特定技能介護分野での受け入れ、その詳細に迫る!その②【介護施設に求められる基準】

前回に引き続き、特定技能についてより詳しく確認してみましょう。介護施設として特定技能外国人材を受け入れるためには国が定めた基準をクリアする必要があります。外国人を受け入れる基盤は整っているのか? 言葉が分からない外国人が安心して働き・暮らすことが出来るのか? 等々、どのようなハードルがあるのかを確認していきます。嘘の申請や法令違反を犯した場合は5年間の受け入れ停止など厳しい処分が課せられるものもありますので、受け入れに際してはしっかりと準備をしていきましょう。

直接雇用が必須。「賃金は日本人と同等以上」とは?

介護分野において特定技能1号で外国人を迎え入れる場合、外国人と介護施設との間でフルタイムが前提の直接雇用の契約を結ぶことが求められます。農業や漁業のように季節性のあるものは派遣会社が外国人と雇用契約を結び、その派遣会社から受け入れることも可能ですが、介護分野では認められませんので注意してください。

試験合格後に雇用契約を結ぶのが一般的かと思われますが、合格前に雇用契約を結んでも違法とはなりません。大学のカリキュラムとして介護の勉強をしている場合や、日本を目指して一から勉強を始める場合など、外国人の置かれた立場によっても異なるでしょう。日本側の立場から考えると、合格者と雇用契約を結びたいのは理解できます。逆に外国人の立場になって考えると、先に雇用契約を結んでもらえれば、目標が明確になりやる気も出ますし安心して勉強に集中もできます。また仲介する事業者の希望や国家レベルでの基準などが今後出てくるかもしれません。

雇用契約を結ぶうえで注意しなければならないことがあります。それは、「外国人は低賃金労働者ではない」ということです。どうしても過去の考えが拭い去れない、誤った認識を持ったままの人がいます。特定技能で入国してくる外国人に対しては、同じ業務をしている日本人労働者と同等額以上の賃金を支払うことが求められています。加えて一時帰国を希望した場合には休暇を取得させること、契約終了後に円滑に出国できるよう旅費の無い外国人に対しては介護施設が負担すること等が、外国人と結ぶ雇用契約において満たすべき基準となっています。

さらに2つ注意点があります。
1つ目は、技能実習生が既に働いている場合です。
技能実習2号修了者は特定技能へ試験無しで移行できます。つまり、特定技能の人材は技能実習2号修了者と同程度の技能を有していることになりますので、支払われるべき賃金は技能実習2号の水準を上回ることが、法務省の資料によると想定されています。

2つ目は、様々な基準に目配り・気配りする必要がある点です。
特定技能における介護分野は他の分野に比べて不利な点があります。それは試験が1科目多いことです。わざわざ苦労して勉強しなくても、同一水準の賃金額が、例えば宿泊分野や外食分野の会社から提示されたら、あなたならどちらに行きますか? 看護系の大学を出ている人材ならばいざ知らず、一般の人で介護の仕事がしたい外国人は稀です。要介護高齢者が少ない新興国では介護と言う概念が希薄だからです。介護分野に来てくれる人材のボリュームは、多いでしょうか?それとも少ないでしょうか? ボリュームが少ないと人材争奪戦になるのは必至です。採用を強化するために外国人向けに賃金を配慮すると、今度は日本人に対する賃金も再検討が必要になる可能性があります。介護分野だけ見てもダメ、外国人だけ見てもダメ、日本人を含めた全体に目配り・気配りが必要なのです。

介護施設が満たすべき基準とは

この他にも特定技能外国人を受け入れるために介護施設が満たすべき基準として、主に以下のものが挙げられています。

① 労働・社会保険および租税に関する法令を遵守していること。
② 特定技能と同種の業務に従事する労働者を、無理やり退職させていないこと。
③ 受入れ機関が原因で、行方不明者を発生させていないこと。
④ 欠格事由(前科、暴力団関係、不正行為等)に該当しないこと。
⑤ 労災保険関係の届け出を適切に実施していること。
⑥ 受入れ機関の経営基盤が安定していること。
⑦ 外国人の支援に必要な費用を、外国人に負担させないこと。
⑧ 保証金を徴収するなどの悪質な紹介業者等の介在がないこと。
⑨ 受入れ機関が違約金を定める契約等を締結していないこと。
⑩ 報酬を預貯金口座への振込等により支払うこと。

①~⑤に関しては過去の法人の実績が影響しますので、不適切な事があればアウトです。

⑥は直近2年間で欠損金や債務超過がある場合は、その内容を総合的に判断されることとなります。「総合的に判断」と書きましたが、よっぽど上手く作文しないとアウトになることは間違いありません。そもそも、経営が上手くいっていない介護施設に、一時的に混乱を招く恐れがある外国人が来てもお互いに不幸になるだけです。いや、言葉が上手く通じない外国人の方が不幸の度合いは大きいので、最初から諦めることをお勧めします。

