【スペシャル対談 vol.4】― 2019.4.1 ―
2019年、出入国管理法の改正によって、外国人労働者の働き口として介護業界が注目を集めています。そうした動向に対して、「新法案が始動、これからをどう生き抜く?ニッポン人。」をテーマに【スペシャル対談vol.4】としてジャーナリストであり国家基本問題研究所の理事長を務める櫻井よしこさんにお話をうかがいました。
春山 今日は、国家基本問題研究所の理事長として日本政府に対して様々な政策提言をされている櫻井さんに、今回の出入国管理法の改正についてのご意見をうかがいたいと思います。まずは、私の父・春山 満との出会いについて、改めて聞かせてください。
櫻井 お父様と出会ったのは、もう何十年も前のことになります。日本航空の方から、非常に面白い人がいるからぜひ会って欲しいと紹介していただきました。お父様は、仕事に対する姿勢がとても立派な方でした。日本の高齢者は惨め過ぎる。一生懸命働いて、人生の一番最期の段階になって老人ホームでしょぼしょぼと生きるのは間違っていると。日本人ひとり一人が、最期まで輝いて生きる人生を可能にするのが自分の夢だと語っていらっしゃいました。誰に対しても物怖じしない、主張のはっきりしている方でしたね。
春山 その後も頻繁に父とお付き合いいただき、わたしの留学相談にも乗っていただきました。櫻井さんには、家族ぐるみで大変お世話になりました。
櫻井 こちらこそ、お父様には母の介護について色々なアドバイスをいただきました。12年半、要介護5の母と一緒に暮らしましたが、最初はできないことが増えていく母の姿を見て、悲しい気持ちでした。そうしたらお父様から、なくなった機能を嘆いてはいけない。残っている機能だってまだたくさんあるのだから、それを使いなさい。歩ける人も歩けない人も普通の人間なんだから、前向きに考えた方がいいですよと言われて。それは、春山さんご自身が歩んできた道でした。そのお話をうかがって、そうか、母は歩けなくなったけど、以前と全く同じ母なんだ、ということにハッとしました。介護するという意識がなくなって一緒に暮らしているという意識に変わることで、気持ちが随分ラクになりましたね。
春山 わたしは、生まれたときから父は車椅子に乗っていて、父の立った姿を見たことがありません。でも、それが当たり前だったので、父を介護するという意識を持ったことがないのです。そういう意味で、自然な形で父とは一緒に暮らしているという気持ちしかありませんでした。おかげで、仕事に対しても、介護は苦労することや特別なことだという先入観を持たずに取り組めていると思います。
良き社会の一員として外国人を受け入れるために整えること
春山 父がもっとも影響を受けたのは、福祉先進国と言われる欧米各国の介護事例でした。わたしも何カ国か介護施設の見学に行きましたが、そこでは、外国人の労働者が普通に働いていました。アメリカではとくにフィリピン人が多く働いていました。これも日本にはない状況でしたが、今ようやく、出入国管理法(以下、入管法)の改正により単純労働者として外国人を受け入れる制度がはじまりました。これについて、櫻井さんは国家基本問題研究所から付帯決議をされています。どういった内容のご提案になりますか。
櫻井 外国人の一般永住者の資格要件として、入管法第22条を厳格に運用してくださいということを提案しました。一般永住者がそのまま住み続けて、何年かしたら簡単に国籍をとれるようになることは危険だと思っています。むやみやたらに規制はしなくてもよいと思いますが、きちんと審査をする必要があります。永住権を認めるということは、家族の一員にするということです。家族にしたい人としたくない人は、誰しもいますよね。例えば、犯罪を犯した人とか。日本ではすでに、多くの外国人が働いています。その中には、留学生という形で在留資格を手に入れて、学校に入学してすぐ行方をくらます人も多くいます。こうした人たちの正確な数はなかなか把握できませんが、今も社会のどこかで暮らしているのです。その他にも歴史的な経緯で、朝鮮半島の人たちが日本国籍を持たず、3代目・4代目とずっと暮らしている事例もあります。さらに今は、中国人が大変な勢いで増えていて、その数約80万人と言われています。これは、日本最大の外国人人口になります。日本は外国人を排斥してきたわけではないので、お互いにルールを守って暮らせるのであればよいのですが、現実はそうではない面もある。だから日本政府はまず、実態把握をしなければなりません。これも、今回の法律の目的のひとつだと思います。そこで決議案では、まずは、すでに日本で暮らしている外国人をさかのぼって調べましょう。その上で、きちんとした資格を持って働く外国人たちを受け入れましょうと提案しました。それが、日本人にとっても、外国人にとっても、良い暮らしにつながります。
