新たな人材確保として注目される 介護分野の「特定技能」について Vol.11
人材不足に悩む介護業界にとって、外国人が日本で就労できる在留資格「特定技能」の動きが注目されています。実際に外国人介護士を迎えるまでには、法で定められたさまざまな手続きを踏まなくてはいけません。今回は、特定技能制度による外国人介護士の受け入れまでの流れと手続きについて紹介します。
<目 次>
外国人介護士の就業後、介護施設が行う届け出で注意するものは?
特定技能「介護」人材、今後の動き〜外国人介護士の質が問われる時代へ
目次
外国人介護士、受け入れまでの流れ
在留資格「介護」の外国人介護士を受け入れるには、どのような手続きがあるのでしょうか。
受け入れまでのおおまかな流れは、以下の図のようになっています。
外国人介護士が実際に日本で就労するまでには、「特定技能雇用契約の締結」や「1号特定技能外国人支援計画の策定」など、各段階で所定の手続きがあります。
(出入国在留管理庁 「特定技能外国人受入れに関する運用要領」より)
外国人介護士との契約締結から入国まで
日本の介護施設で就労を希望する外国人は、現地(または日本)で介護の技能と日本語の試験を受けて合格することが必須です(技能実習2号の修了者や、EPAで来日して国家試験に不合格だった外国人を除く)。
一方、在留資格「特定技能」の外国人介護士を受け入れたい介護施設は、日本の受入れ機関としての条件をクリアしていることが必要です。
外国人介護士と介護施設は「特定技能雇用契約」を締結します。同時に、受入れ先となる介護施設では「1号特定技能外国人支援計画」を策定します(*1)。
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1号特定技能外国人支援計画を策定したら、介護施設は地方出入国在留管理局へ「在留資格認定証明書交付申請」を行います。
・申請書(在留資格認定証明書交付申請書)http://www.moj.go.jp/content/001287987.pdf
・申請書(在留資格認定証明書交付申請書)[記載例]
http://www.moj.go.jp/content/001300621.pdf
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在留資格認定証明書を受領したら、受入れ機関である介護施設から外国人介護士に証明書を送付します。
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外国人介護士は、在外公館に査証(ビザ)を申請します。
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外国人介護士が査証を受領したら、いよいよ日本への入国です。
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入国に際して、1号特定技能外国人支援として、介護施設は「生活オリエンテーション」を実施します。
特定技能の査証の申請には、申請書の法定様式や添付書類の参考様式が法務省より示されています。多数の申請書類があるため、法務省では以下の一覧にまとめています。
○特定技能外国人の在留諸申請に係る提出書類一覧・確認表(以下のページに掲載)
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00196.html
また、省令様式は、法務省ホームページよりダウンロードできます。
○法務省 省令様式[全体版]http://www.moj.go.jp/content/001306228.pdf
○法務省 特定技能運用要領・各種様式等
http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri07_00201.html
○法務省 参考様式(全体版)http://www.moj.go.jp/content/001309880.pdf
(*1)介護施設での「1号特定技能外国人支援計画」の実施が難しく、登録支援機関に支援の全部の実施を委託する場合は、登録支援機関と委託契約を結ぶことも可能です。
契約締結から入国までに必要な期間は?
日本の介護施設で就労を希望する外国人は介護に必要な技能と日本語の試験に合格していて、日本の介護施設では採用したい外国人材が決まっていたとします。そして、外国人介護士と介護施設によって特定技能雇用契約が結ばれ、「1号特定技能外国人支援計画」が策定されたとします。
介護施設は地方出入国在留管理局へ在留資格認定証明書の交付を申請するのですが、新たに在留資格「特定技能」で外国人介護士を受け入れる場合には、交付を受けるまでに1〜3カ月程度かかるとされています。また、更新の申請は2週間〜1カ月程度の見込みで受けられるようです。
このように外国人介護士と受け入れる介護施設、それぞれが条件を満たしていたとしても、ある程度の時間が必要になります。外国人介護士の受け入れを考えるなら、早い段階から事前の準備をする、また計画的に導入に取り組むことが賢明といえます。
学習開始から就労までにかかる時間は?
