~ 定着率の向上こそ人材戦略の一丁目一番地 ~
勝ち組と負け組の2極化へ 人を制する者が介護事業を制する ②
人材の確保に成功している介護事業者もあれば、苦戦している事業者もあります。このような違いが生まれる原因は様々ですが、この原因も前回ご紹介した「介護労働実態調査」に貴重なヒントが隠されていました。今回はそのヒントを紐解き、人材確保に必要なことを皆さんと確認したいと思います。
<目 次>
◆ 介護職員 退職の理由
介護業界に関わらず、どの業界であっても人材不足を解消するには、①採用者数を増やす ②退職者を減らす、この2点に尽きると思います。そのうち②の【退職者を減らす】取り組みが、徐々に効果を発揮しだしていることは、前回ご説明いたしました。 ※https://www.hni.co.jp/1404/
介護人材が退職する理由を把握して対策をおこなえば、おのずと退職者は減少します。令和3年度介護労働実態調査を見ますと、主な退職理由がアンケート調査によって明確になっています。
性別を問わない回答(複数回答)
第一位 【職場の人間関係に問題があったため】
第二位 【結婚・妊娠・出産・育児のため】
<働き続けられる環境づくり>が求められていることがわかります。
第三位 【自分の将来の見込みが立たなかったため】
第四位 【収入が少なかったため】
男性は第三位の比率が非常に高く、家族を養う不安を抱えていることが明確です。
職種別の回答を見ても、介護施設で働く介護職員の回答は、上位4つの内容が同じでした。
第一位 【職場の人間関係に問題があったため】
第二位 【収入が少なかったため】
第三位 【自分の将来の見込みが立たなかったため】
第四位 【結婚・妊娠・出産・育児のため】
女性が多い職場だけに、人間関係が円滑か否に加えて、ライフイベントに対する介護事業者の姿勢が問われていることになります。
(令和3年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書P81)
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2022r01_chousa_cw_kekka.pdf
また、収入面については、日本国政府による介護職の賃上げ施策が実施されており、少しずつ全産業との賃金差は縮小しつつあります。しかし、厚生労働省の調べによると介護事業者の約4分の1が政府の賃上げ施策を活用出来ていない実態があるようです。読売新聞によると煩雑な施策の運用方法に課題があるように記載されていますが、一方で施策に対応出来ている事業者が4分の3あることも事実です。政府は対応できない介護事業者向けに手続きの簡素化を検討しているようですが、対応できない低レベルの介護事業者を保護するよりも、対応できる介護事業者に集約する方が、業界全体の生産性は高まります。生産性の高まりは待遇の改善につながります。待遇面が理由で退職する介護人材を減らすには、介護保険施行時に厚生労働行政が掲げた平等主義を改め、低レベルの介護事業者に退場を促し、生産性の高い介護事業者に集約を図るという発想が必要では無いでしょうか。
介護職員の3%賃上げ、4分の1が制度活用せず…厚労省は手続き簡素化で利用促進へ(読売オンラインより)
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230117-OYT1T50082
◆ 採用が良好<離職率が低い
次に、令和3年介護労働実態調査のアンケートでは、介護人材の人数・質の両方とも満たしている介護事業者(1,837件)に、その理由をたずねています。
上記の表の通り、【採用が良好】を【離職率が低い】が大きく上回っています。つまり、離職率の低い職場づくりに力を入れることが、人材確保の要であることは一目瞭然ですね。
◆ 人材は費用? 投資? 選ばれる職場づくり
それでは、離職率を低下させるために効果的な方策は何でしょうか。アンケート調査によると、最も効果があったと方策は【残業を少なく、有給を取得しやすく】と【本人の希望に応じた勤務体制】の2つが、ダントツで多いのです。有期雇用・無期雇用に関わりなく不動の2TOPで、勤務体制に関わる項目が約40%を占めています。もちろん【賃金水準の向上】や【勤務評価を賃金に反映】など給料に関わる項目も一定の効果はあるようですが、関連項目を集めても15%に満たない数字です。その次に多いのが【職場内のコミュニケーション】に関する項目で、合計で約10%以上を占めています。勤務体制に関わる項目と合わせると50%を超えており、如何に働きやすい職場づくりが必要かを示しています。
(令和3年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書 資料編-96より)
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/2022r01_chousa_cw_kekka.pdf
それでは、【残業を少なく、有給を取得しやすく】と【本人の希望に応じた勤務体制】をどうすれば実現できるのでしょうか。
① 十分な介護職員の確保(派遣やパート・アルバイトに頼らない)
② 十分な職員教育と、円滑運営に必要な一定期間の経験
③ 適正な介護職員数の維持に努める。
①だけでは絶対に実現できません。②まで実施して初めて離職率が低い環境づくりが実現できると考えるべきです。しかし、それでは適正な介護職員数を上回り続ける可能性があるため、経営陣は適正な介護職員数を見極め③の状態へ導き・維持する必要があります。これを実現するには、経営陣が考えを改める必要があります。費用面ばかり考えてギリギリの介護職員数しか採用しないようでは、離職率が低い環境は生まれないでしょう。最初に投資を覚悟しなければなりません。人材は費用ではなく投資だと思えるか否かがカギなのです。
◆ まとめ
「採用したくても、日本人が居ないから無理だ!」という声が聞こえてきます。日本人が無理でしたら外国人介護人材を雇用すれば良いのです。しかし、不安定な派遣労働者やパート・アルバイトにどっぷりと頼り切っている介護事業者は外国人介護人材を採用しない方が良いです。日本人が行きたくない職場には外国人介護人材だって行きたくありません。外国人介護人材が可哀そうです。
それよりも、「人数は十分ではないが、まだギリギリ仕事の質を保てている。しかし、採用できる見込みが全くない」
このような介護事業者が外国人介護人材を受け入れた場合、職場に大きな変化を生む可能性があります。今なら、外国人介護人材が新たに加わってもなんとか教育できるなら、外国人介護人材は4ヵ月程度で介護現場の戦力として目処が立ち、8ヵ月程度で夜勤の見習いが始まり、1年たたずに十分に戦力として計算できるでしょう。仕事の質が保てている間に、早く行動に移るべきです。