外国人の介護士を受け入れる際、自社で受け入れノウハウがある場合をのぞき仲介するための組織に頼ることになります。ここについても受け入れのための3つの枠組み「技能実習制度」、「EPA(経済連携協定)」、「留学生受け入れ」の成立背景の違いなどからそれぞれ状況が大きく異なります。今回の記事では、それらの違いについて解説をしていきます。
「技能実習制度」における受け入れ調整機関について
外国人技能実習制度で仲介の役割を担うのは日本国内の受け入れ調整機関と各国の地元組織による送り出し調整機関の2つです。日本国内では法務省、厚生労働省所管の認可法人「外国人技能実習機構」が予備審査をして認可された監理団体に受け入れ調整の機能を担わせています。
すなわち、「受け入れ調整機関 = 監理団体」となります。
監理団体の役割について
実習実施者(介護施設)と共同で外国人の受け入れに必要な計画や書類の作成をおこなうほか、在留資格の申請から交付の手続きまでを代行します。また、実習先の介護施設において技能実習が始まって以降は、その実習が適切におこなわれているか等の監査を実施します。
法改正により技能実習制度を巡る問題点の見直しへ
以前の記事で、2017年11月の法改正により外国人技能実習制度を巡る状況が大きく変わったと書きましたが、この改正により受け入れ調整機関や送り出し調整機関の在り方も大きく見直されることになりました。
それまでは各団体の方針に一任していた結果、独断で保証金を徴収したり、責任の所在を明確にしなかったり、といった悪徳や怠慢な行為が一部でおこなわれていました。また、実習生を保護する体制も十分とは言えないものでした。そのような状況の是正を図るため、法務省と厚生労働省は合同による有識者会議を2014年から重ね、問題点の見直しと改善策の検討を取りまとめました。その集大成が2017年の法改正です。この法改正の見直し部分について資料には以下のように記載されています。
- ・監理団体については許可制、実習実施者(介護施設)については届出制とし、技能実習計画は個々に認定制とする。
- ・新たな外国人技能実習機構(認可法人)を創設し、監理団体等に報告を求め、実地に検査する等の業務を実施。
- ・通報・申告窓口を整備。人権侵害行為等に対する罰則等を整備。実習実施者(介護施設)変更支援を充実。
- ・業所管省庁、都道府県等に対し、各種業法等に基づく協力要請等を実施。これらの関係行政機関から成る「地域協議会」を設置し、指導監督・連携体制を構築。
参考資料:技能実習「介護」における固有要件について(厚生労働省 社会・援護局)
また、国内の状況だけでなく、送り出し元の各国における状況の改善を図るため、各国と二国間の取り決めを作成し、送り出し機関として不適正な機関の排除を狙いました。すなわち、送り出し調整機関、受け入れ調整機関もに、いずれかの公的機関からの推薦、許認可を得た団体でないと、仲介に関与できなくなりました。法改正後の運用が浸透していくことにより、実習先(介護施設)、実習生にとって本来の望ましい状況へと改善されていくことが期待されています。
「EPA(経済連携協定)」における受け入れ調整機関について
EPAでも仲介する団体として受け入れ調整機関と送り出し調整機関が存在するのは技能実習制度と同様ですが、大きく異なるのは日本国内の受け入れ調整機関が「公益社団法人 国際厚生事業団(JICWELS)」のひとつのみである点です。そしてEPAを締結している各国の送り出し調整機関も以下のようにそれぞれひとつのみです。・インドネシアの送り出し調整機関「National Board (ナショナル・ボード:インドネシア海外労働者派遣・保護庁)」・フィリピンの送り出し調整機関「POEA(ピーオーイーエー:フィリピン海外雇用庁)」・ベトナムの送り出し調整機関「DOLAB(ドラブ:ベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働局)」
外国人技能実習制度よりもさらに公的な監理をおこない、原則として国の管轄下で適切に運用をする。それはEPAの成立理念とも言える「諸外国から人材を受け入れて国内の高度な教育を施す」という点から鑑みると当然のことと言えます。JICWELSの資料にも「国家資格の取得前は受入れ機関(介護施設)において、国家資格の取得を目標とした国家試験対策、日本語学習等の適切な研修を実施することが何よりも重要」との記載があります。すなわち、本制度は日本国内の受け入れ調整機関であるJICWELS、諸外国の送り出し調整機関、そして受け入れを実施する介護施設が一体となって介護福祉士の候補者の成長をサポートしていく制度であるという認識を持つべきと言えるのではないでしょうか。
参考資料:2019年度版 EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者受入れパンフレット(公益財団 国際厚生事業団)
「留学制度」における受け入れ調整機関について
留学制度は先の二つの制度と異なり、法的に定められた受け入れ調整機関は存在しないことが大きな特徴です。そのため、留学制度にて外国人の受け入れを検討する介護施設は、自ら日本語学校や介護福祉士養成校、または留学生を斡旋する企業と直接コンタクトを取ることが原則となります。また、複数の施設が共同でコンソーシアムを組んで募集から選考までをおこなうことでコスト軽減を図っているケースも散見されます。しかしながら、こうした場合には職業安定法第30条及び44条と関連する条文に抵触しないかどうかを注意する必要があります。・職業安定法第30条有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。・職業安定法第44条何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。
要するに、共同でおこなう場合はあくまで利益を創出するビジネスとしておこなっているような判断をされないように気を付ける必要があるということになります。なお、留学生を斡旋する企業は公的な許認可を受けた団体ではありません。また、不法就労を斡旋するなど、違法行為をおこなっている企業もありますので、利用を検討する際には注意するべきでしょう。
受け入れのスキーム及び関連法規については以下大阪府の資料の16ページにまとまっていますので、併せて参考にしてみてください。
参考資料:大阪府版在留資格「介護」による外国人留学生受入れガイドライン(大阪府社会福祉審議会 介護・福祉人材確保等検討専門部会)
まとめ
「技能実習制度」、「EPA(経済連携協定)」、「留学生受け入れ」それぞれにおける受け入れ調整機関の実情を解説しましたが、3つの制度で一番信頼性が高いのはEPAとなります。逆に一番信頼性が低いのは、公的な監理制度が脆弱な留学制度です。不法就労の斡旋等をしている企業も混在しており、信頼できるルート以外は強く注意を払う必要があると言えます。
そして、技能実習制度では先の法改正により、受け入れ調整機関、送り出し調整機関ともに改善が図られてきています。ただし、完全に改善がなされたかを見極めるのはこれからです。付き合いをする場合には過去の実績も含めて慎重に検討する必要があると言えるでしょう。