外国人介護士との契約締結から日本入国までの期間は、すでに試験に合格した人材が見つかっている場合のケースです。では、これから介護士を目指して勉強を始める人の場合は、就労までにどのくらいの時間が必要なのでしょうか?
ベトナム人の技能実習生の実績から考えると、日本語能力検定のN4の試験に合格するには早くても半年ほどかかり、平均では7〜8カ月を要します。特定技能では「介護日本語評価試験」と「介護技能評価試験」の勉強が加わります。これらの勉強を進めるには日本語能力をある程度上げなければ難しいため、日本語能力検定がN4レベルになってから、2つの勉強を開始することになるでしょう。
実際のところ、日本語能力検定のN4に合格していないと「介護日本語試験」のための授業についていけないでしょう。ところが、「介護技能評価試験」は、日本以外で受験する場合、その受験国の言葉で実施されるので、日本語能力がゼロでも試験に合格できるのです。
これまで経験のない介護について一から勉強する人が多いのですが、看護師など医学系の知識や経験がベースにある人は、介護についての理解度や習得スピードは早いものです。こうした点でも、就労までの時間には個人差が出てきます。
試験合格まで10カ月、就労までは1年以上
いずれにしても日本語能力試験が一番難しいため、最初は日本語能力試験の勉強に集中し、合格後に介護関係の試験を受けるのが効率的な学習といえます。
勉強開始から7カ月でN4レベルに達したとして、日本で仕事をするならば、さらなるレベルアップを目指すと同時に、介護日本語評価試験と介護技能評価試験の勉強を進めて、合格を目指します。
こうした時間を考えると、学習開始から全ての試験に合格するまでには、平均すると10カ月は必要だろうと考えられます。
必要な試験に合格してから特定技能雇用契約を結んだあと、在留資格認定証明書および査証の交付に必要な2〜4カ月を加えると、学習開始からは早くても12〜14カ月ほどかかると見込まれます。
現地での介護士育成プログラムが始まっている
このように「特定技能の外国人介護士を受け入れたい」と思っても、外国人材がすぐに来日して業務を担うことができるわけではないのです。
また、一定の試験に合格してはいるものの、介護業務のレベルはさまざまで、その質は必ずしも高いとはいえないでしょう。日本での新しい職場・生活環境の中で、外国人介護士がどのくらい力を発揮できるかは未知数ともいえます。
一方で、人材不足が待ったなしの日本の介護現場では、事前教育がしっかりできている人材、即戦力としてすぐに業務を担える人材に来て欲しいと思うのは自然なことです。
こうした課題やニーズを見据えて、日本で即戦力となる質の高い介護士を現地(ベトナム)で育成するプログラムも始まっています。
○外国人介護士の教育・研修(ハンディネットワーク インターナショナル)
https://www.hni.co.jp/education-training/
外国人介護士の就業後、介護施設が行う届け出で注意するものは?
特定技能の外国人介護士の受入れ機関となる介護施設では、さまざまな届け出を行うことになります。その中でも、注意が必要な届け出は何でしょうか?
