2019年4月よりスタートする新しい在留資格【特定技能】。人手不足が深刻で、外国人介護士の採用を真剣に求めている介護業界において、4つ目となる在留資格の誕生です。
【特定技能】で外国人材を受け入れるには、その業界が人手不足なだけでは不十分です。様々な施策を実施しても、なお人手不足が解消しない場合において、受け入れの必要性が認められるのです。介護業界では、国内での人材確保のため介護士の処遇改善を継続しています。また、生産性向上のため介護ロボットやICTの活用による業務負担軽減に引き続き取り組むほか、介護業界に入りやすいよう「入門的研修」を創設したり返済免除の「奨学金」を準備したりするなど、様々な施策を実施しています。しかし、有効求人倍率の上昇や少子高齢化による働き手の減少および要介護者の増加により、日本国内の人材だけでは不足を補えないと判断されています。全体では向う5年間で約30万人の介護人材が不足すると予想されていますが、その不足の一部を穴埋めするため、在留資格「特定技能」において約6万人の外国人介護人材が来日するものと期待されています。
そこで、今後注目度が増す「特定技能」についてより詳しく確認してみましょう。その①は主に外国人個人に関すること、その②は主に介護施設に求められることにわけて解説していきます。
※ 以下の文章は、先に当社コンテンツ【介護分野で4つ目の在留資格「特定技能」が誕生】(https://www.hni.co.jp/775/)で基本的な点を確認していただき、その続きとしてご覧いただくことをお勧めいたします。
目次
介護分野は「特定技能1号」のみ
合計で14分野におよぶ「特定技能」には、在留期間が通算で5年間の1号と、在留資格の更新に制限がない、より高度な人材向けの2号がありますが、介護分野において2号は認められていません。介護分野では2号に相当するものは「介護福祉士」の国家資格の取得であると明示されています。特定技能1号で在留中に「介護福祉士」の国家試験に合格すれば在留資格「介護」が得られます。在留資格「介護」を得られれば、特定技能1号ではできなかった家族の呼び寄せが可能となり、在留資格の更新に制限が無くなるので、家族と一緒に永住出来る可能性が生まれます。介護分野における高度な人材とは「介護福祉士」であるという明確な国の意思表示がなされていますので、本当の意味で長い間働いてもらうためには「介護福祉士」の国家試験合格と、その合格に向けた法人サイドや仕事現場の支援が欠かせません。
最初に「在留期間が通算で5年間」と記述しましたが、過去に特定技能1号で入国していれば、その期間は当然に通算としてカウントされます。また、失業中や産前産後・育児休暇中、労災による休暇期間なども在留期間に含まれます。たとえ雇用契約期間中であっても、在留期間が通算5年に達した時点で以後の在留は認められませんので注意が必要です。
在留資格「特定技能1号」を取得するための条件
特定技能は、18歳以上の年齢であれば学歴も職歴や経験も問われませんので、幅広い人材が対象となっています。本人が健康であることはもちろん、ある程度の日本語が出来ることと、一定の技能のレベルがあることが条件となります。それでは、1号を取得するための3つの方法について確認してみましょう。
1つ目は試験に合格をすることです。
①「介護技能評価試験」
②「国際交流基金日本語基礎テスト」
③「介護の日本語の評価試験」
①の試験で、介護技能の水準が要件を満たしているか、評価されます。
②と③の試験で、日本語能力の水準が要件を満たしているか、評価されます。
①~③の合計3種類の試験に合格する必要がありますが、②の「国際交流基金日本語基礎テスト」は「日本語能力試験(N4以上)」の合格で置き換えることができます。
2つ目は介護分野の技能実習制度において、2号技能実習を修了することです。
「修了」とは、3号技能実習へ移行するための実技試験に合格していることを意味します。
2号技能実習を修了していれば、上記①~③の試験を受けることなく在留資格を「特定技能1号」へ変更することが可能です。2号技能実習の修了者は約3年間(3号は約5年間)介護施設で実務経験を積んでいますので、まさに特定技能が謳っている「即戦力」の人材であることに間違いはありません。また、技能実習で3~5年と特定技能で通算5年の合計8~10年も日本で働くことが出来ます。少しでも長く働いてほしいと思っている介護施設にとっては希望の光となるかもしれませんね。