春山 今回の櫻井さんの決議内容を拝見して、まさに日本の未来のための内容だと感銘しました。わたしは4年前から、外国人労働者を育成するプロジェクトに関わっています。最初は制度の内容から勉強をはじめて、今はベトナムの研修現場にも足を運んでいます。ベトナム実習生の研修現場を見て驚いたのは、瞳が輝いてる人たちが本当にたくさんいたことです。年配の日本人の方をそこにお連れすると、昔の日本人を見ているようだと皆さん感動されます。これまで日本が受け入れていた外国人労働者は建築関係などで男性が多かったのですが、今回は介護なので女性が多いのも特徴です。看護師の資格を持っている女性が対象になっていて、中には、子どもと夫を自国に置いて日本にやって来ます。子どもに良い教育を受けさせたいと、目的も明確です。わたしは自身の立場として、こうした労働意欲が高い彼女たちのための環境づくりの必要性を感じています。もちろん、大きなルールは政府が決めることですが、まずはわたしたち民間人が受け入れるための環境を整えないと、けっきょく法改正が絵に描いた餅でおわってしまう。日本人はまだひと昔前の考え方で、働かせてやるという意識の人が多いと感じています。ですが、彼女たちはスマホを持っているので、労働環境が良くないと、日本の良くない噂が一瞬で世界に広がってしまいます。
櫻井 その通りですね。今、むやみに一般永住者が増えたのは、橋本龍太郎内閣のときの規制緩和が原因です。そのときの規制緩和により、学生じゃないような学生が日本へ来て、10年住んだら安易に永住者になれるような仕組みができたからです。これは事実上の移民ですよね。いつの間にか、一般永住者が75万人に増えて、その多くが中国人という状況です。この人たちは選挙以外のことはすべて、生活保護も年金も、日本人と同じ権利があります。日本に対して政治活動もできます。でも国籍は中国で、いざとなれば中国へ逃げることができるんです。中国人永住者の数が自衛隊の数よりも多いということを、はたしてどれだけの日本人が知っているでしょうか。日本は決して扉を閉ざすわけではないけれど、扉を開けるにしても、ルールを守るきちんとした仲間を受け入れる必要があります。
春山 それについては、留学生の受け入れ団体が諸悪の根源のひとつのように思います。わたしがアメリカ留学をしたときは、ビザの関係でアルバイトができませんでしたし、入学費や生活費などお金もけっこうかかりました。だから日本に、所得が低い東南アジアの人がたくさん来ているのが不思議でしょうがなかったです。
櫻井 わたしもそう思います。留学するための現地送り出し機関と日本の受け入れ機関に問題がありますよね。本来であれば、留学するためにはある程度の日本語を習得しなければ資格をもらえないはずですが、アジアの国々の日本語学校の実態を調べてみると、日本語を話せない先生しかいないところさえあります。お金は預金残高の証明が必要ですが、これも全部偽造といっていいくらいだそうです。結果、偽の語学力証明書と預金通帳を持って、彼らは借金をして日本に来るわけです。
春山 そうですね。日本の受け入れ機関も、事実上資格がないことをわかっていながら留学生を受け入れています。なぜならば、文部省から補助金が降りるから。送り出し機関の方も、ひとり10万円程度もらえるそうです。そうすると、50人の留学生で500万円相当を受け取れることになり、これはベトナムでいうとかなりの大金です。
櫻井 日本側と自国側の機関はそれでハッピーですが、困るのは留学生です。彼らは日本語をまともに話せず、借金を抱えて日本にやって来ます。日本では留学生でも週28時間働けるので、借金を返すために、アルバイトを2つも3つもかけ持ちするわけです。するともうヘトヘトで、勉強どころではないですよね。しかも、仕事は足元を見られて安い賃金のところにいかざるを得ない状況です。だから、一定の期限を過ぎ資格が切れると、そのまま社会のどこかに隠れて見えなくなってしまう。こうした行方不明者が何十万人といるわけです。日本に来る人たちには日本を好きになってもらいたいのに、日本は反対のことをしています。今後は、留学生の受け入れ機関は徹底的に情報公開をしていただき、健全な仕組みを整えていただく必要があります。
