EPAの制度を活用して外国人を受け入れる施設にとって、その外国人が介護業務にどれだけの期間携わってくれるかという点は、イニシャルコストの回収という観点から重要です。たとえばイニシャルコストを300万円と設定した場合、5年だと60万円/年、10年だと30万円/年、20年だと15万円/年と携わる期間が長いほど年あたりコストとしては低くなります。
そこで今回は、EPA活用時にポイントとなる「受験をするかどうか(受験率)」、「合格するかどうか(合格率)」、「資格取得後も就労を継続するかどうか(資格取得後就労継続率)」という3つの数字を解説していきます。
来日しても全員が受験をするわけではないという事実
国際厚生事業団(JICWELS)の資料によると、受け入れ人数から実際の受験まで至った人数で算出すると、受験率は約83%となっています。介護福祉士の資格を受験するためには3年間の実務経験が必要となりますが、その経験期間中に約20%近くが母国へ帰国してしまうということになります。遠い異国の地で業務に勤しみつつ、資格合格を目指した勉強までおこなわねばならない立場を考えると、この数字は決して多いとは言えないのかもしれません。むしろ日本国内において新卒大卒者の、就業後3年間での離職率が約3割という数字を見ると、健闘しているという見方もできます。
外国語で専門領域の試験を受けるという難しさ
日本語で書かれた試験問題に取り組むことは、日本語を母国語とする日本人ならば大きな問題にはなりません。しかし、外国人であるEPAでの介護福祉士候補者にとっては、大きな障壁となります。日本人でも例えば、ビジネス向けの日商ビジネス英語検定といった試験を受けるという想定をしてみると、少し理解できるかもしれません。日常会話として英語を使えてもビジネスの場だと専門用語や様式が増え、難易度が一気に高くなります。同様のことが外国人の介護福祉士の受験にも言えるのです。
こうした点を考慮し、厚生労働省ではEPAを前提とした外国人に対し、受験障壁を下げるために設問にルビを振ったものを利用したり、試験時間が1.5倍となったり、といった優遇措置を設けるように要請しています。また、問題作成にあたっても外国人の受験を観点に入れるように下記のように検討会を実施するなどして対策を図っています。
参考資料:経済連携協定(EPA)介護福祉士候補者に配慮した国家試験のあり方に関する検討会報告
しかし、合格率は国によってまちまちですが、直近3年間だと概ね50%程度となっているのが現実です。
すなわち、仮に100人入国したとすると83人が受験に至り、合格するのは41~2人にとどまるということです。
介護福祉士に合格してもそのまま日本に残り続けるのは・・・
ここまで見てきたように、受け入れから合格に至るのは来日する人数のうち約40%程度です。原則、滞在資格が無制限で延長できるため、資格さえ取得してくれたら、長期に渡って就業してくれるものと受け入れ側は期待してしまうことでしょう。受け入れのうち約40%が長期間働いてくれるのであればイニシャルコストも惜しくないのではないかと。
しかし、現実はもう少し厳しい数字を突き付けています。少し古い平成28年度発表の資料となりますが、JICWELSの調査によると、355人の通算合格者のうち105人が帰国していることが明らかになっています。もちろん資格取得後の日本での就業期間が長いほどその確率は上がるだけに一概には言えません。しかし、3人に1人は帰国しているという事実は受け止める必要がありそうです。要するに、最初に受け入れた人数のうち約3分の1しか長期的に定着しないということです。
下記資料では、日本で長期間就業したいという回答は約50%となっています。すなわち、そもそも彼らは、長期間働くことを前提として日本に来ているわけではないという可能性も、この回答からは伺えます。受け入れ側としてもそこを念頭に置いて、採用計画を立案する必要があるのではないでしょうか。
参考資料:外国人介護士の現状 ~EPAによる受入れを中心として~
まとめ
EPAでは、主に看護大学を卒業した比較的高学歴の外国人が来日するため、介護福祉士の国家試験も簡単に合格するものと楽観視しがちです。しかし現実はさまざまな課題もあり、なかなか厳しい状況になっていることがご理解頂けたかと思います。
就労してもらう側の立場としては、イニシャルコストをかけるからには長期間働いてもらいたいというのは当然の願望です。しかし、そこに彼らの立場や実際の状況を踏まえた上で、受け入れを検討することが必要かもしれません。