10月30日の朝日新聞・読売新聞など主要各紙によると、法務省が提示した、外国人労働者受け入れ拡大に向けた新しい在留資格「特定技能」創設に必要な出入国管理・難民認定法の改正案は、10月29日に約4時間に及ぶ審議の末、自民党法務部会で了承されました。
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新しい在留資格「特定技能」とは
単純労働に従事する外国人労働者を受け入れるための在留資格で、介護や農業、建設などの分野で受け入れを容認する方向です。特定技能1号と2号に分かれており、「1号」は、ある程度の日本語と即戦力となる技能を持ち合わせていることを試験で示せれば、最大で5年間滞在することが出来ます。
そして「2号」は、熟練した技能を持ち合わせていることを条件に、受け入れ停止・中止の措置が出るまでは日本に滞在し続けることが出来ます。家族の帯同も認められますので、実質的な移民の道が開けると言えるかもしれません。
外国人労働者永住に対し、厳格化を求める自民党内慎重派の意見
在留資格「特定技能」創設を巡り、2週に渡って開かれた自民党法務部会でしたが、出席した議員からは日本人の待遇や社会保障への影響、受け入れ態勢の不備などを指摘する意見が相次ぎました。
- ・外国人の採用で、日本人の給与や待遇の改善が遅れるかもしれない。
- ・実質的に移民の受け入れであり、外国人と日本人が仕事を奪い合う可能性がある。
- ・治安の悪化や住民トラブルにつながる恐れがある。
- ・永住した場合の医療や介護などのコストはどうなるのか。
介護など人手不足の業界からは、受け入れ拡大を求める声
一方で、人手不足に悩む関係団体へのヒアリングでは、建設や介護などの団体の代表者が口々に受け入れの拡大を求めました。
- ・東日本大震災後、人手不足が続き、若年層の確保に苦労している。
- ・介護保険制度を持続可能なものにするのに、人材不足が足かせだ。
このような状況を鑑み、政府は建設や介護など合計14業種(注1)で「特定技能」の適用を検討しています。
一部の保守系議員からの反発はあるものの、来年の夏に参議院議員選挙を控える与党としては、「特定技能」導入を希望する業界団体からの支持は非常に魅力的であるため、最終的には合意が得られると予想されていました。
※注1:適用が検討されている14業種
◇建設 ◇農業 ◇漁業 ◇飲食料品製造(水産加工を含む) ◇自動車整備
◇航空(空港グランドハンドリング・航空機整備) ◇造船・船舶工業 ◇素形材産業
◇電気・電子機器関連産業 ◇産業機械製造 ◇介護 ◇宿泊 ◇外食 ◇ビルクリーニング
「外国人受け入れに賛成派多数」世論調査の後押しも?
また、10月26日~28日に実施された読売新聞の世論調査では、外国人労働者の受け入れを単純労働者にも拡大する政府の方針に「賛成」は51%で、「反対」の30%を上回りました。同期間に行われた日経新聞とテレビ東京による世論調査でも、人手不足の分野での外国人労働者の受け入れについて「賛成」が54%で、「反対」の34%を上回りました。このような世論調査も追い風となり、最終合意に至ったと思われます。
施行まで1年を要した外国人技能実習制度。「特定技能」の急ごしらえは可能か?
しかし、来年の4月施行を目指す法案作りなので、拙速さは否めません。
国会で決められる法律は大枠のみであり、適用される業種や人数枠、受け入れ条件となる日本語・技能の水準など、多くの詳細は政令・省令等で決められることとなっています。外国人技能実習制度でも、法案の成立から施行まで約1年を要しました。果たして短期間で準備が出来るのか、非常に心配です。また、与党内からの疑問も多い法案なだけに、野党から細部を攻められた時に法案審議が耐えられるのでしょうか。成立まで二転三転しそうなだけに、予断を許さない状況だと思われます。
最後に
このように、日本では「特定技能」を急ピッチで整備しようと躍起になっていますが、果たして外国人は、日本で長期間にわたり働くことに魅力を感じるのでしょうか?
外国人の目的はお金を稼ぐことです。稼いで母国に持ち帰るから、裕福な暮らしができるのです。日本人が働きたがらない仕事内容に加え、日本で暮らし続けるには賃金も安いとなれば、日本に住み続ける意味はあるでしょうか?加えて家族の帯同を認める条件が厳しいとなれば、日本は「短期間の出稼ぎ先」という位置づけになると思われます。
さらに、世界には日本よりも高待遇で外国人労働者を招く国があります。日本で技術を磨いた実績は、これらの国から高い評価を受けます。
外国人労働者が「日本で長期間働いてくれる」という幻想は、捨てた方が良いのではないでしょうか。