新たな人材確保として注目される 介護分野の「特定技能」について Vol.10
在留資格「特定技能」では、来日する外国人への手厚いサポートが必要です。それは、外国人介護士が日本で就労してからも続きます。受入れ機関である介護施設が行う支援について、今回は就労後のサポートについて紹介します。
<目 次>
(8)外国人の責めに帰すべき事由によらないで
特定技能雇用契約を解除される場合の転職支援
目次
特定技能「介護」の外国人介護士への支援
1号特定技能で来日する外国人のほとんどは、日本での生活が初めてと考えられます。特定技能「介護」で就労する外国人介護士も、そうした人材がほとんどではないでしょうか。なかには、介護業務が初めてというケースもあるでしょう。「職場はどんな雰囲気だろう?」「言葉はちゃんと通じるかな?」と不安な思いを抱いて日本にやって来るのですから、できるだけ心配ごとを減らすようにきめ細かな支援が必要です。
もしも自分が同じ立場だったら、知らない土地で言葉も習慣も違うなか、わからないことを丁寧に教えてくれる人の存在は、どれだけ心強いでしょうか。日常生活が問題なく送れることで仕事にも集中でき、十分に力を発揮できることでしょう。また、周囲とのコミュニケーションがとりやすくなれば、業務はよりスムーズに進みます。そうなるようにサポートを心がけたいものです。
支援計画のおもな内容(1)〜(9)
介護施設が策定する「1号特定技能外国人支援計画」(以下「支援計画」)では、業務に関することだけでなく、ゴミ出しや気象情報・災害時の対応、法律など、多岐にわたる具体的な支援内容の記載が義務づけられています。受け入れる介護施設では、これらをしっかりと実施していく必要があります。
支援計画に含まれる、おもな内容は以下となっています。
[1号特定技能外国人支援計画の内容等]
(1)事前ガイダンスの提供
(2)出入国する際の送迎
(3−1)適切な住居の確保に係る支援
(3−2)生活に必要な契約に係る支援
(4)生活オリエンテーションの実施
(5)日本語学習の機会の提供
(6)相談又は苦情への対応
(7)日本人との交流促進に係る支援
(8)外国人の責めに帰すべき事由によらないで特定技能雇用契約を解除される場合の転職支援
(9)定期的な面談の実施、行政機関への通報
今回は(5)〜(9)について解説します。
*(1)〜(2)については、こちらの記事をご参照ください。
*(3−1)〜(4)については、こちらの記事をご参照ください。
(5)日本語学習の機会の提供
日本語学習の機会の提供については、外国人介護士に対して、以下の支援を行うことが求められます。
【日本語学習の機会の提供】
[義務的支援]
○日本語を学習する機会の提供については、次のいずれかの支援を行う必要があります。①就労・生活する地域の日本語教室や日本語教育機関に関する入学案内の情報を提供し、必要に応じて1号特定技能外国人に同行して入学の手続きの補助を行うこと
②自主学習のための日本語学習教材やオンラインの日本語講座に関する情報を提供し、必要に応じて日本語学習教材の入手やオンラインの日本語講座の利用契約手続の補助を行うこと
③1号特定技能外国人との合意の下、特定技能所属機関等が日本語講師と契約して、当該外国人に日本語の講習の機会を提供すること
(法務省 1号特定技能外国人支援に関する運用要領 —1号特定技能外国人支援計画の基準について— より)
任意的支援としては、支援責任者や支援担当者、他の職員による外国人介護士への日本語指導・講習の積極的な企画や運営を行うこと、外国人介護士の自主的な日本語の学習を促すため、日本語能力に関係する試験の受験支援や資格取得者への優遇措置を講じることなどがあげられています。
日本語の習得や上達は継続的な学習により促されるものですから、外国人介護士の日本語の習得状況に応じた適切で継続的な学習の機会を提供していくことが大事です。
日本語の上達が仕事にも好影響を与える
外国人介護士に対して「日本語を学ぶ機会を作ったらそれでOK」なのかといえば、そうではありません。たしかに義務は果たしていますが、本来の目的は日本での生活や仕事をスムーズに進めるために日本語を身に付けるのです。
外国人介護士が日本語レベルを上げないと、思うようなコミュニケーションができないことから業務での成長が滞ることも考えられます。それは、外国人を受け入れる介護施設にとってもデメリットといえるでしょう。
また、日本の生活環境に早くなじむためには、日本語が上手く話せるようになって、職場以外に自分の居場所を見つけることが重要です。言葉が通じなくて寂しい思いが募り、ホームシックから早期に帰国を検討する外国人も多いと聞きます。
実は、日本語の習得と業務には密接な関係があります。「日本語の上達スピード=仕事の上達スピード」と言っても過言ではないほど、外国人介護士にとって日本語の習得や上達は大きなことなのです。
とはいえ、日本語の勉強は努力を必要としますから、できれば勉強したくないという思いが働くのも無理はありません。受け入れる介護施設としては、どうすれば日本語の勉強を継続させられるのか、いろいろな手を考える必要があるでしょう。
例えば、出勤扱いをしての日本語教育や、日本語レベルの上達が給料に反映する仕組みなど、支援や動機付けを行う必要があるかもしれません。
(6)相談又は苦情への対応
1号特定技能外国人(外国人介護士)から職業生活、日常生活、社会生活に関する相談や苦情の申出を受けたときは、遅滞なく適切に応じるとともに外国人介護士への助言、指導など、必要な措置を講ずることが定められています。
相談は個人情報の保護に努めるととともに、相談したことで職場での待遇等で不当な扱いをされないように気をつける必要があります。
そのため、相談や苦情対応の相手方は、職場の直属の上司ではなく、支援担当者でなければなりません。直属の上司の場合は、上記のように不当な扱いを受ける可能性があるだけでなく、外国人介護士は言いたいことが言えずに、そもそも相談できないことが考えられるからです。
