前回、前々回と解説をしてきた、外国人介護士受け入れの3つの枠組み、「技能実習制度」、「EPA(経済連携協定)」、「留学生受け入れ」。この3つの枠組みを検討する場合に大きなポイントとして考えておくべきなのが国家資格の取得義務についてです。 取得が義務付けられているのとそうでないのでは、受け入れ事業者側の負担やメリットが異なります。そこで今回は3つの枠組みそれぞれの取得義務の状況がどうなっているのかを解説していきます。
「技能実習制度」で入国した外国人介護士の国家資格取得について
本制度を利用して入国する外国人の場合、日本で働き続けることが前提ではないということをまず頭に入れておくべきでしょう。「技術移転」が目的の本制度においては日本国内の国家資格である介護福祉士を取得する必要はありません。すなわち、受け入れ側の事業者にとって、資格取得に向けた受験勉強のサポートや受験勉強の時間を確保するために労働時間が制約されるようなことがありません。この点は現場人材の不足に悩む事業者にとって、大きなメリットと言えるかと思います。
また、在留資格の延長に向けて関連法案を改正し、新たな試験が設定される可能性が浮上してきています。現在予定されている線で改正されたならば最長10年間、外国人が働くことができるようになる見込みです。さらに、技能実習を期間満了した外国人に対し、その試験が免除になる予定で、実質これまで最長5年間であったものが10年間に延長される改正となります。その動向は状況次第で変わる可能性もありますが、直近の動きはどれも規制緩和に向けた動きが中心となっていることもあり、大いに期待できるのではと思われます。
参考資料:外国人労働者、在留最長10年に延長へ 新たな資格検討(朝日新聞デジタル)
https://www.asahi.com/articles/ASL4F5DFXL4FUTFK020.html
そして技能実習制度で働く外国人が在留期間中に介護福祉士の国家資格を取得するといったケースも考えられます。これまでの法制度ではそうしたケースへの対応は想定されていませんでした。しかし、2018年度に政府から発表された骨太の方針では、在留資格の移行を認めるといった旨の記載がされていました。具体的には、「技能実習」から「介護」へ在留資格が移行できるようになり、在留期間を実質的に無期限とできるといったものです。(前々回の記事で見てきたように、国家資格の介護福祉士を取得した外国人の場合、在留資格が「介護」となり、在留期間を制限なく更新することができます。)
参考資料:経済財政運営と改革の基本方針 2018(仮称)(原案)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2018/0605/shiryo_01.pdf
「EPA(経済連携協定)」で入国した外国人介護士の国家資格取得について
次にEPAですが、こちらは先の技能実習制度と異なり、国家資格の取得を前提としたものとなります。というのは前々回の記事で説明したように、EPAは経済交流の一環として人材交流をおこなう仕組みであり、前提として国家資格を取得することがその目的です。そのため、介護の事業所において外国人を「介護福祉士候補者」として取り扱う必要があります。当然ながら、資格取得に向けたサポートも事業所には期待されます。また、国家資格の受験に際し、「実務経験3年」が資格要件となるものの、資格取得のための勉強の必要もあり、受験直前の1年間は、通常の仕事に集中してもらうことはなかなか難しいと言えます。
そして最長4年間に2度ある受験のチャンスをものにし、国家資格を取得しなければ帰国を余儀なくされます。現在、2回のチャンス合計での合格率は50%程度と言われ、この数字をどう判断するかが本制度のポイントと言えるのではないでしょうか。しかし、不合格となり帰国したとしても、短期滞在などの資格で来日して試験を受け合格すれば国家資格は取得できます。本制度を前提とした受け入れは資格さえ取得できれば、無期限に在留資格を延長できることもあり、長期的なスタッフ育成を考慮するとメリットがあるとも言えます。
参考資料:介護福祉士国家試験 受験資格
http://www.sssc.or.jp/kaigo/shikaku/route.html
「留学制度」で入国した外国人介護士の国家資格取得について
最後に、留学制度で来日した外国人について説明していきます。2016年11月18日の法改正により在留資格に「介護」が追加されたことで、国家資格取得を前提とした留学が認められるようになりました。来日する外国人は原則、国内にさまざまある介護福祉士の養成学校にて2~3年程度の勉強期間を経て試験を受け、国家資格の取得を目指します。その間、アルバイトとして介護の事業所等で就労することになりますが、この留学の期間はあくまで勉強がメインであり、就労は週28時間までしか認められません。違反の場合、事業所、留学生ともに重い罰則を受けることになります。そのため、資格取得までの期間は労働力として限定的にならざるを得ません。
しかし、留学制度では2021年度までの限定措置となるものの、養成学校卒業後、国家試験を受験せずともそのまま暫定的に介護福祉士として働くことができます。そして5年間継続して勤務した場合、正式な資格取得が認められるようになります。介護福祉士の資格を正式に取得することで在留資格「介護」が適用されますので、以降は在留資格を満期ごとに更新をしていけば日本国内で働き続けることができます。短期的に見てしまうと戦力としては期待できませんが、中長期的な視点で留学生とも関係性を築けるようであれば魅力のある制度と言えます。
参考資料:平成28年法改正について(入国管理局)
http://www.immi-moj.go.jp/hourei/h28_kaisei.html
まとめ
これまでの記事で見てきた通り、外国人介護士を巡る状況は大きく変わりつつあります。そのため、今回の記事で説明してきた、国家資格を巡る状況に関しても変更の可能性は大きくあることを念頭においておく必要があります。しかし、現状を踏まえる限りでは国家資格を取得しない、技能実習制度には大きなメリットがあると考えられます。しかし、そうしたメリットだけで判断せず、自分たちの事業所が人材に対してどのような部分を求めているのかといった点や、採用を巡る状況などをしっかりと踏まえて判断するべきではないでしょうか。