「技能実習制度」は人身売買! アメリカ国務省からの指摘
2021年7月1日、アメリカ国務省は世界各国の人身売買に関する報告書(2021人身売買報告書)を発表しました。日本に対する報告書では「外国人技能実習制度」が取り上げられており、同制度は人身売買にあたると指摘し、改善を促しています。
今回は、アメリカ国務省の人身売買報告書とは何なのか、そして報告書が指摘する外国人技能実習制度の問題とは何なのかを説明します。
<目 次>
人身売買報告書とは
アメリカ国務省が毎年発表している人身売買報告書とは、どのようなものでしょうか。
2000年に制定された「人身取引被害者保護法」(TVPA)に基づき、アメリカが国際的な取り組みとして2001年から発表している報告書です。TVPAは、175ヶ国以上が批准した「人身売買を定義し、犯罪を防止し、対処する義務を負う国連議定書」に基づいています。
TVPAは、世界各国を4階層に分けて評価しています。
<ティア1:階層構造のものの第一層(最上位層)>
政府が人身売買排除のためのTVPAの最低基準を完全に満たしている国。
<ティア2>
政府がTVPAの最低基準を完全に満たしていないが、それらの基準を遵守するために重要な努力をしている国。
<ティア2:ウォッチリスト>
政府がTVPAの最低基準を完全に満たしていないが、それらの基準を遵守するために重要な努力をしている国。しかし、実際には犠牲者の増加に比例した具体的な行動を国が行っていない、または、前年より国として人身売買に対抗する取り組みを増加させていない。
<ティア3>
政府がTVPAの最低基準を完全に満たしておらず、そのための重要な努力をしていない国。
参照:2021人身売買報告書
https://www.state.gov/reports/2021-trafficking-in-persons-report/
アメリカが日本に指摘していること
人身売買報告書は、日本を<ティア2>としています。その指摘内容は、以下の2点です。
① 外国人技能実習制度での「労働搾取」
② JKビジネスに代表される「性的搾取」
この2点への対応が甘いと評価されました。技能実習制度の問題はJKビジネスと同レベルの“いかがわしい”問題ということです。では、アメリカが技能実習制度をどのように見ているのか、掘り下げてみます。
技能実習制度はスタートから課題だらけ
技能実習制度は1982年に企業が海外で雇用している人材(主にアジア圏にある工場で働く人材)を日本国内で「研修」し、技能を母国へ持ち帰り母国で役立ててもらう「国際貢献」を目的に産声を上げました。そして1993年に「技能実習制度」が正式に創設され「研修」の基準が緩和されたため、海外に拠点が無い企業でも国際貢献を目的に日本国内に人材を受入れられるようになりました。
しかし、創設された当初から国際貢献は表向きで、実態は人材不足を補うための制度と理解されていました。しかも、研修生という扱いのため給料は最低賃金の半額程度だったり、労働者を守るための労働関係法の適用から除外されていたりなど、非常に問題が多かったのです。
このように、スタート時点から課題の多い技能実習制度について、アメリカ国務省は2007年版の人身売買報告書で、初めて改善を促しました。この年以降、毎年のように技能実習制度は改善を促されることになりました。そして、日本政府は重い腰を上げ、2017年に技能実習法を施行し実習生を労働者として保護することを定めました。
減らない労働基準関係法令違反・・・裏切られたアメリカの期待
2017年の技能実習法の施行を受け、アメリカ国務省が発表した2018年版の人身売買報告書では、今後の改善が見込まれることを期待して日本を<ティア1>にランク付けました。続く2019年版でも<ティア1>となり、2年連続でTVPAの最低基準を満たしていると評価していました。しかし、2020年6月に発表した2020年版の報告書では<ティア2>にランクを一つ落とし、人身売買を防ぐ最低基準を完全に満たしていないと評価されました。
実際のところ、2020年10月に厚生労働省が発表した「外国人技能実習生の実習実施者に対する2019年の監督指導、送検等の状況」からは、改善する努力すら認められませんでした。