但し、技能実習制度において外国人介護人材の受け入れを開始したのが2018年7月以降ですので、在留資格の変更がスタートするのは 2021年の7月以降となります。
3つ目は、介護福祉士養成施設を修了することです。
外国人が介護福祉士養成施設に入るためには、日本語教育機関で6ヶ月以上の日本語教育を受けたこと等が求められることに加え、入学後の2年以上の養成課程において、450時間の介護実習のカリキュラムを修了することが求められます。その実績が試験合格と同等以上と評価されるので、試験が免除されるのです。
ここで「あれ?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そもそも、介護福祉士養成施設を修了すると「介護福祉士」の国家資格が、試験無しでも暫定的に与えられます。養成施設を修了後、国家試験に合格するか5年間介護の仕事を勤続すれば正式に介護福祉士として認められます。但し、これは2021年度の卒業生までの特例となっています。ということは、今まで何度も延長されてきた特例が、いよいよ無くなる可能性が大きくなってきたと言えるのではないでしょうか。
日本人の若者の間では介護職種への人気が低下しているため、介護福祉士の養成施設は大幅な定員割れが生じていました。その穴埋めをするために、日本語レベルが低い外国人留学生でも入学させてしまう養成校が散見されています。また、とにかく何とかして卒業をさせてしまえば介護福祉士の国家資格を取得できて、在留資格「介護」を得ることが出来るので、5年10年と働いてくれる人材として当てにしている介護施設も散見されます。その都合の良い目論見は戦略変更を余儀なくされる可能性が出てきました。当たり前と言えば当たり前ですが、本来の留学制度に則った取り組みが求められます。
特定技能1号の試験は、どんな試験?
特定技能1号の在留資格を得るためには試験に合格する必要があることは先ほど述べましたが、どのように試験が行われるのでしょうか。
①「介護技能評価試験」
②「国際交流基金日本語基礎テスト」
③「介護の日本語の評価試験」
試験が3種類あるのは介護分野だけですが、いずれも年間に6回程度実施される予定です。2019年4月にはフィリピンで実施されます。当初ベトナムでも4月に実施が予定されていましたが、数か月先延ばしとなったようです。また、他の分野のように日本国内で試験が実施されるかどうかは検討中となっています。(2019年4月現在)
全ての試験は「コンピューター・ベースド・テスティング(CBT)方式」という、パソコンのディスプレイに表示された試験問題に対して、マウスとキーボードを使って回答する仕組みとなります。
「①介護技能の評価試験」もこの方式で実施されますので、技能の知識を問われることとなります。例えば技能実習制度では、実際に人間の体を使って技能が身についているか否かを試験で確認しますが、特定技能はパソコンを使用する・・・つまり人間の体を使わない試験です。試験対策の勉強をすれば良く、外国での教育内容が実技や実務を伴わない可能性もあります。この試験方法では実技能力が合格レベルに達しているのかを見極めるには不十分かもしれません。
在留資格「特定技能」を取得するための方法である、2つ目の2号技能実習の修了者や3つ目の介護福祉士養成施設の修了者と比較すると、1つ目の試験合格者は、入国は出来ても即戦力ではない可能性があるかもしれませんので、事前に十分確認する必要があるのではないでしょうか。
また「①介護技能の評価試験」のレベルも示されています。2号技能実習者のための試験である3級相当(技能実習制度における3年目までに合格が求められる試験)の合格水準と同等の水準が設定されるようです。仕事現場を2年以上経験した人材向けの試験と同等の水準ですので、実務経験が無いと難しく感じるかもしれません。
※ 厚生労働省HP参照:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_000117702.html
人員基準に、いつカウントできるの?
