インドネシア出張の記録
みなさん、こんにちは。私は株式会社ハンディネットワーク インターナショナル 代表の春山です。
2020年春より新型コロナウィルスの影響で海外への出張が激減し、ようやく2年の年月を経て2022年5月16日から6月4日までインドネシアを訪問してきた。今回の出張の目的は、2019年4月に創設された新しい在留資格「特定技能」をインドネシア国内で更に認知させること及び医療大学との連携を図るためであった。当社の「特定技能 介護」のプログラムはインドネシアの日本語学校兼送り出し機関であるLPK BAHANA Inspirasi Muda(以下、BAHANA)と協同で提供している。
HNI特定技能プログラムが、BP2MI(インドネシア移民労働局)から優れたプログラムと認定
今回の出張では非常に大きな成果を得た。それは、ジャカルタにある国の行政機関の移民労働局本局(以下、「移民本局」といいます)より招待を受け、インドネシア国内の日本語学校兼送り出し機関の中でもHNIとBAHANAのプログラムは最も優れているとの認定を受けた。またBAHANAと移民本局はこのプログラムを推奨すると共に、今後の連携に関しMoU(覚書)を締結した。
尚、移民本局とは、インドネシア国外へ働きに行く労働者を管理する行政機関です。特に特定技能やEPAなどの制度は移民本局が全体を取り仕切り、地方の移民労働局と連携しています。
2022.6.3 BP2MI MoU締結
現在(2022.06.05)、BAHANAでは47名の生徒が勉強に励み、面接の機会を待っている。中には特定技能に必要な3つのテスト「①JFT(日本語テスト)②介護技能評価試験 ③介護日本語評価試験」に合格している学生もいる。彼らの多くは現地の医療短大や医療大学を卒業した学生で、看護師、薬剤師、助産師、理学療法士などの資格を持つ者もいる。医療知識があるため、日本の介護の勉強の飲み込みが早い。また入国までの勉強期間は最低10ヶ月。寮生活しながら日本の文化を教え、日本語、介護ともに勉強している。既に37名の特定技能人材が日本の介護施設や病院で働いており、日本語能力の高さや仕事への意欲は雇用先から高い評価を頂いている。
日本は信頼されていないのか?
さて、今回の3週間の出張で私とBAHANAのメンバー3人が計10都市(バリ、スラバヤ、ジョグジャカルタ、ソロ、マラン、チラチャップ、ゴンボン、バンドゥン、スバン、ジャカルタ)を回り、15校の医療大学、3ヶ所の移民労働局で当プログラムの説明を行ってきた。
全体的な印象として、海外へ人材を送るプロジェクトはインドネシア国内でもネガティブなイメージが根強い。多くの大学から言われたことだが、
① 採用連携の話はたくさん来るが、その後の連絡が全くない。
② 人材を送り出しても、学生が日本に行ってからどの様に過ごしているかなどのフィードバックが全くない。
③ 多額のお金を支払わせたにも関わらず、日本にすら行けなかった。
などの話が多かった。
一方、日本で働くことに興味を持つ学生は非常に多いとの印象を受けた。しかし、実際に興味があっても日本にたどり着く学生はほんの一部。上記理由のように悪い送り出し機関(ブローカー)に騙されるケースもあるが、一番根強い理由として親から反対の声が多数であった。医療大学は女性が多く、年頃の女性を一人で海外に行かせる事への不安が強い。海外まで行って働かなくても良いとの考えを親は持っているようだ。
今後、大きな課題として日本で働くことへの安心・安全をしっかりとアピールしなければ、興味はあるが来日してもらえないことになる。日本での受け入れ実績をしっかりとPRし、フィードバックをしていく重要性を強く感じた。
”シンプル”ムスリムを正しく理解する
