介護分野の人材不足解消のため、外国人に門戸が開かれて以降、徐々にではありますが外国人が介護現場で働くようになりました。当社も複数の介護施設様に対して、特定技能などで入国してきた外国人介護士の受け入れ支援を実施して参りましたが、そんな中で様々な課題やトラブルに直面し、その対応に苦慮いたしました。外国人介護士に住んでもらう住宅を用意するなかで、事前準備の大切さは理解していましたが、それが人間関係にまで影響を及ぼすことを、その時は考えもしませんでした。
住宅は一番大切な生活基盤
初めて日本に来る外国人介護士にとって、住宅は心の拠り所となります。まだ日本語も上手ではなく、職場に慣れるにも時間がかかる。身近に頼れる人はいない中で、ほっと出来る空間があることは、心穏やかに生活するための必要不可欠な要素です。特定技能などで入国してくる外国人介護士に対しては、日本語教育や介護教育に目が行きがちです。しかし、心穏やかに生活できないと、これらの教育に力を入れても気持ちがついて行かないのです。
そこで、絶対に忘れてはならない設備があります。それはWi-Fi設備を導入することです。ほぼ全員が、スマートフォンを母国から持参します。しかし、発展途上国の若者から見れば、日本の通信費は目が飛び出るほど高額です。寂しさを紛らわせるために、動画を見たり、家族や友人と連絡を取ったりしたいと思っています。Wi-Fi環境が整っていれば、動画を見たり家族や友人に連絡したりすることができるので、不安や迷いのはけ口となり、心のバランスを取ることが出来るのです。
この他にも、家具や家電・生活用品の準備も必要です。こちらは新品でなくても大丈夫。受け入れが決まってから、定期的に法人内のスタッフに
『 買い替え予定があれば中古品を譲って欲しい 』
と伝えておけば、ある程度の物品は集まります。あとは不足する物だけ新品を用意すれば良いのです。ついでに冬服の提供もお願いしましょう。ベトナム・フィリピン・インドネシアなど気温が高い国から来る外国人は、日本の寒さを想像できないからです。こうした心遣いも、外国人介護士の心を支えることに結びつきます。
基本は共同生活
外国人介護士を受け入れている介護施設様の多くは、1度に複数人を採用し、共同生活をしてもらっています。日本人だと個室が当たり前ですが、日本にお金を稼ぎに来ている彼ら彼女らにとっては、共同生活をする事で住宅関連の経費を軽減できる方が、ありがたいのです。
但し、どんな住宅でもOKというわけではありません。基本的な規定がありますので、それを遵守しなければなりません。例えば、特定技能ですと居室の広さが、一人当たり7.5㎡以上という面積基準が存在します。複数人の場合は人数を乗じた面積が必要です。ここで問題になるのが「居室」が何を意味するかです。建築基準法によりますと、
『 居住、作業、娯楽などの目的のために継続的に使用する室のこと 』
これでは何のことかわかりませんよね。よりわかりやすくするために、居室としてカウントされない場所を示したいと思います。
『 玄関・廊下・浴室・脱衣室・トイレ・収納・洗面設備・台所設備・ロフトなど 』
上記の場所を除いた面積を計算し、規定をクリアしているか確認しましょう。
衛生面や設備など、居住できる環境でなければならないのは当然として、これ以外の規定はありません。戸建てでもマンションやハイツといったタイプでもOKです。
介護職には夜勤がありますので、出入りする際に寝ている人を起こさないよう、部屋の出入り口が2ヵ所あったり、カーテン等で間仕切りができたりと、工夫をしてあげると更に環境が整います。
あと、若い女性が多いと思いますので、治安の面からも設備や居住地や階高を検討すると良いでしょう。
共同生活の鍵は人間関係
「同じ国の若者同士が一緒に暮らすから、安心だろう」
このように考えたことが、当社の大きな間違いでした。発展途上国から日本に来る若者の多くは、大家族だったり、学生時代から友人達と共同生活をしていたりと、1ヵ所で複数人と暮らすことに慣れています。それを知っていた当社では、共同生活にルール作りが必要だとは夢にも思っていませんでした。
具体的な反省点として挙げられるのが、掃除と異性に関することでした。
当初、掃除のルールは「休みの人が行う」という、曖昧なものでした。4人で生活していたので2人が休みだった場合、どちらか1人が掃除をするのか、それとも2人でするのか、決めていませんでした。そうすると、掃除をする子としない子が出てきて、不公平が生まれました。また、掃除のやり方も十人十色。掃除をした・していないで口論になりました。
次に、異性を部屋へ連れ込むということが発生しました。連れ込んだ子にとっては知り合いでも、他の子にとっては赤の他人です。異性の目があると部屋で落ち着いて過ごせないことから「やめて欲しい」との訴えがありましたが、ルールが無かったので逆に「なぜダメなのか?」と問われてしまいました。
こうなると人間関係が崩壊していくスピードは速いものです。やがて特定の子へのイジメへと発展したために、当社と施設側が強制力を持って介入することとなりました。
結果として、掃除や異性関係など、その他も含めて細かいルール作りがおこなわれました。仲直りをすることは無いと思いますが、一応、平穏を保っています。
もし、最初にある程度のルールを作っていたら、今のように厳しいルールを作らなくても、人間関係の中で弾力的に運用できたと思います。この教訓を生かした他の介護施設様では、特に問題は発生していないからです。
最後に
住宅のこととは少しズレますが、特定技能などで外国人介護士を受け入れる際に、もう一つ注意すべき点があります。それは、居住する地域によって外国人を敬遠する場合があることです。先入観というものは厄介で、「大声を出すのでは?」とか「ゴミやマナーは大丈夫か?」といったことなど、様々な懸念が出てきます。
しかし、これは事前に根回しをしておけば大丈夫です。外国人介護士が居住すること、そして何かあれば法人担当者へ連絡するように窓口を設けることなどをおこないます。また、根回しとは地域住民だけでなく、居住する本人たちへの教育も含まれます。
しっかりと挨拶する。地域のルールを守る。自治会のゴミ掃除や祭りの準備などにもしっかりと参加していると、地域住民の見る目が変わってきました。やがて自分たちの孫のように可愛がってくれる住民も現れました。時に厳しい指摘を受けることもありますが、それは若者への期待の裏返し。しっかりと対応すれば信頼は更に深まるのです。手順を踏めば恐れることはありません。このコンテンツをお読みいただき、勇気をもって特定技能など様々な制度に基づく外国人介護士の採用に踏み出していただければ幸いです。