⑦~⑩は、外国人からの搾取が問題になっている技能実習制度や留学制度を反面教師としていることは明確です。特定技能まで同じことをしていては、誰も日本に来てくれませんので間違いの無いように事前準備を進めることが大切です。

外国人を支援する体制を整える。

外国人が日常生活・職業生活・社会生活で困らないように介護施設が「支援体制」を整えることが求められます。そして、その体制のもとで「支援計画」を策定し、責任をもって計画を実行しなければなりません。
まず、介護施設がどのような体制を作る必要があるのでしょうか。以下の3つが主なポイントとなります。

① 2年以内に中長期在留者の受入れ又は管理を適切に行った実績があること、そして役職員の中から支援責任者および支援担当者を選任していること。(兼務可)
② 外国人が十分理解できる言語で支援を実施することができる体制をつくること。
③ 支援責任者および支援担当者が、支援計画を中立的な立場で実施でき、かつ、欠格事由に該当しないこと。

大きな課題は①の実績の有無になります。
まず「中長期在留者」とは、就労できる在留資格を持っている外国人のことです。同じ外国人であっても日本人の配偶者や永住外国人・定住者は含まれません。また、留学生がアルバイトとして働いている事業所もあると思いますが、在留資格「留学」は本来就労を認めていません。あくまでも資格外活動としてアルバイトが認められているのであって、①の基準を満たすことは出来ませんから注意が必要です。
支援責任者および支援担当者は兼務できますが、事業所ごとに選任する必要があります。

②に関しては、外国人の母国語が話せるネイティブの人材を雇用することがベストですが、翻訳や通訳を外部に委託しても差し支えありません。支援計画は日本語だけでなく外国人が理解できる言語で作成することを求められています。

③に関しては、支援責任者および支援担当者が、外国人が働く現場の上司等だと言いたいことが言えない可能性があります。そのためにも、中立的な立場で支援計画を実行できる体制が求められているのです。

支援計画を策定・実行する

続いて、策定する支援計画に含むべき業務の、主なものをあげます。

① 外国人に対する入国前の事前ガイダンスで情報を提供する
② 入国時の空港等への出迎えおよび帰国時の空港等への見送り
③ 外国人の住宅を確保する(保証人になる等の住宅確保の支援)
④ 外国人に対する在留中の生活オリエンテーションの実施
⑤ 仕事や生活のための日本語習得の支援
⑥ 外国人からの相談・苦情への対応
⑦ 外国人と日本人との交流の促進に係る支援
⑧ 外国人が原因ではない理由で特定技能雇用契約が解除された場合において、特定技能1号の在留資格で働ける場所を探す支援

となっています。
この中で大変な労力を必要とするのは①と④になると思います。

①の事前ガイダンスによる情報提供は、書面やメールだけではなく対面もしくはテレビ電話による実施が求められています。情報の内容も雇用契約・入国手続き・保証金・違約金・送出し機関へ支払った費用の内訳・渡航費用やルート・住居のことは必須で、入国時の気候や服装、持って来るべきものやお金、逆に持ってきてはいけない物など、多岐に渡る情報のやり取りが必要です。

④の生活オリエンテーションにおいては、最低8時間は実施するよう要請されており、行政手続・銀行口座・携帯電話・医療機関・交通ルール・交通機関・生活ルールやマナー・買い物・天気や災害情報・違法行為・・・と、項目だけ上げましたが、それに内容が付随しますので大変なボリュームです。
また、いずれも日本語だけでなく外国人が理解できる言語、つまり母国語で伝える必要があるので翻訳・通訳の手を借りる必要があるのは言うまでもありません。

この大変な支援計画の策定・実施については、一部または全部を、この後で記載します【登録支援機関】に委託することが出来ます。

在留資格の認定を受ける

支援計画が策定できましたら、在留資格認定証明書の交付を地方出入国在留管理局へ申請します。(以下は主な添付資料の概要です)

○ 法人・介護施設の概要  ○ 雇用契約書の写し
○ 外国人の支援計画    ○ 日本語能力を証明する資料
○ 技能を証明する資料 等

新たに受け入れる場合、申請書類を提出してから交付を受けるまで1~3ヶ月程度必要になるそうです。更新の申請は2週間~1ヶ月程度の見込みで交付を受けられそうですが、法改正や季節要因などもありますので、余裕を持って準備をすることが大切です。
在留資格認定証明書を受領しましたら、次は外国での手続きになります。受領した証明書を外国人(または仲介の代理人)に送り、外国の日本大使館・領事館に査証(ビザ)の申請をおこないます。査証(ビザ)を受領しましたら、いよいよ日本へ入国できます。

入国までに必要な期間は?