春山 おっしゃる通りです。入管法が改正されて、一番あたふたしているのは留学受け入れ団体でしょう。特定技能というあたらしい在留資格ができますが、彼らはそこに参入してこようと必死です。今まで、日本は単純労働者として外国人を受け入れることができなかったので、留学生という枠で受け入れてきました。諸外国の人たちは、月に30万円稼げるよと言われて、借金をして日本へ来ていたのです。でも、週28時間で月30万円を稼ぐのは事実上不可能です。そうやってだまされて、働いても働いても返せない結果、櫻井さんがおっしゃるように、行方をくらませて別のところで働いたり、悪いこともせざるを得なくなる。この巨大なビジネスの構造に、“こいつらええ加減にせえよ”と思います。
櫻井 わたしも言いたい。“こいつらええ加減にせえよ”って(笑)。彼らは大いに反省しないといけませんね。
春山 本当に、いままでのやり方を思い切って変えないと、こんなにすばらしい日本という国が海外の人から選ばれなくなってしまいます。
五箇条の御誓文を胸に、日本人としての誇りを取り戻す
春山 櫻井さんは2月に、『問答無用』(新潮社)という非常に強いメッセージの書籍を出されました。ここには、どういう内容が書かれているのでしょうか。
櫻井 わたしは言論人なので、本来は賛成の人も反対の人も、言論を重ねて理解を深めて結論に達するのが一番良いと思っているのですが、そのわたしがこの度、「問答無用」という非常に強いメッセージの本を出しました。それはなぜかというと、今日本を取り巻く国際情勢が非常に厳しい状況にあるからです。まず、日本の後ろ盾だったアメリカが大きく変わり、本当に後ろ盾であり続けてくれるのかどうかがわからなくなっています。その隙に、中国がどんどん勢力を伸ばしています。中国は、今はアメリカに追い詰められているので日本に対して微笑外交を展開していますが、立場が変わればすぐに日本に対して厳しい姿勢で臨んでくるでしょう。朝鮮半島も、韓国の文在寅大統領が3.1独立記念日を前に、金九という日本に対して独立運動を行なっていた主導者のひとりの記念館で閣議を行ない、反日の決意をあらたにしています。朝鮮半島が北朝鮮主導で統一国家に向かう可能性も否定できなくなりました。38度線がある種の緩衝地帯だったのが、南北朝鮮が一体化することで、核を持った朝鮮半島ができる可能性もあります。
春山 そうすると、日本の周りは反日だらけになってしまいますね。
櫻井 その通り。朝鮮半島は基本的に反日で、その後ろに中国が控えているというような、日本にとって大変こわい国際情勢が生まれる可能性が少なからずあるわけです。そういったときに、日本の国民を守り、国土を守るのは誰なのかと。日本政府を頼りにしたいところですが、今の政府にそれをする力があるのかというと、正直言ってありません。さきほども話しましたが、今の日本は、自衛隊員よりも日本に住んでいる一般永住者の中国人の方が多い状況です。その人たちをコントロールすることすらできていないのです。もし、中国がなんらかの形で日本に手を伸ばすことがあれば、どうしようもできなくなくなってしまうでしょう。日本は今、そのような危機に面しているので、まずは自分たちを守る体制をつくりましょう、もう待ったなしですよというのが問答無用の心です。
春山 なるほど。具体的には、どのようなメッセージになるのでしょうか。
櫻井 国家の力は、経済力、国民の意思の力、軍事力、この3つなんです。経済力は日本は世界第三の大国ですから大丈夫とは思いますが、国民の意思はどうでしょう。テレビのワイドショーで色々な人が政治についてコメントしていますが、平和と言っておけばいいみたいな風潮を感じます。物事の一面しか語らず、全体像を眺めて考えているのですかと問いたい。また、いざ国民が一致団結して日本を守ろうと思っても、軍事力がないとできないわけですが、自衛隊が普通の軍隊として働こうとしても、憲法の縛りがあって動けません。いまだに日本は専守防衛と言っていますが、これはサッカーに例えると、全員がゴールキーパーなんです。ぜったいボールを入れさせないぞと、ゴールの前でスクラムを組んでいる中、相手はどんどんボールを蹴ってくる。ある程度は守れるかもしれませんが、ちょっとほころびがあったらすぐさま点を入れられます。でもこちらからは、何があっても点を入れられないわけです。だから日本は、必ず敗れる側に立つことになります。
春山 今はとくに、情報を制すものが勝つ時代になりました。