次に、文化や宗教観について私が感じたことをまとめる(これは所感であるため、厳格なものではない)。私が訪問したバリ以外の他の9都市は、イスラム教徒(以下、ムスリム)が9割以上を占める都市である。バリはバリヒンドゥ教徒が9割近いと聞いている。私と同行した3名はムスリム(イスラム教)であり、彼らと過ごした3週間でムスリム感や生活スタイルなどが少し理解できた気がする。
まず一番大きな理解として、ムスリムは厳格な人とシンプルな人に分かれていることがわかった。インドネシアでのムスリムの規範は個人に委ねられている事が多く、厳格に守るか否かは自分次第、又は家族観次第という感じがある。ここでは代表的な3つのムスリム文化について触れる。1つ目は女性が身にまとうヒジャブ(ジルバブ)について、2つ目はハラール食について、最後にお祈りの文化についてだ。
① ヒジャブ(ジルバブ)について
女性がヒジャブを身につける理由は、結婚した男性以外には手と顔以外は露出してはいけない(厳密には細かなルールがある)という教えからである。しかし、インドネシアでは厳格に守る人もいれば、仕事中はヒジャブを身につけるがプライベートでは身につけない、またはその逆の人もいる。但し、ここで注意しなければいけないことがある。個人の判断に委ねられているとはいえ、ヒジャブを外している状況をスマホで撮影しSNSでアップする事などは厳禁である(ここも個人の裁量かもしれないが)。大事なことは勝手にSNSを投稿したりするのではなく、一言確認をとることが重要だと感じた。
② ハラール食について
ハラールという食の基準がムスリムにはある。分かりやすいところで言えば、豚肉は食べない、アルコールは飲まない(使わない)などがある。比較的豚肉を食べたいという人は少ないようだが、アルコールに対しては興味があり、常飲はしないが口にする人もいるみたいだ。観光地以外のほぼすべてのレストランではハラール対応していて、当然ビールなどを提供するサービスはない。しかしビアーハウスや海外料理のレストランではサービスとして出すところもある。ムスリムの女性はヒジャブを取りアルコールを楽しむ方もいるようで、やはり人からの目は気になるとのことだった
③ お祈りの文化について
一日5回のお祈りがある。また男性は毎週金曜日のお昼ごろに特別なお祈りをする文化がある。普段のお祈りに関してはできる範囲できっちりやるというのが正しい表現な気がする。例えば、仕事の打ち合わせでどうしてもモスクに行けないことがある。お祈りの時間になると町中に聞こえる音量でお祈りの言葉が流される。その時はプレゼン中でも打ち合わせ中でも一旦休憩をとり、そのお祈りが終わるまでその場で待つことが多かった。実際私もプレゼンを一時中断することは何度もあった。
このようにムスリムには各個人や家族でのルールがあるのだと理解ができた。一定数厳格なムスリムの方もいるが、その方々はムスリム対応に乏しい日本には全く興味がなく、訪れようということは考えないみたいだ。この宗教観を私たち日本人がまずは理解することが必要で、シンプルムスリムだからといってアルコールを勧めたりヒジャブ禁止を強要したりしないことが重要だと感じた。その中でもお祈りはかなり重要なのでお祈りができるように職場のスペースを貸してあげると非常に喜ばれる。厳格な時間ではなく、仕事の休憩時間などで済ますことができるのがシンプルムスリムでもある。
最後に
最後に、ムスリムは日本人にとってまだまだ慣れない宗教観である。但し、日本に旅行する方や働きに来る方はシンプルムスリムの方が多くを占めているため、彼らの宗教観や文化観を否定するのではなくまずは受け入れる気持ちが重要だと思う。その中で当然日本の文化とマッチングしないことも出てくる。この場合、一方的な否定ではなく話し合い解決策を見つけることが重要だ。
約2億7千万人の人口で平均年齢が30歳前後のこの大国とどの様に付き合っていくか、インドネシアに限らず他文化他宗教と日本がどのように共生していくか。日本の文化が侵されるという発想ではなく、新しい日本の文化観を海外の方々と創っていかなければ世界では生き残れないと感じた3週間だった。