外国人介護士とのトラブル発生! 特定技能だから解決できるその手法とは?

日本人と外国人。文化が異なる両者が同じ場所で仕事をするのですから、トラブルが発生しないと考えるのは、無理があります。トラブルを恐れていては何も前に進みません。ただ、トラブルに目をつぶっているだけでは事態が悪化するだけです。トラブルが発生することを前提に、どうしたら大きなトラブルに発展しないか。その芽を早く摘み取ることが大切です。当社も複数の介護施設様に対して、外国人介護士の受け入れ支援を実施して参りましたが、そんな中で様々な課題やトラブルに直面しました。その対応に際して上手く物事が運んだ事例には、共通点があることに気づきました。

トラブルの芽

初めて日本に来る外国人介護士も、初めて受け入れる日本側も、最初はお互いに緊張しています。受け入れる日本側も、入国前そして入国直後には、あれやこれやと外国人介護士に対して気遣いをすることになります。しかし、入国後数ヵ月が経過し、外国人も日本の生活や職場に慣れ、日本側も外国人介護士が存在している環境に慣れてきたころ、ズレや擦れ違いが発生します。

入国直後は意思疎通が出来ないことを前提に、お互いが注意をしてコミュニケーションを図っていました。それが数ヵ月も経過すると、意思疎通が出来ている(と勘違いして)ことを前提に、コミュニケーションを図るようになります。そうすると、
<日本人の言い分>
「わかった」と返事をしたのに、全く理解していない! と、怒ったり注意したりします。
一方の外国人介護士側からしますと、
<外国人介護士の言い分>
なぜ怒られるのか、なぜ注意されるのか、理解できない! と、最初は悩み、やがて不満へと変わっていくのです。

トラブル発生!

当社は何度も施設を訪問して外国人介護士と顔を合わせていました。そうすると、何か不満が溜まっていることがわかりました。直接本人に聞いても話そうとしませんが、明らかにサインは出ていました。そのことを当社から何度も法人の担当者へ伝え、具体的に何が不満なのか情報収集をするべきだと伝えましたが、聴く耳を持っていただけませんでした。当社も積極的に踏み込むべきだったと猛省した事案に発展しました。 

口火を切ったのは外国人介護士でした。
「介護の仕事が出来るようになったのに、なぜ給料が上がらないんだ!」という不満を口にするようになりました。そして、法人本部の担当者の言うことは聞くものの、現場の教育担当者の言うことを、明らかに無視し始めたのです。この話は以前より、施設側と外国人介護士側で話が出ていました。しかし、施設側は
「給料は1年間同じである」「がんばっているのはみんな同じ」など、外国人介護士の「なぜ」に回答出来ていませんでした。
後でわかったのですが、このようなコミュニケーションのズレや擦れ違いは多数ありました。給料の話はその1つに過ぎず、訴えやすいと思ったから持ち出したようです。

第三者の活用 ~トラブル原因を探すために~

介護施設様からのSOSを受け、当社が提案したのは「第三者の活用」でした。当社が第三者となり、当事者間に割って入って調整することにしたのです。第三者だからこそ冷静に問題点を認識することが出来ます。第三者だからこそ双方に対して、公平に話をすることが出来るからです。
この際に気をつけたことがあります。介護施設様より依頼を受けましたが、介護施設様に落ち度がある場合は正直に指摘することを前提とさせていただきました。なぜなら、そうしないと外国人介護士が当社を信頼して、心を開いてくれないからです。

まずは訴えがあった給料のことで間に入りました。初めに、外国人介護士が給料に対してどのような不満を持っているか、ヒアリングを行いました。
「入社時と比べて仕事が出来るようになったのに、なぜ給料が上がらないのか?」
「同じ仕事をしている日本人や、他の介護施設で働いている友人はボーナスがあるのに、なぜ自分たちはボーナスが無いのか」
といった不満が出てきました。

それを受けて、今度は施設側にヒアリングを行いました。給料の支給額や内容・昇給降給・その他の基準について細かく説明を受けました。それと合わせて、外国人介護士の勤務状況に対する評価も聞きました。また、なぜボーナスが無いのか? 確認するようにお願いしました。