特定技能1号で在留する外国人は、「即戦力」という位置づけになります。即戦力ですから、勤務当初より人員基準にカウントできます。当初6ヶ月間はケアの安全性を保つためにも職場や仕事に慣れるために日本人と一緒に働くよう求められています。条件付きではありますが、技能実習制度やEPAでは入国後の研修を終え、介護施設に着任してから6ヶ月を経過しないと人員基準にカウントできませんので、特定技能の優位性が際立っていますね。
但し、注意が必要です。前述にように外国で学んで試験に合格し、直接外国から日本の介護施設へ来て働く場合、実務経験はおろか実技研修すら皆無な可能性もあります。人員基準を満たすことを主目的に外国人を採用した場合、期待した技能レベルではないため現場が混乱することも予想されます。事前に十分確認することをお勧めします。
どんな仕事ができるのか、訪問介護は・・・
介護分野で特定技能1号の在留資格を得た外国人介護士が従事できる仕事の内容は、技能実習制度と同じです。身体介護(入浴・食事・排泄の介助等)と、これに付随する支援業務(レクリエーションの実施、機能訓練の補助等)に限られています。また、日本人が通常することとなる関連業務(例:お知らせ等の掲示物の管理、物品の補充等)や安全衛生業務(安全衛生教育、福祉用具の使用方法及び点検業務等)も含まれます。介護分野の仕事以外をさせることは、資格外活動となるため禁止されていますので注意が必要です。
また、【訪問介護】等の訪問系サービスは対象外となっていますし、住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅は、原則として介護サービスは提供していませんので受け入れ機関(以下、「介護施設」と言います)として認められないこととなります。このあたりも技能実習制度と同様ですね。
「転職」が認められている。
特定技能1号の在留資格で入国した外国人は、労働者としての権利である「転職」をすることが認められています。例えば介護施設がこの権利を脅迫や身体拘束などで制限・侵害した場合は労働基準法違反となり、今後5年間は特定技能外国人の受け入れをすることはできません。このようなことをすることは無いと思いますが、一生懸命に教育した人材が他へ行ってしまう無念さから、スタッフが思わず怒鳴ったり手を出したりしてしまわないよう注意が必要です。特定技能は現在14の分野にわかれており、その分野を更に細分化した「業務区分」内での転職が可能です。介護は分野の中が細分化されていませんので、転職先も同業である介護施設ということになります。
日本人の介護職員が定着しない、すぐに退職してしまう・・・だから外国人を雇用しよう!と思っても、外国人だから定着するとは限りません。今はSNSが発達しているので、友人・知人から自分たちの勤める法人の雇用条件や他法人の噂が簡単に手に入ります。また、外国人向けの転職サイトや転職斡旋業者の動きが活発になっていくことは、十二分に予想されることに、異論を唱える人は少ないと思います。
雇用条件や労働環境が良い介護施設から誘われたら・・・誰でも心が揺らぐのではないでしょうか。特定技能1号で外国人採用を目指す場合、まずは自分達の足元を見つめ直す必要があると思います。
採用可能な人数は?
特定技能1号における介護分野では、事業所ごとに採用可能な人数に上限を設けています。上限は、日本人等の介護職員の常勤職員数の総数を上回ってはいけません。
ここで気を付けたいのが常勤職員数の数え方です。介護分野には「常勤換算」という数え方があります。これは、非常勤で働く人の労働時間数を計算し、合計8時間になれば「常勤1名」とカウントする方法です。介護保険に基づく人員計算は常勤換算ですが、この特定技能は「常勤職員数」つまりフルタイムの正社員の介護職員数を意味します。常勤換算では20名介護職員がいるとして、そのうち10名がフルタイムの正社員ならば、特定技能1号で採用できる外国人の上限は10名となります。
念のため再確認しますが、上限は事業所ごとであり法人ごとではありませんのでご注意ください。
その①のまとめ
ここまでは主に外国人個人に関することをまとめてみました。技能実習制度とは異なり、学歴や職歴・経験が不問であることは多くの人材を必要とする介護分野にとって、人材供給の裾野が広がるという喜ばしい制度設計と言えるのではないでしょか。しかし一方で、新興国では最終学歴が中学校卒業レベルも珍しくありません。介護は高度なコミュニケーションを必要とする仕事であり、日本語の修得が必須です。勉強した経験の浅い人材がどれだけ学習ストレスに耐えられるのか、不安も残ります。特定技能では5年間で6万人の受入を目指しています。技能実習からの移行組を考慮しない6万人という数字だけが独り歩きして合格者を増やすために試験レベルを落とせば、そのしわ寄せが介護現場に来ることは火を見るよりも明らかです。本当に優秀な外国人を採用するにはどうすれば良いのか、介護施設として知恵が必要なのは言うまでもありません。この後に続く「その②」では、特定技能外国人を受け入れる介護施設に対して求められることをまとめますので、是非あわせてご覧ください。