技能実習生の失踪、2割を検査せず 会計検査院の報告
全国紙(読売・朝日・毎日・産経・日経)によると、外国人技能実習生の受け入れ企業・団体などを監督する「外国人技能実習機構(以下、「機構」と言います)」が、2019年4月~9月の半年間で発生した実習生の失踪事案のうち、約2割で実地検査をしていないとする会計検査院の報告書(7月16日付)の内容を伝えました。報告書によりますと、失踪事案3,639件のうち約2割に当たる755件が、半年後の2020年3月末時点でも実地検査されていませんでした。そのうち557件は、賃金台帳やタイムカードなどの客観的な証拠ですらも入手できていないなど、機構の杜撰な検査状況が報告されています。
外国人技能実習機構とは
2017年に技能実習生の保護などを目的とする技能実習法に基づいて、法務省と厚生労働省の所管の下に設立されました。
参照:外国人技能実習機構より https://www.otit.go.jp/about/
上記業務に加え、今回の会計検査院の報告書のように実習生が失踪した場合には、受け入れ企業や団体に問題点が無かったか実地検査する役割を担っています。
なぜ実地検査ができないのか
会計検査院の報告書によると、機構は実地検査が出来ない理由を「失踪者数が膨大だから」と説明しています。また、新聞社の取材に対し
• 検査担当者が約220名なので、全てを即座に対応することが困難
• 既存の失踪事案の処理は進んでいるが、新たな失踪事案も生じるので同時並行で処理せざるを得ず、常に2~3割は即座に検査できない
と述べています。
実地検査ができないと問題なのか?
朝日新聞によると、会計検査院の担当者は「時間がたてば証拠が散逸し、労働環境の実態把握が難しくなる。実習先の問題の指摘が遅れれば新たな失踪が繰り返されることになりかねず、悪循環になる」と指摘しています。
つまり、失踪者を出すような悪い受け入れ企業・団体に時間的猶予を与えると、実習生の失踪原因となった証拠を隠滅・改竄されてしまいます。そうすると、
• 既存の実習生が更に失踪する
• 新たな実習生の受け入れを拒否できない → 新たな失踪者の予備軍が生まれる
悪意ある確信犯を野放しにしてしまう結果、悲劇が繰り返されるのです。
技能実習制度に関しては以前より人権侵害が指摘されています。2021年7月1日にはアメリカ国務省が世界各国の人身売買に関する報告書(2021年版)にて技能実習制度を「労働搾取」と非難するなど、何かと問題の多い制度です。 今までは
• 実習生を受け入れる企業・団体や監理組合に問題がある
との報道が主流でした。しかし、技能実習制度を司る機構の管理体制にも問題があるのなら、いったい誰が実習生を守るのでしょうか?