EPAでの外国人介護士受け入れで生じる施設や現場にかかる負担増をどう考えるか

前回の記事でも解説した通り、EPAを活用した外国人の介護施設への受け入れでは、介護福祉士の合格が要点となります。国際交流の一環として存在する制度であり、人手不足解消のための手段ではないためです。しかし、現実問題として合格だけを目的とした場合、施設側にとってもはや義務とすら言える負担となりかねません。
そこで今回は、どういった点がEPA活用において問題となりうるのか施設側、候補者側それぞれの事情について解説していきます。

EPAでの受け入れ施設が抱える大きな負担

前回の記事で詳細を解説しましたが、介護施設がEPAで外国人を受け入れる場合、「施設」、「研修体制」、「働く環境」、「報告体制」をJICWELSが求めるレベルにしなければなりません。
それらの充実に向けた労力やコストは施設側にとって重荷としてのしかかるだけでなく、施設で働く現場の職員にとっても大きな負担増となることがあります。一例として、生活面の違いを受け入れることや実務における言葉の違い、日本語の未熟さから生じるすれ違いなどがその例として挙げることができるでしょう。

そして、一番の負担となるのは外国人の介護福祉士候補者が学習する時間を確保するために、彼らの業務を肩代わりしなければならないことです。ただでさえ、すでに人手不足が叫ばれて久しい介護業界において、人員が充実している施設はあまり多くありません。そのため、EPAの活用では施設に対して人員数が法律に定められた水準に達していることを基本要件として定めています。しかし、現実的には法律で定められた人員数ギリギリでは通常業務すら円滑に回すのは難しいと言わざるをえません。EPA本来の目的を逸脱し、人手不足の解消を狙った結果、逆にしわ寄せが現場の職員にいき、モチベーションを低下させかねないという問題を孕んでいるのです。

施設が苦慮する学習時間の確保

先述の通り、介護福祉士候補者の学習時間を確保することは施設、現場にとって大きな課題となっています。それでは実際のところ、どれくらいの時間を確保することが必要になるかを試算してみましょう。
介護福祉士候補者は資格取得に向け、学習を積み重ねていくことになります。以下、JICWELSの資料のモデルケースをもとに試算します。

<学習時間確保のモデルケース>

1~2年目  … 週7時間    → 2年間(104週)で   728時間

3年目前半 … 週10.5時間 → 半年間( 26週)で   273時間

3年目後半 … 週14時間   → 半年間( 26週)で   364時間 

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合計3年間(156週)で  1,365時間

3年間の合計だと「1,365時間」にも及ぶ時間を、勤務時間を削って勉強に充てることが望ましいということです。しかも、この数字は自宅における学習時間を除外したもので、実際には自宅での独学の時間も追加で必要というのがJICWELSの考えです。
しかし現状では、施設や介護福祉士候補者へのアンケート回答結果からは以下のようにモデルケースと大きな乖離が生じていることが明らかになっています。

<学習時間確保の実態>※アンケート回答結果の平均値

・ 施設側の回答・・・週6.1時間 → 3年間(156週)で 952時間

・ 候補者の回答・・・週5.0時間 → 3年間(156週)で 780時間

EPAでは受け入れ前の段階で研修プログラムの計画策定が求められていますが、現状の数字のみを見ると計画倒れに終わっている実情が伺えます。特に、モデルケースとの乖離幅は深刻とすら言えるでしょう。事実、候補者からは学習に関する悩みについて「時間が確保できていない」という回答の多さが如実に物語っていると言えそうです。この問題は労働時間などとの兼ね合いもありますが、住まいにおける自習環境づくりまで含めて改善していくことが求められています。EPAの目的が介護福祉士を取得するという前提に立つと、この状況はあまり望ましいものではなく、今後何かしらの対策や規制などが国から出される可能性も考えられそうです。

メンタル部分に悩みを抱えがちな介護福祉士候補者たち

介護福祉士候補者として来日するのは20代の若い人が主体です。その年ごろと言えば、国籍を問わず、友人や仲間と遊びたい盛りなのが普通です。しかし、候補者として来日すると、母国語で話をできる人がおらず、リラックスできないことも少なくありません。例え日本語が拙くとも日本で友人はできるかもしれませんが、「気の置けない友人」が近くにいないことは大きなストレス要因となりかねません。そのような状況下で、施設における実習や受験学習に集中するというのも酷なことなのかもしれません。
だからこそ、受け入れ施設側としては彼らの状況を想像し、思いやる配慮・サポートが求められます。それは義務とも言えますが、「ともに働く仲間」として一緒にどう頑張っていけるかという視点を持ちたいところです。介護福祉士の合格に向け、どう協力できるか。こうした姿勢がチームワークや職員間の連帯感を生み、施設内に良い影響が働くケースもあるようです。

まとめ

EPAの活用においては多くの場合、施設側、候補者側双方に問題を抱えているのが実情です。しかし一方で、円滑に受け入れ、資格取得の合格率も高い施設も存在します。そこを分けるポイントはもちろん経営体力に余力があるといった現実的な側面も否めないところです。しかし、それ以上に現場の職員がEPAの目的・成立理念をしっかりと理解し、その上で介護福祉士候補者をサポートできるか。そして施設側がそのためのサポート体制を整える努力をしているか、という点が重要ではないでしょうか。そのように個々が最適化されている施設は利用者にとっても魅力的に映り、満足度も高くなるといった副次的な作用ももたらします。
EPAでの受け入れにおいては、短期的・近視眼的な観点ではなく、長期的・俯瞰的な視点を持った取り組み、経営姿勢が求められていると言えるのではないでしょうか。