日本では2019年4月に「特定技能」という在留資格が導入されました。この制度は、深刻な人手不足に直面している産業分野に対して、外国人労働者を即戦力として受け入れることを目的としています。介護分野はその対象となる12分野の一つです。
介護分野の「特定技能」の背景
日本の介護分野は慢性的な人手不足に苦しんでおり、特に2021年の有効求人倍率は3.60倍に達し、求職者1人に対して約4件の求人がある状態でした。このような状況を打破するために、「特定技能」という在留資格が設立されました。この資格は、「特定技能1号」と呼ばれ、主に相当程度の技能を持つ外国人が介護業務に従事することを可能にします。
受け入れ現状と課題
介護分野での特定技能外国人の受け入れは、2024年までに60,000人を目指していますが、2023年1月時点での実際の受け入れ人数は17,066名と、依然として目標には達していません。この背景には、新型コロナウィルスの影響による入国制限が大きく影響しています。
受け入れ要件
介護分野で特定技能外国人を受け入れるためには、いくつかの要件があります。
事業所の種類
特定技能外国人は、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、グループホームなどの施設で受け入れることができますが、訪問介護サービスでの受け入れは認められていません。
雇用形態
特定技能外国人は直接雇用のみで受け入れることが求められており、派遣社員としての雇用は不可です。また、フルタイムでの雇用が必要です。
報酬
同じ業務に従事する日本人と同等以上の報酬を支払う必要があります。
業務内容
身体介護業務や支援業務が主な業務として求められます。
受け入れ人数
一つの事業所で受け入れられる特定技能外国人の数は、日本人の常勤介護職員の数を超えてはいけません。
受け入れ期間
最長で5年間の受け入れが可能で、その後は外国人が帰国する必要があります。
受け入れにおける注意点
介護分野で特定技能外国人を受け入れる際には、いくつかの注意点が存在します。
就労・生活支援
特定技能外国人が安定して活動できるよう、企業は職業生活や日常生活における支援を行う義務があります。具体的には、事前ガイダンスの実施や生活オリエンテーションの提供、日本語学習の機会の提供など10項目の支援が必要です。
特定技能協議会への加入
特定技能外国人を受け入れる企業は、特定技能協議会に加入する義務があります。この協議会は、特定技能外国人の適正な受け入れを促進するための体制作りを目的としています。
介護分野の「特定技能」取得要件
外国人が介護分野で「特定技能」を取得するためには、一定の技能水準と日本語能力水準を満たす必要があります。
介護技能評価試験
介護の基本、こころとからだのしくみ、コミュニケーション技術、生活支援技術の4つのカテゴリーで試験が行われます。
日本語能力試験
国際交流基金日本語基礎テストのA2、または日本語能力試験のN4以上の合格が求められます。
介護日本語評価試験
介護現場で使われる専門用語や会話、文書を理解するための試験です。
介護分野における「特定技能」受け入れの利点と課題
「特定技能」制度の導入により、介護分野では外国人労働者の受け入れが進んでいます。しかし、そのプロセスには多くの利点と課題が存在します。以下に詳細を述べます。
利点
1. 人手不足の解消
「特定技能」制度は、日本国内の介護人材不足を補う重要な手段です。特に、地方や中小規模の介護施設では、人手不足が深刻な問題となっており、外国人労働者の受け入れが緊急の課題となっています。この制度により、これまで人手不足に悩んでいた施設でも、必要な人材を確保しやすくなりました。
2. 多文化共生の促進
外国人労働者の受け入れは、多文化共生を推進する一助となります。介護施設内で多様な文化背景を持つ職員が共働きすることは、利用者にも多文化理解を促進する機会を提供します。また、職員間の文化的交流が進むことで、新たな視点やアイディアが生まれ、サービスの質向上にも寄与します。
3. 介護サービスの質向上
「特定技能」制度を通じて外国人労働者を受け入れることで、介護施設は多様な経験と知識を持つ人材を獲得できます。これにより、利用者に対するサービスの質が向上し、より柔軟で適切なケアが提供できるようになります。特に、外国人労働者が持つ異なる文化的背景や視点は、介護サービスの質を高めるための貴重な資源となります。
課題
1. 日本語能力の向上
介護の現場では、利用者との円滑なコミュニケーションが不可欠です。そのため、外国人労働者に対する日本語教育の重要性が増しています。日本語能力試験や介護日本語評価試験をクリアしていても、現場で実際に求められるコミュニケーション能力は非常に高く、継続的な学習と支援が必要です。
2. 文化的な適応と理解
外国人労働者が日本の文化や介護の慣習に適応するためには、時間と支援が必要です。特に、介護の現場では、利用者の生活習慣や文化的背景に対する理解が求められます。企業は、外国人労働者が日本の介護現場にスムーズに適応できるよう、文化教育や職場内でのサポート体制を整備する必要があります。
3. 法的な手続きと支援の負担
外国人労働者の受け入れには、様々な法的手続きや支援が伴います。例えば、在留資格の申請や更新手続き、健康保険の加入手続きなどが挙げられます。これらの手続きは、企業にとっては大きな負担となる場合があります。また、適切な支援体制を整えるためには、時間とコストがかかることも課題です。
4. 雇用の安定性
「特定技能」制度では、最長で5年間の在留が認められていますが、その後の雇用継続には制限があります。このため、受け入れた外国人労働者が長期的に安定して雇用されるかどうかが課題となります。また、短期間での雇用が主となるため、施設側は常に新しい労働者を受け入れる体制を整えておく必要があります。
まとめ
介護分野における「特定技能」制度は、日本の介護業界にとって不可欠なものとなっています。外国人労働者の受け入れを成功させるためには、法的手続きの簡素化や多文化共生の推進、労働環境の改善など、多方面からのアプローチが必要です。これにより、介護分野の人手不足を解消し、質の高いサービスを提供することが可能になります。企業と地域社会が一体となって取り組むことで、外国人労働者が安心して働ける環境を整え、介護サービスの質向上と地域社会の活性化を実現することが期待されます。