また、相談・苦情の対応は、平日のうち3日以上、土曜・日曜のうち1日以上に対応し、相談しやすい環境を整えることも留意事項になっています。
詳細な聞き取りについては、通訳を確保した上での適切な対応が求められます。
なお、相談・苦情への対応は、外国人介護士の離職が決まった後も、特定技能雇用契約がある間は行うことが求められています。
(7)日本人との交流促進に係る支援
外国人介護士が孤立することなく、日本人との相互理解を深められるよう、介護施設では率先して交流の場を設けることが望まれます。
【日本人との交流促進に係る支援】
[義務的支援]
○1号特定技能外国人と日本人との交流の促進に係る支援は、必要に応じ、地方公共団体やボランティア団体等が主催する地域住民との交流の場に関する情報の提供や地域の自治会等の案内を行い、各行事等への参加の手続の補助を行うほか、必要に応じて当該外国人に同行して各行事の注意事項や実施方法を説明するなどの補助を行わなければなりません。○また、1号特定技能外国人が日本の文化を理解するために必要な情報として、必要に応じ、就労又は生活する地域の行事に関する案内を行うほか、必要に応じて当該外国人に同行して現地で説明するなどの補助を行わなければなりません。
(法務省 1号特定技能外国人支援に関する運用要領 —1号特定技能外国人支援計画の基準について— より)
日本人との交流の機会を積極的に設けるために、地域での季節ごとの行事等に参加するなど、年間を通じて交流の支援を行うように定められています。
任意的支援として、外国人介護士が各行事への参加を希望したら、業務に支障を来さない範囲で、実際に行事に参加できるように有給休暇の付与や勤務時間を配慮することが望まれています。
これも単に機会を作ればいいのではなく、外国人介護士が地域の中で生活者として暮らせるようにサポートをする意味があります。日本語の上達とも通じるのですが、職場以外に自分の居場所があれば寂しさが紛れる時間になるでしょう。
また、興味のあることや共通の趣味を持った人とつながって居場所ができるようになれば、周囲の日本人も生活をバックアップしてくれるようになることが多いもの。趣味やスポーツ、地域のボランティアなど、仕事以外の顔見知りや仲間ができれば、コミュニケーションも生まれ、寂しさを忘れてリフレッシュする機会にもなるでしょう。自分が興味のある話題であれば、日本語の上達意欲にもつながります
人と交流することは、寂しさを解消して仕事にも集中できるという、良い循環が生まれるのです。
(8)外国人の責めに帰すべき事由によらないで特定技能雇用契約を解除される場合の転職支援
もしも、就労する介護施設が人員整理をしたり、倒産したりしたら、どうなるのでしょうか? 外国人介護士は、すぐに帰国しなくてはいけないでしょうか?
就労する介護施設の人員整理や倒産など、受け入れ側の都合により、特定技能雇用契約を解除する可能性があります。その場合には、特定技能1号としての活動を行えるように支援することが定められています。
その方法は、所属する業界団体や関連企業等を通じて、次の受入先に関する情報を入手し提供する、公共職業安定所などを案内し、必要に応じて同行し、次の受入先を探す補助をする。また、適切に職業商談・職業紹介が受けられ、円滑に就職活動ができるように推薦状の作成などもあります。さらに、外国人介護士が求職活動を行うための有給休暇を付与することも定められています。
可能な限り、次の受入先が決まるまで支援を継続することが望まれます。
(9)定期的な面談の実施、行政機関への通報
外国人介護士の労働状況や生活状況を確認するため、本人とその上司などに、それぞれ定期的(3カ月に1回以上)な面談を実施することが定められています。
この際、生活オリエンテーションで提供した生活に関する事項や防災・防犯、急病や緊急時の対応などの情報を、必要に応じて改めて提供します。
面談は、外国人介護士が十分に理解することができる言語で行います。
もしも、労働基準法や労働に関する法令の規定に違反があるとわかったときは、その旨を労働基準監督署やその他の関係行政機関に通報しなくてはいけません。また、資格外活動等の入管法違反やパスポートや在留カードの取り上げなどの問題が発生していたら、その旨を地方出入国在留管理局に通報する必要があります。
定期的な面談を行なったら、定期面談報告書を作成し、支援実施状況に係る届出書を届け出る際に添付します。
○定期面談報告書(1号特定技能外国人用)http://www.moj.go.jp/content/001288383.pdf
○定期面談報告書(監督者用)http://www.moj.go.jp/content/001288394.pdf
(参考)
外国人生活支援ポータルサイト(法務省)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri10_00055.html
まとめ〜外国人介護士の受け入れに向けて
特定技能の外国人介護士の受け入れには、法で定められた決まりが多く、複雑に感じるかもしれません。しかし、その苦労をもってしても、介護業界の人材不足解消に役立つことが期待されています。
外国人介護士の受け入れを考えたとき、最初から介護施設ですべての準備を整えるのは難しい場合もあるでしょう。当初は登録支援機関へ業務委託して外国人介護士を受け入れ、時間をかけて自分たちで準備を整える道もあります。
大事なのは、同じ施設で働く仲間として外国人介護士をサポートし、同じ地域で暮らす住民として日常生活を見守り、支援することでしょう。外国人介護士が職場で実力を発揮し、日本でいきいきと暮らす姿は、他のスタッフへの刺激となり、職場の活性化にもつながるのではないでしょうか。
次回は、特定技能による外国人介護士、受け入れまでの手続きの流れについて取り上げます。