この厚生労働省の発表内容によると、労働基準関係法令違反(以下、労基法違反)が認められた実習実施者は、監督指導を実施した9,455事業場のうち6,796事業場(71.9%)に上り、2015年から見ても5年連続で70%以上の事業場に労基法違反が認められたとされています。
また、技能実習生が労働基準監督署に労基法違反の是正を求めた申告件数は、2015年以降毎年90件前後に留まり、2019年は107件となっています。さらに言えば、実習実施者に対して重大・悪質な労働基準関係法令違反が認められ、労働基準監督署が送検した件数は“34件”に過ぎないのです。申告送検件数が少なく、“申告の知識が無い”“言葉の壁”など要因は様々ですが、理不尽な労働環境下で技能実習生が声をあげられずにいることは確かです。
アメリカ国務省は日本の2017年の技能実習法の施行を受けて、技能実習制度の改善を期待しましたが、2021年版も2020年版に続き日本を<ティア2>としました。
アメリカは何を問題視しているか
アメリカ国務省が発表した2021年版の人身売買報告書が問題視している技能実習制度に関する課題は、以下の3点です。
① 技能実習生が必要経費を借金で工面することに関して、日本政府は多額にならないよう働きかける義務を十分に果たしていない。
② 借金を理由とした強制労働が存在する。
③ 日本政府は強制労働を認めない。強制労働に対する罰則が厳しくない。
① 技能実習生が必要経費を借金で工面することに関して、日本政府は多額にならないよう働きかける義務を十分に果たしていない。
技能実習生が多額の借金をしている理由は、実習生の母国の送り出し機関が過剰に金銭を徴収しているためです。2017年に技能実習法が施行された際、日本政府は実習生を送り出している14ヶ国とMOC(政府間の協力覚書)を締結しました。各国に対して実習生が多額の借金を背負わないように求め、ルールを取り決めましたが、一部の国はそのルールを厳格に運用しませんでした。
また、日本政府も送り出し国を追及するなど責任ある対応を取りませんでした。このため実習生が多額の借金を背負う構造は改善されていません。
② 借金を理由とした強制労働が存在する。
「借金を理由とした強制労働」とは技能実習制度の転職が自由にできないという特性を悪用し労働を課すことを意味します。借金を背負って日本に来た実習生に対して「会社の命令に背いたら母国へ帰国させるぞ!」と言えば実習生は反抗できません。なぜなら強制的に空港まで連れてこられ帰国させられた事例を、SNSを介して知っているからです。帰国させられると借金が返せないので、会社からの理不尽な命令にも背くことが出来ないのです。
また、実習生の失踪を防止するため、母国の送り出し機関と罰金契約を事前に取り交わしているケースもあります。親や親族に罰金の取り立てがあると思うと、会社からの理不尽な命令や労基法違反も泣き寝入りせざるを得ないのです。更に、給料の一部を強制的に送り出し機関の指定口座へ振り込ませる約束をしているケースもあります。金銭管理の面からも実習生を縛り続ける手法を取っているケースがあります。
③ 日本政府は強制労働を認めない。強制労働に対する罰則が厳しくない。
日本政府も、上記②のようなことがあることは承知しています。労働基準法第5条には強制労働を課してはならないと定められ、最も重い罰則が定められています。違反した場合は1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金が科せられます。2019年に労働基準監督署が送検した34件に、強制労働が含まれているか否かを日本政府は公表していません。
また、労働関係法令に違反して有罪判決が出た場合でも、裁判所はほとんどの場合、刑の執行を猶予して刑務所への収監を見送っています。このことは罰金刑だけで済んだ犯罪者もいるなどと表現され、人身売買撲滅に動くアメリカ国務省は日本の取り組みが不十分だと指摘しています。
アメリカ国務省は、現行の技能実習制度を人身売買だとし、多額の借金が強制労働を生み出す素地だと鋭く指摘しています。それではなぜ、技能実習生は多額の借金を背負うことになるのでしょうか。
その背景には送り出し機関の事情、実習生の事情、そして人材を受入れる日本側の課題があります。次回はベトナムを例にして実習生が借金をする背景を確認したいと思います。