櫻井 そう、コンピューターの時代ですから、ハッキングされたら電力、通信手段はぜんぶ遮断され、交通手段も、銀行機能も、政府機能も麻痺させられかねません。そこではじめて攻撃していいですよと言われても、もうお手あげ状態です。つまり、今の時代は先に攻撃をした方がやすやすと勝つんです。そんな時代になったにも関わらず、日本はまだ憲法を一文字たりとも改正していません。こんなことで、日本を守れるはずがありません。わたしは、祖国である日本が大好きです。だから、他国を攻めるという意味ではなく、大好きな日本を守るために、自国を自分たちで守りましょう。そのために、一日でも早く憲法改正をしましょうと提案しています。ですが野党は、安倍内閣のもとでは法改正をさせないとか、時期尚早だとか……。“ええ加減にせえよ”と、わたしは思いますね。ええ加減にせえよ=わたしなりの「問答無用」ということです。
春山 櫻井さんがおっしゃることに、わたしも同感です。さきほどの法改正やAIの進化など、ガラリと環境が変わるのがこれからの時代の特徴だと思うのですが、最後に、外国人やAIと肩を並べて、わたしたち若い世代が選ばれる日本人となるために、時代を生き抜くアドバイスをください。
櫻井 世界はあたらしい局面に入っています。そしてこの進化は、もっともっと進んでいくでしょう。様々な情報が行き交う中で自分の人生をまっとうするためには、芯の部分が日本人でなければなりません。わたしたち日本人が日本についての知識をもっと深めないと、日本文学を読んだことがない、歴史も知らないという根無し草では、外国人のいうことを信じるばかりで、彼らにくっついていく浮き草のようなもの。そうであっては、彼らにとっても良き友人にはなれないでしょう。日本は260年間という鎖国の中で、世界を知らない時代、戦争を知らない平和な時代、工業化を知らない時代を長く経験しています。そのため、明治政府をつくった人たちは、このままでは黒船でやって来た人たちに食いつぶされてしまうと案じて、五箇条の御誓文を発布しました。春山さん、ご存知ですか。
春山 五箇条の御誓文ですか。学校で習った記憶はありますが、恥ずかしながらパッと浮かんでこないです……。
櫻井 言ってみましょうか。
「広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スベシ」。
(ひろくかいぎをおこしばんきこうろんにけっすべし)
これは、広く会議を起こしてみんなで議論をして決めなさい。なぜならば、一番大事なのは国民で、国民こそが国の宝です。あなた方ひとり一人が国をつくっているのですよ、ということを説明しています。
「上下心ヲ一ニシテ盛ニ経綸ヲ行フベシ」。
(じょうかこころをいつにしてさかんにけいりんをおこなうべし)
これは、身分の高い人も低い人も盛んに政治経済を論じなさい。
「官武一途庶民ニ至ル迄各其志ヲ遂ゲ人心ヲシテ倦マザラシメン事ヲ要ス」。
(かんぶいつとしょみんにいたるまでおのおのそのこころざしをとげじんしんをしてうまざらしめんことをようす)
政府中枢から国民ひとり一人におよぶまで、心を病むことなく、みんながいきいきと志を遂げられるような政治をしなさい。
「旧来ノ陋習ヲ破リ天地ノ公道ニ基クベシ」。
(きゅうらいのろうしゅうをやぶりてんちのこうどうにもとづくべし)
役に立たなくなった制度や考え方を破り捨て、世界にあまねく通用する普遍的な価値観に基づいて政治を行いなさい。
「智識ヲ世界ニ求メ大ニ皇基ヲ振起スベシ」。
(ちしきをせかいにもとめおおいにこうきをしんきすべし)
日本は約2700年もの間、皇室を権威としてその下で政治を司り、相補い合って平和で穏やかな文明国家を築いてきました。この国柄を、大いに盛り立てなさい。日本に閉じこもることなく、知識を広く世界に求めなさい。
春山 なるほど、まさに今の日本に必要な精神が詰まっていますね。
櫻井 こうした精神をもう一度取り戻すことが、今の日本人に必要なことだと思います。
春山 とても勉強になりました。わたしも父から、歴史をしっかり学びなさいと言われて育ちました。櫻井さんのお話を受けて、江戸の終わりから明治のストーリーについて、改めてしっかり心に留めたいと思います。まずは今日のことを、仏壇の前に立って父に報告します。
櫻井 人のつながりはうれしいことよね。「お父さん、ありがとう!」って言わないとね。わたしも、今日のことは亡き母に報告します。
ゲストプロフィール(対談が行われた2019年4月1日現在)
櫻井 よしこ
ジャーナリスト、国家基本問題研究所理事長。クリスチャンサイエンスモニター紙の東京支局で助手としてジャーナリズムの仕事を始め、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」の記者、東京支局長、NTVニュースキャスターを経て、現在に至る。2007年にシンクタンク、国家基本問題研究所を設立し、国防、外交、憲法、教育、経済など幅広いテーマに関して日本の長期戦略の構築に挑んでいる。新著に『問答無用』(新潮社)他、著書多数。