与が異なることは合理的であると言えます。これは日本の労働局も認めています。
例えば、責任の大小、ノルマや転勤の有無、無期雇用か有期雇用か、事務能力や説明能力の高低など、誰が見ても合理的と言える違いがあれば(採用される労働者が説明を聞いて納得できれば)、賃金に差があることは認められるのです。
やがて優秀な外国人材より、無能な日本人の賃金が下になる、そんな時代が来るかもしれませんね。

この他の雇用条件として、一時帰国を希望した場合には休暇を取得させること、契約終了後に円滑に出国できるように、旅費のない外国人に対しては介護施設が負担することなどが、外国人と結ぶ雇用契約において満たすべき条件となっています。

特定技能人材の雇用にはさまざまな決まりがあるので、今からしっかりと確認しておくことが大事です。

転職可能な特定技能。対策のために知っておきたいこと

在留資格「特定技能」1号で入国した外国人は、労働者の権利として転職が認められています。

ということは、介護施設に就労したものの、今よりも労働環境や雇用条件のよい介護施設があれば、転職する可能性も考えられるのです。また、そうした施設から誘いがあれば、移ることを考えるかもしれません。

転職を防ぐためにも、特定技能外国人を受け入れることを考えたら、まず自分たちの施設運営について見つめ直し、しっかりした体制に整えておくことが必要でしょう。

お金だけに着目して転職する人材がいるのは、日本人も外国人も同じです。しかし、義理人情で心を動かされるのも、また日本人も外国人も同じなのです。

異国から日本に若い介護人材が来ることは、とても勇気のいることです。「ちゃんと仕事ができるだろうか?」「日本の生活になじめるだろうか?」といった不安や、実際に来てみたら想像と違っていたり、自分の思い通りにならなかったりすることもたくさんあるでしょう。そんなときに、親身になっていろいろと世話をしてくれる、心細い気持ちに寄り添って支えてくれる存在がいたら、どうでしょうか? 

外国人材に対しては、仕事だけに限らず、生活の面も含めて常に心配りをして、さまざまなサポートをすることが重要なのです。

そもそも介護業界で日本人の人材が定着しない理由には、労働条件だけではなく、人間関係などにも大きな原因があります。日本人にとって働きやすい労働環境でなければ、外国人材も長続きしないのは当然のことといえます。

また、特定技能の外国人介護士が転職を希望した場合、雇用者である介護施設側が脅迫したり身体を拘束したりするなどして、その権利を制限・侵害した場合には、労働基準法違反となります。もしもそうなると、今後5年間は特定技能外国人の受け入れができなくなります。

そのような事態に陥らないためにも、雇用者も一緒に働くスタッフも、制度について理解しておくことが大切です。

特定技能の外国人介護士、介護報酬上の扱いは?

では、特定技能の介護士について、介護報酬上の扱いはどのようになるのでしょうか?

介護の特定技能1号外国人については、技能実習3年修了の人材と介護技能が同等であることから、就労と同時に配置基準に算定します。

ただし、一定期間、他の日本人職員とチームでケアに当たるなど、受け入れ施設における順応をサポートし、ケアの安全性を確保するための体制をとることが求められます。

つまり、就労したときから即戦力として介護報酬上も配置基準にカウントできるということです。

(参考)特定技能1号の外国人材の介護報酬上の扱いに関する基本的考え方(案)

04_02_特定技能1号の外国人材の介護報酬上の取扱いに関する基本的考え方(案)P13.png

(厚生労働省 ホームページより)

また、参考として、他の在留資格と特定技能(介護)の介護報酬上の考え方について並べたものが、以下の表です。

(参考)技能実習「介護」・EPA・在留資格介護の介護報酬上の考え方について

04_03_(参考)技能実習「介護」・EPA・在留資格介護介護報酬上考え方について_P14.png

(厚生労働省 ホームページより)

就労と同時に配置基準に算定できるが、注意も必要

特定技能で在留する外国人は、即戦力という位置づけです。ということは、勤務開始当初から配置基準にカウントできます。

前述したように、就業した当初6カ月間は、ケアの安全性を保つため、また職場や仕事に慣れるために、日本人と一緒に働くように決められています。また、就業から6カ月間を経過した場合でも、夜勤だけでなく日中の業務においても、一人で十分に対応できるかを見極めたうえで配置することが必要です。

ちなみに、技能実習制度やEPA(経済連携協定)は入国後の研修を終えて介護施設に着任してから6カ月経過しないと人員にはカウントできません。

それと比べると、特定技能外国人は即戦力としての活躍が期待されているといえるでしょう。

しかし、一方で注意も必要です。

外国で試験を受けて合格し、外国から日本の介護施設に来て働く場合、その外国人が必ずしも実務経験があるとは限らないからです。実務経験はおろか、実技研修も受けていない可能性も考えられます。

人員基準を満たすことを目的として外国人を採用した場合、介護施設が期待する技能レベルには達していないかもしれません。すると、それによって現場に混乱を招いたり、一時的にはかえって人員配置がたいへんになったりすることも考えられます。

特定技能で採用しようとしている人材がどのような人なのか、どれくらいの介護の技術レベルなのかを採用前に事前に確認することが、今後必要になることも考えられます。

採用できる人数は?

特定技能1号の介護では、事業所ごとに採用可能な人数に上限を設けています。その上限は、日本人等の介護職員の常勤職員数の総数を上回らないこと、とされています。

ここで気をつけなくてはいけないのが、常勤職員数の数え方です。

介護分野には「常勤換算」という数え方がありますが、これは非常勤で働く人の労働時間数を計算し、合計8時間になれば「常勤1名」とカウントする方法です。

介護保険に基づく人員計算は常勤換算ですが、特定技能では「常勤職員数」で計算します。つまりそれは、フルタイムの正社員の介護職員数を意味しているのです。

例えば、常勤換算では20名の介護職員がいるとして、そのうち10名がフルタイムの正社員であれば、特定技能1号で採用できる外国人の上限は10名となります。また、採用人数の上限は法人ごとではなく、事業所ごとの人数となります。

外国人介護士の採用、今後の見込みについて

介護特定技能1号の資格を取得する方法として、EPA介護福祉士候補者からの移行という方法もあります。

新たに導入された在留資格「特定技能」によって、今後、介護現場で活躍する外国人介護人材の増加が見込まれます。その数は、5年間で最大6万人を見込んでいます。

来日した外国人介護人材が国内の介護現場において円滑に就業、そして定着できるように、国では「外国人介護人材受入環境整備事業」を創設し、受け入れ環境の整備を推進しています。

新「外国人介護人材受入環境整備事業」の創設

04_04「外国人介護人材受入環境整備事業」の創設_P12.png

(厚生労働省 ホームページより)

受入れ機関においては、外国人材に対して、さまざまなサポートが求められます。業務に関することはもちろんですが、それ以外にも日本で暮らしていくための生活支援など、多様な内容になっています。

新しい仕組みのため、受け入れを考えている介護施設にとっては、まだまだわからないことが多いでしょう。これらの内容について、これから詳しく紹介していきます。

次回は、特定技能の受入れ機関(介護施設)と外国人支援について取り上げます。