もう日本には行かない ベトナム人材の本音
2022年8月21日に、弊社代表の春山がベトナムのハノイで送り出し機関の経営幹部の友人とミーティングを行いました。その際に「ベトナム人材が日本を選ばない理由」を、7つに分けて教えてくれました。各コンテンツの上段は送り出し機関の友人が述べたものです。下段には分かる範囲で補足説明を加えています。
<目 次>
目次
1,円安でベトナムへの送金が大きく目減りしている
最近の円安ベトナムドン(VND)高は、日本行きをためらう理由として十分すぎます。日本へ行くために借金をするベトナム人は多いです。借金はベトナムドンで返済しますので円安VND高は本当に厳しいです。
2019年8月:1JPY=220VND
2022年8月:1JPY=170VND つまり 50円安VND高
円の価値はこの3年でVNDに対して約23%も下落しました。VNDでの手取りが2割減ったということです。ユーロや韓国ウォンは10%前後安VND高なので、それと比較すると日本の円安が突出していることがわかります。
2,ブローカーの廃止
コロナの前から既にベトナムでは都市部とその周辺から人材を集めることが難しい状態でした。そこで地方部から人材を集める必要があり、地方部に強いブローカーを頼って技能実習に関する情報を伝え、人材を集めていました。しかし、ブローカー排除の動きが強まり、日本の技能実習制度を地方部に伝える人がいなくなりました。
そもそもコロナによる入国制限で訪日できない状態だったので、ブローカーは動けない状態でした。そこへブローカー排除の動きか重なったため、ダブルパンチで人が集まらないのです。
2022年1月1日よりベトナム国内法の「派遣契約によるベトナム人労働者海外派遣法」が施行され、送り出し機関がブローカーに支払った仲介料を、技能実習生から徴収できなくなりました。ブローカー排除の動きとは、このことを指すようです。
(JITCO:HP参照)
3,コロナが気づかせた「日本ブーム」 若者の職業感の変化
コロナ前は「日本で働くこと」がブームになっていました。日本で働いている若者や日本から帰ってきた若者からの様々な情報が溢れていていました。それに乗じて送り出し機関やブローカーが日本に行ったことが無い若者にアプローチして、
「なぜ日本に行かないの?」
「大金を手にするチャンスを無駄にするの?」
「日本で働くことは常識だよ!」
といった空気感を作り出していました。
しかし、コロナが若者に、冷静に考える時間を与えました。技能実習生への人権侵害のニュースが流れるたびに「わざわざ日本で大変な思いをして稼ぐ必要があるのか?」「家族や友人の囲まれた今の生活で十分幸せではないか」と冷静に考えるようになりました。
在日ベトナム人労働者数の推移
2012年:約26,000人 2016年:約170,000人 2020年:約440,000人
「日本で働くこと」がブームとなり、ベトナム人労働者が急増した。
参照:(厚生労働省)外国人雇用状況の届出状況について
4,パワーバランスの変化 もう嫌な監理組合とは付き合わない
私たちベトナムの送り出し機関は、日本の監理組合を選別し始めました。コロナの前までは私たちの人材を採用して欲しいので、日本の監理組合の嫌な要求にも応えざるを得ませんでした。しかし、完全に立場が逆転したと考えています。
人材が集まりにくくなってくると、人材を集める立場が強くなります。渡航費負担・送迎・飲食接待・性接待・キックバックなど、今まではベトナム人材を採用して欲しいが為に監理組合の要求に応えていたそうです。そんな監理組合への人材紹介をSTOPするそうです。
ただでさえ人気が無い建設関係は給料の額面で25万円以上無いと人を集めることができません。また介護職種も人気がありません。なぜなら仕事や日本語の勉強が大変なわりに給料が安くて増額も期待できないからです。更にベトナムの若者の仕事に対する価値観が変わってきています。日本人に人気が無い仕事はベトナム人にとっても人気が無い仕事になりつつあります。
5,ベトナムの送り出し機関は、他国を向いている
働いても給料が上がらない上に大幅な円安で稼ぎが目減りする国よりも、韓国やドイツの方が給料は良いです。また、シンガポールもベトナム人材を積極的に受け入れる方向に舵を切るようです。
ドイツは日本のEPA制度と似た制度で看護師の募集をしています。また、コロナ前から韓国は日本よりも文化的・経済的にベトナムに浸透しています。シンガポール・台湾・オーストラリア・ニュージーランドなども既に外国人労働者の受け入れに積極的です。これに円安が絡んで日本が不人気になっています。
6、米中貿易戦争が引き起こした、ベトナムへの工場移転ブーム
中国から多くの工場がベトナムへ移転しています。そのせいでベトナム国内でも人材不足が発生しています。多くの若者が、以前よりも良い給料で採用されているので、海外に目が向きにくくなっています。
トランプ大統領が2018年に中国からの輸入品818品目に対して25%の関税率を適用すると宣言してスタートした、米中双方による関税の報復合戦。その結果、中国から他国へ生産拠点を移す動きが活発になりました。その時に白羽の矢が立ったのが隣国のベトナムです。また、中国では「ゼロコロナ政策」が取られました。地域を封鎖して自宅からの移動を禁止したため、製品の出荷が出来ず、工場移転に拍車が掛かります。最近ではアップルのiPadの工場がベトナムへの移転を決めるなど、ベトナムでは工場設立のプチバブルが生じているとのことです。
7、ベトナムの高齢化
ベトナムは日本より平均寿命が短いです。だから、日本の基準よりも早く高齢化を迎えます。既にベトナムでは高齢化の足音が聞こえます。労働に就く人口が減っている感じがします。だからこそ、ベトナムでも若い人材が貴重になりつつあります。
ベトナム保健省人口・家族計画化総局の2022年1~6月期の人口に関するレポートによると、ベトナムの現在の平均寿命は73.5歳だが、健康寿命は64歳にとどまります。
男女混合の数字なので、男性の健康寿命は60歳を少し上回る年齢だと予想できます。
また、2022年度のベトナムの人口ピラミッドを見ると、20~24歳の層が最も薄く15~19歳の層も厚くありません。高齢者が増えたというよりも、若者のボリュームが大きく減少しているのですね。
まとめ
今回は「もう、日本には行かない。ベトナム人材の本音」と題して、弊社代表の春山とベトナムの送り出し機関の友人とのミーティング内容をご紹介いたしました。かつての中国と同じように、経済発展をすると日本へ出稼ぎに来る人材は減少すると予想されていましたが、コロナがそれを後押ししたようです。長期的な視野でリスクヘッジを考えないと、採用に穴が開いてしまいます。
NEXTベトナムはどこなのか?焼き畑農業のように次々と国を変えるのも一つの手です。
もう一方で、国と国、労働者と受入法人がお互いに尊重し合い、パートナーとして良い関係を築き上げる努力をして、継続的に来日してもらう方法もあるのではないでしょうか。タイや中国といった経済発展を遂げた国からも、未だに技能実習生は来日しています。
<日本で働きたい><日本は信頼できる>そんな関係を構築できれば、一定数の人材が確保できるのです。
焼き畑か信頼か、あなたはどちらを選びますか?