第三者の活用 ~トラブルの修復に向けて~

一通りの確認が終わってから、外国人介護士へ説明をおこないました。
丁寧に「なぜ」を説明しました。給料明細を見ながらそれぞれの意味を説明し、給料の支給基準を説明する時は、仕事の評価も併せて説明しました。外国人介護士は自分たちが「介護の仕事が出来ている!」と思っていますが、具体的に何が出来ていて、逆に何が不足しているのかを説明しました。
給料を上げるのに一番早い手段は、夜勤ができるようになることです。しかし、夜勤ができるようになるには、いくつものハードルがあります。「あなたにはこれだけのハードルがある。このハードルを超えることが出来たら、給料はこれだけアップします」と道筋を見せてあげると、目に光が戻りスッキリとした顔つきになりました。
また、外国人介護士を受け入れるに当たり、日本人には無い優遇をしていることも説明しました。日本人だと社宅が用意されたとしても、家具や家電までは用意してくれません。外国人介護士の場合は、家具・家電だけでなく、生活備品・Wi-Fi設備・自転車・冬服なども用意して迎え入れています。給料という形ではありませんが、金銭的な負担を介護施設もしていることを、説明しました。

逆に、ボーナスについては介護施設側の姿勢を問いました。支給する・しないが曖昧にされており、誰も明確な説明が出来なかったのです。ある基準に基づき外国人介護士にも支給されることが決定しました。
このような形で、当社は双方に対して公平な役割をしました。(もちろん、予め施設様とは方向性の確認をしています)

人間関係に原因があるようなデリケートな問題の場合には、当事者間で話をするよりも第三者から伝えた方がお互いに冷静に話を聞くことが出来ます。逆に、ルールの解釈に原因があるような場合は関係者全員を同じ場所に集めて、言った・言わないが無いように、第三者である当社が証人となる形で、全員で確認をしました。また、明らかに外国人介護士が悪い場合は、当社から厳しく指摘したり叱ったりして、第三者である当社が悪者になりました。そうすることで外国人介護士と日本人スタッフの間にギスギスした雰囲気が生まれないよう、工夫しました。

このようなことは、全て介護施設様と打ち合わせをした上で当社が行ったのです。以後は当社という第三者が、エンジンに対するオイルのような役割で介在することによって、不要な摩擦を生み出さずに円滑な施設運営が出来るようになりました。

適切な“第三者”とは

都合よく第三者が見つかるだろうか・・・
そのように考えられるのは理解できます。なぜなら特定技能でしたら「登録支援機関」、技能実習でしたら「監理組合」が外国人介護士の支援や監理をしていますが、介護現場のことを熟知している団体は、そう多くは無いからです。
介護現場は他の職種と異なり、教育担当者の目が行き届きにくいという現実があります。例えば技能実習生の場合、教育担当者の目の届くところで仕事をさせなければなりません。しかし、ユニットケアだと、実習生5人に1人の割合で教育担当者を配置した場合、全員の業務を同時に見ることは不可能です。トラブルの原因もズレ・擦れ違い・連絡や報告ミス・女性が多い職場特有のものだったりするなど、独特です。登録支援機関や監理組合が介護を熟知しているのなら、彼らの力を大いに利用するべきです。しかし、熟知していないのであれば、熟知している第三者を見つける方が良いでしょう。

最後に

コミュニケーションの擦れ違いについて、言った口が悪いのか、聴いた耳が悪いのか、議論は分かれるところです。しかし、自分自身に責任があると考えないと物事は好転しません。外国人介護士とのコミュニケーションに悩んだら、まずは自分が(日本人側が)改善策を考えるべきでしょう。なぜなら、介護の仕事をするために日本に来てくれる外国人介護士の多くは若者です。20歳代前半の新卒の子もいます。大人である日本人側が上手く誘導してやることが、社会人教育の一環となるのです。若者への教育は、国境を越えた万国共通の宿題だと考えるべきでしょう。そうすると、日本人の若者も外国人の若者も同じです。国が変われば文化や価値観は変わりますが、世代が変わっても同じです。
「若者を育てるのは苦労する」
それは何時の時代も変わりません。であるなら、外国人だからと恐れることは時間の無駄なのかもしれません。