入管法で義務づけられている以下の届出には注意が必要です。
①特定技能雇用契約を変更、終了、新たに締結した場合の届出
②1号特定技能外国人支援計画を変更した場合の届出
③支援の委託契約を締結、変更、終了した場合の届出
④受入れが困難となった場合の届出
⑤出入国または労働に関する法令に関し、不正または著しく不当な行為を行った場合の届出
⑥特定技能外国人の受入れに係る届出
⑦支援の実施状況に係る届出
⑧特定技能外国人の活動状況に係る届出
上記のうち、①と⑤の届出については届出事由が発生した場合には随時、届出を行います。
また、⑥と⑧については4半期に1度の定期に、郵送か持参により、管轄する地方出入国在留管理局、または支局に届け出る必要があります。
特定技能所属機関(受入れ機関である介護施設)には、特定技能雇用契約や第1号特定技能外国人支援計画等に関する各種の届出が義務づけられています。届出の不履行や虚偽の届出については罰則の対象となるので気をつけましょう。
○法務省 省令様式(全体版)(在留資格認定証明書交付申請書、在留資格変更許可申請書、在留期間更新許可申請書、登録支援機関登録(更新)申請書、登録事項変更に関する届出書、手数料納付書)http://www.moj.go.jp/content/001287987.pdf
日本での就労した外国人介護士が行う届け出は?
特定技能外国人に対しても、各種の届出が求められます。入管法で義務付けられている届出には以下があります。
・住居地を定めたとき及び変更したときの届出
・在留カードの住居地以外の記載事項に変更が生じたときの届出
・受入れ機関の名称・所在地変更、消滅の届出
・受入れ機関との契約終了・新たな契約の締結に係る届出
住居地に係る届出は市区町村の窓口で在留カードを提出して行い、在留カードの記載事項に係る届出は地方出入国在留管理官署の窓口で届出書を提出して行います。
受入れ機関に関する届出は地方出入国在留管理官署の窓口で届出書を提出、または東京出入国在留管理局宛てに届出書を郵送して行う必要があります。
特定技能外国人や受入れ機関である介護施設が行う届出は、今後、インターネットによる届出ができる可能性があり、その時期については出入国在留管理庁ホームページ等で案内されます。
届出を怠ると在留資格が取り消される場合も
もしも、特定技能外国人に各種届出義務を履行していない状況が発覚した場合には,届出を行うように指導されることになります。
しかし、住居地に関する届出を怠った場合は、罰則の対象となるばかりでなく、住居地に係る届出事由が生じた日から90日以内に届出を行わなかった場合は、在留資格取消しとなる可能性があるので注意が必要です。
また、在留カードの住居地以外の記載事項変更に係る届出と受入れ機関の変更に係る届出を怠った場合は、罰則の対象となります。
一方、受入れ機関である介護施設が必要な届出を怠った場合は、欠格事由(不正行為)に該当するほか、罰則の対象となります。
また、登録支援機関が必要な届出を怠った場合は、登録の取り消しの対象となります。登録が取り消されれば、登録拒否事由に該当するため、以後5年間は登録支援機関になることができません。
特定技能「介護」人材、今後の動き〜外国人介護士の質が問われる時代へ
2019年(平成31年)4月に新設された在留資格「特定技能」について、11回にわたり紹介してきました。
緊急課題となっている介護人材不足の解消として、外国人介護士の活躍が期待されています。すでに他分野では特定技能の外国人材が日本に上陸し、業務を開始しています。この制度を契機に、介護業界においても海外の介護人材の導入が進んでいくことでしょう。
今後、外国人介護士が増えていくと、介護業務やコミュニケーション能力など、質の高い人材の見極め等も重要になっていくはずです。海外における介護と日本語を学ぶ教育機関で、そうした人材をリクルートする方法が一般的になることも予想されます。
「うちの介護施設でも外国人介護士を受け入れよう!」と考えたときに、「これから1年以上かかるのか。それまで現場がもつだろうか・・・」と困らないためには、今から準備が必要です。そのためには、この分野の情報にアンテナを張り、継続してキャッチしていくことが大切です。
(参考)
特定技能制度で介護人材の受け入れを検討している介護施設や事業所関係者を対象として、公益社団法人国際厚生事業団が説明会を実施しています。
○厚生労働省:介護分野における新たな外国人材の受入れ(在留資格「特定技能」)について
4.制度説明会・交流会の開催
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_000117702.html
○法務省:新たな外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(在留資格「特定技能」の創設等)http://www.moj.go.jp/nyuukokukanri/kouhou/nyuukokukanri01_00127.html