「特定技能」インドネシア介護人材の受入手続 その③
特定技能外国人を母国より迎え入れる場合、国ごとに手続が異なります。日本政府が特定技能に関する協力覚書(MOC)を締結している関係各国とは特定技能制度の目的や相互連携の他、試験や手続についての約束やルールを定めています。特に手続は国により違いが大きいため、外国側の制度内容を事前に把握することが大切です。
その①、その②はMOCの内容に沿った受入手続の流れを説明しましたが、MOCの通りに運用されていない実態があります。
その③では、インドネシア国内の運用が追いついていない現状を踏まえ、どのように受入手続を進めれば良いのかについて説明します。
(目次)
◆IPKOLは使えるの?
協力覚書(MOC)によると、日本の介護施設とインドネシア介護人材が出会う場となるのが、インドネシア政府の労働省が管理するジョブ・マッチングシステム「IPKOL(労働市場情報システム)」ということになっています。インドネシア政府は日本の介護施設がこのIPKOLへ求人情報を登録することを強く推奨しています。
しかしながらこのIPKOLは、「特定技能」に対する運用を開始していないのです。
出入国在留管理庁のホームページによると、
「IPKOLの詳細は、「上記手続全体の流れ」に掲載している「手続の解説」を御参照くいただく他、下記「連絡先」にお問い合わせください。」
と、記載されています。(2022年9月現在)
下記「連絡先」とは、駐日インドネシア共和国大使館 または インドネシア共和国労働省労働市場開発局のことですが、連絡をしても無意味です。
◯手続全体の流れ ⇒ 手続の解説【PDF】(出入国在留管理庁HPより)
http://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/nyuukokukanri06_00108.html
駐日インドネシア共和国大使館のウェブサイトに掲載されているURLからIPKOLを閲覧することは可能です。(2022年9月現在)
○駐日インドネシア共和国大使館HP
https://kemlu.go.id/tokyo/lc/pages/faqs-terkait-ssw/4337/etc-menu
ウェブサイトは閲覧できる状態なのですが、特定技能に関する事項は含まれていないのです。
◆IPKOLの利用は絶対条件ではない
悪質ブローカー排除の要となるはずであったIPKOLについての情報は、駐日インドネシア共和国大使館から得ることができました。
「IPKOLはなぜ稼働していないのか。いつから稼働するのか」という質問に対して、大使館の特定技能担当窓口である領事部儀典課のインドネシア人担当者から下記のような回答を得ました。
「IPKOLは未稼働です。インドネシア本国の関係省庁が動いていないので、特定技能に関していつ稼働するかわかりません」
「IPKOLに登録しなくても、特定技能で採用は可能です。IPKOLを使わずにマッチングしてもOKです」
IPKOLの利用を“強く希望しています“というインドネシア政府との協力覚書(MOC)の強い文言とはまったく異なる回答でした。同様の質問を日本の出入国在留管理庁:政策課にも投げました。すると、
「出入国在留管理庁はIPKOLをマッチング・システムとしか認識していません。単なる求人情報・求職者情報の掲示板でしかないと考えています」
「IPKOLはインドネシアのシステムなので、日本側としてはその利用を必須条件としていません。IPKOLを使わずにマッチングをしても日本の法律に違反しません」
との回答が返ってきました。
両国の協力覚書(MOC)にはIPKOLの利用が明記されており、非常に大切なルールと捉えがちですが、現実はまったく違っています。
◆IPKOLは稼働しない
IPKOLが稼働を始めると採用方法は変わるでしょうか? 日本の介護施設とインドネシア介護人材が自分たちでIPKOLに登録し、お互いに連絡を取り合って雇用契約にまでたどり着くでしょうか。
現実的に、それは難しいと思います。インドネシア政府がIPKOLを運営しますが、IPKOLは単なる求人・求職者のための掲示板に過ぎません。本当に信頼できる情報なのでしょうか? 掲示されている情報に誰が責任を持つのでしょうか? 日本のハローワークとは異なり、国と国を跨ぐのです。トラブルが生じた時、自らの力で解決できるのでしょうか。日本の介護施設に海外トラブルに対応できる人材はいますか? インドネシアの一個人に、いったい何が出来るのでしょうか。私は、IPKOLは稼働しないと考えています。
仮にIPKOLが稼働しても実質的には利用されないでしょう。 採用が決まっている状態でIPKOLにお互いが登録し、インドネシア・日本政府に対する説明がつくように体裁を整えるだけのものになるでしょう。 悪質ブローカーの排除というIPKOLの目的は素晴らしいです。 しかし、何を信用し誰が責任を取るのか、不明確な仕組みに対して誰も真剣に向き合わないでしょう。
◆インドネシア介護人材を見つけるには
では、どのようにしてインドネシア介護人材は日本へ来ているのでしょうか。
実際には日本の人材紹介会社等がインドネシアの日本語学校や送り出し機関と提携してインドネシアで人材発掘~人材育成を行っています。 そして日本の介護施設様にインドネシア介護人材をご紹介しているのです。従来の人材紹介の方法と、全く同じなのです。
例えば当社では、インドネシア国内70の医療系大学・短期大学とネットワークを持つ現地の日本語学校と提携しています。 この日本語学校は2014年に設立された新しい学校ですが、創業当時からEPA介護福祉士候補者への日本語教育を担当するなど、高い教育レベルを誇っています。そのような日本語学校ですから、入学希望者が絶えません。選抜試験に合格した優秀な人材のみを教育しています。2022年4月から既に40名以上のインドネシア介護人材が来日し、現在は約30名が入国待ち~入国手続中です。
つまり、信頼できる現地教育機関等と繋がりのある日本側の紹介会社を通じて、インドネシア介護人材は来日しているのです。
◆まとめ
ここまで3回にわたり、特定技能インドネシア介護人材の受入手続についてご説明いたしました。政府間で結ばれた協力覚書(MOC)の内容のうち、悪質ブローカー排除が目的で、最も重要だと考えられていたIPKOLは稼働していません。 また、例え稼働したとしても日本側・インドネシア側双方に信用されるには高いハードルがあると言えるでしょう。
大切なのは日本側の信頼できるパートナーを見つけることです。 単に人材を紹介しているだけでなくインドネシアとのつながり、介護人材とのつながり、入国後の対応などをしっかりと見極めて窓口を見つけることが必要なのです。