日本国内の企業における数年来の課題のひとつに人手不足が挙げられますが、中でも介護職に関しては厳しい状況が続いています。介護施設の中には足りない人員数での現場対応を余儀なくされ、疲弊しているところも少なくありません。不足状態が慢性化することで負の連鎖が生じ、運営が立ち行かなくなるようなケースも実際に出てきています。
こうした状況を受け、政府でもさまざまな対策を講じてきていますが、中長期的に見ると、より厳しい未来が待ち構えています。介護業界の人手不足問題がどういう状況なのかを解説していきます。
今後、大都市を中心に38万の人材が不足するという現実
日本ではデフレ不況などの影響で長期にわたって少子化が進んだ結果、2008年をピークに総人口は減少に転じています。一方で、65歳以上の高齢者人口は上昇するばかり。平均寿命の伸長もあり、2018年9月時点で総人口における高齢者の比率が28.1%と過去最高を記録しています。このままのペースだと2025年には30%、さらに2040年には35%を超えてくるものと国立社会保障・人口問題研究所の推計は明かしています。
他の先進国には類をみない高齢化の道を歩み続ける日本。さらには、寝たきり年数が他国と比較しても長いという事情も加わります。すなわち、要介護の高齢者の人数が増えていくことを意味します。そのため、他国以上に日本ではその高齢者をケアする介護人材が必要になってくるのです。
しかし、そうした想定に対し、厚生労働省の試算は厳しい現実を突きつけています。「2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について」と題した2015年発表の資料によると、2025年時点での介護人材の需要見込みは253万人。一方で介護人材の供給は215万人で、38万人という大きなギャップが生じています。また、各都道府県別の需給ギャップも公表されており、東京や大阪では3万人以上、その周辺地域では2万人以上の不足が予想されなど、大都市を中心に数万人単位での不足が予想されています。
参考:2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)についてhttps://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12004000-Shakaiengokyoku-Shakai-Fukushikibanka/270624houdou.pdf_2.pdf
もはや介護の仕事をやりたがらない日本人
公益財団法人の介護労働安定センターが作成した「平成29年度介護労働実態調査」によると、全国の人材不足を感じている介護事業者の割合(「大いに不足」、「不足」、「やや不足」の合算)は66.6%となっており、この数字は年々若干の前後はありつつも上昇しています。その背景には、新しい人材の採用が難しいという事情があります。「採用が困難」と述べる介護事業者が回答したところによると、「賃金の低さ」、「仕事内容の厳しさ」、「社会的評価の低さ」などといった厳しい現場の実態を顕にした理由が並びます。これらは世間的なイメージとも重なっており、短期的に好転することは到底期待できそうにありません。
実際、介護福祉士養成施設の定員充足率は年々低下し、直近3年間は50%を割り込んでいます。平成30度は44.2%と過去最低を記録しているだけでなく、急増する外国人留学生が入学者の約17%を占めるなど日本人の若い世代の介護職離れが進んでいます。また、介護福祉士の資格保有者が国内に約150万人いるにもかかわらず、そのうち実際に介護職に従事しているのは80万人程度にとどまります。すなわち、資格取得者が減るだけでなく、せっかく資格を取得してもその資格を活用した仕事に就いていないのです。介護を担える人材がいないのではなく、介護の仕事に従事することを敬遠している傾向がわかります。
介護人材の不足に対策を講ずる国や自治体
介護人材不足が加速する中、国も手をこまねいているだけでなく、対策を講じてきています。例えば待遇問題では、これまで年度を分けながらも通算で月額5.3万円相当の改善を促してきており、2019年度もさらなる上積みを求めています。また、先に説明したように資格を有しながら介護職を離職しているような人材に再度、働き手になってもらうべく、再就職の動機を高める施策なども進めています。
他にも、介護業界に興味を持った人材に対し、就業時の不安払拭を目的とした「入門的研修」を新設しました。また、これまでは訪問介護の業務に従事する場合、最低でも130時間に及ぶ「介護職員初任者研修」の受講が絶対条件となっていたのを緩和し、「生活援助従事者研修」(59時間)を新設しています。
もちろん動いているのは国ばかりではなく、各自治体も個々に取り組みを推進しています。例えば、神奈川県川崎市では「川崎市福祉人材バンク」を設置し、「人材の呼び込み」「就労支援」「定着支援」「キャリアアップ支援」それぞれで対策を打ち出し実行に移しています。
参考:川崎市における介護人材確保・定着の取組概要http://www.city.kawasaki.jp/350/page/0000070055.html
まとめ
まずは国内の人材だけで介護士不足を解決するべく取り組みを進めてきたものの、成果を上げていないことは明白です。その流れで出てきたのが外国人の活用です。EPAや留学制度に加え、2017年には技能実習制度が、そして2019年4月には特定技能が新しい在留資格として誕生する予定です。加速する高齢化社会を考慮すると、もはや待ったなしの状況であり、外国人の受け入れは積極的に進めなければなりません。次の記事にて詳しくは解説しますが、早めのアクションをとらなければ、その外国人すらも採用できなくなる可能性があることも頭に入れておくべきでしょう。