さきほど、新たに受け入れる場合は在留資格認定証明書の交付に1~3ヶ月ほど必要になると申しましたが、それでは実際に入国までにどれだけの期間を必要とするのでしょうか。
ここでは、全く最初から勉強を始めるベトナム人を事例に検証してみます。
まず、勉強の動機となる雇用契約を結ぶところから始めます。
雇用契約等が終わりましたら、いよいよ日本語の勉強を開始します。ベトナム人の介護の技能実習生の実績から考えますと、N4の試験に合格するには早くて半年、平均で7~8ヶ月を必要とするようです。特定技能ではそれに「介護の日本語」と「介護技能」の勉強が加わります。ある程度日本語のレベルを上げないとこの2つは勉強できませんので、N4レベルになってから勉強開始となります。
7ヶ月でN4レベルに到達したとしても、日本で仕事をするうえではN3レベルを目指すべきですので、引き続き日本語の勉強は必要です。それに介護の日本語・介護の技能の勉強を加え、試験に合格できるレベルになるには、平均すると1年間は必要なように思えます。つまり、試験の合格に必要な1年間(12ヵ月)に在留資格認定証明書の交付に必要な1~3ヶ月を加えますと、13~15ヶ月を見ておかなければなりません。

登録支援機関とは

介護施設は、外国人を支援する体制を整え、支援計画を策定・実行する必要があります。しかし、それらが難しい場合、「登録支援機関」にそれらを委託することが出来ます。
特に、介護施設では体制を整えるのが難しい<外国人をサポートした実績やその経験がある>および<外国語でのサポート体制が整っている>という条件を満たすためには、登録支援機関に外国人の支援計画全部を委託すれば、介護施設として外国人支援に関する基準をすべて満たしたとみなされます。「一部委託」ではなく「全部委託」が基準を満たす条件ですので注意してください。
登録支援機関は、出入国在留管理庁長官の登録を受ける必要があります。登録されると出入国在留管理庁のホームページに掲載されますので、探しやすいですね。
登録支援機関は、既に様々なノウハウを持っているので支援計画を任せると安心できます。しかし、受け入れた外国人の人数に応じて手数料を請求されるタイプが多いと思われます。制度が誕生したばかりですので、一人当たりの手数料をどれだけ請求されるかは未知数ですが、多くの登録支援機関が生まれ、サービス内容から価格まで様々なものが出てくると思います。特に価格競争になると目先の金だけに執着する登録支援機関出てくるのは目に見えていますので、どの登録支援機関が良いのか見極めが大切になってきます。
外国人が少ないうちは良いのですが、やがて人数が増えてきますと手数料もバカになりません。中には登録支援機関に頼らずに自分たちで外国人支援を実施したいと願う介護施設も出てくると思われます。実は、正しい方法で準備を重ねれば、登録支援機関に頼らず外国人支援体制の基準を満たすことは可能です。
「自分たちが雇用する外国人は自分たちが支援する!」という強い気持ちと正しい知識があれば、課題をクリアすることは難しいことではないのです。

最後に

特定技能の詳細に迫る!と題して、「その①」では主に外国人個人に関することをまとめました。そして「その②」では主に介護施設に求められることをまとめました。
この特定技能は法律も急ごしらえですし、2019年4月1日スタートと言ってもフィリピン以外では試験の日程すら決まっていないなど、準備も遅れています。また4月13日~14日に試験が実施されましたが、受験できる人数が少なかったため多くの批判を浴びました。そこで慌てた厚生労働省は、5月と6月に試験を合計3回追加で実施することを決めるなど非常にバタバタしており、準備不足は否めません。(2019年4月19日現在) 
特定技能は、当初より申し上げていた通り技能実習制度の2号修了者が、引き続き日本で働けるようにするための制度として、秋の参議院議員選挙を睨んだ自民党の集票戦略であることは間違いありません。
技能実習制度において介護分野が初めて採用された際にも、日本では大騒ぎしていましたが、蓋を開けてみれば法律施行から約1年遅れで技能実習生が入国し始めました。特定技能も同様に諸外国は様子見をしており、騒いでいるのは日本だけです。相手国も制度を整える必要がありますし、何より外国人が特定技能を理解して、試験勉強をするための時間が必要であることは念頭に置く必要があります。
そして特に今回の特定技能では、外国人へのしっかりとした支援実施が求められています。技能実習制度で多くの批判を浴びている、外国人労働者への過酷な仕打ちは世界中が知る所となっています。技能実習制度の二の舞にならないよう、介護施設は自らを律するだけでなく悪意を持った仲介業者を排除する必要に迫られています。そのためには自分たちの時間とお金を使って外国に行き、外国人に会って自ら確かめるよりほかありません。また、特定技能では「転職」が認められているので、過酷な状況に陥る前に、外国人自らが介護施設を去る可能性もあります。他人任せにするのではなく、時に失敗があるかもしれませんが自分達の仲間は自分達で選ぶ覚悟を持っていただきたいと思います。