「特定技能」で介護業界はどう変わる?

新たな人材確保として注目される 介護分野の「特定技能」について   Vol.1 

2019年4月から、新たな外国人材を受け入れる在留資格「特定技能」がスタートしました。労働者不足が深刻な介護業界にとって、人材確保の新たな手段として外国人介護士の雇用が期待されていますが、この「特定技能」によって介護人材、そして介護業界は、どのように変わるのでしょうか。これから、介護分野における「特定技能」について紹介していきます。

<目 次>

新しい在留資格「特定技能」がスタート   

労働者不足に対応して新設された「特定技能」

どんな人が対象か〜特定技能1号と2号   

特定技能〜即戦力として働ける人材     

外国人労働者にとってのメリット      

「技能実習」から「特定技能」への切り替え 

外国人介護士、雇用のポイント       

特定技能の雇用〜技能実習制度との違い   

特定技能の受け入れ対象国         

今後の流れ                

新しい在留資格「特定技能」がスタート

2018年12月に入管法が改定され、2019年4月から新しい在留資格である「特定技能」に関する法律が施行されました。これにより、業種ごとに「特定技能」の在留資格がスタートしました。

新しく設けられたこの「特定技能」は、労働者不足が深刻な14の特定産業分野に限って、外国人労働者を受け入れるための在留資格です。この特定技能では、今まで認められていなかった外国人労働者の単純労働が認められるようになりました。

特定技能の分野は以下の通りです。各所轄省庁等によって運用方針・運用要領が定められています。 

[特定技能・14分野] *( )内は所轄省庁。

  1. ①介護分野(厚生労働省)
  2. ②ビルクリーニング分野(厚生労働省) 
  3. ③素形材産業分野(経済産業省)  
  4. ④産業機械製造業分野(経済産業省)
  5. ⑤電気・電子情報関連産業分野(経済産業省) 
  6. ⑥建設分野(国土交通省)
  7. ⑦造船・舶用工業分野(国土交通省) 
  8. ⑧自動車整備分野(国土交通省) 
  9. ⑨航空分野(国土交通省)
  10. ⑩宿泊分野(国土交通省)
  11. ⑪農業分野(農林水産省)
  12. ⑫漁業分野(農林水産省)
  13. ⑬飲食料品製造業分野(農林水産省)
  14. ⑭外食業分野(農林水産省)

※特定技能1号は14分野で受け入れ可。⑥⑦の2分野(建設分野、造船・舶用工業分野)のみ特定技能2号の受け入れ可。

※分野別の詳細はこちら (→JITCO:公益財団法人国際研修協力機構HPへ) https://www.jitco.or.jp/ja/skill/#section_02

労働者不足に対応して新設された「特定技能」

日本では、外国人の単純労働は原則として禁止されています。しかし、近年の深刻な労働者不足を背景に、14分野について「特定技能」という在留資格を取得することで、労働を認めることになりました。

日本の労働力不足の中でも、特に深刻といえるのが介護業界です。

介護業界において、これまで外国人が介護業務に従事するには、①在留資格「介護」、②EPA(特定活動経済連携協定)、③技能実習という、3つの方法がありました。

そこに今回、「特定技能」という4つめの在留資格が加わったのです。

[外国人が介護業務に従事できる資格]

  1. ①在留資格「介護」
  2. ②EPA(特定活動経済連携協定)
  3. ③技能実習
  4. ④特定技能(2019年4月よりスタート)

新設された「特定技能」は、恒常的な人材不足に悩む介護業界にとって新しい仕組みによる外国人雇用に対して期待が集まるとともに、その動向が注目されています。

どんな人が対象か〜特定技能1号と2号

新しい在留資格「特定技能」には、1号と2号があります。

●特定技能1号とは

特定技能1号のポイントをまとめると、以下のようになります。

(1)受け入れ分野について、ある程度の知識や経験が必要な仕事内容に従事する外国人に適用される在留資格。
(2)ある程度の日常会話ができて、生活に支障がない程度の日本語能力を持っていることが基本。
(3)日本語と技能の試験に合格していること。
   ①日本語能力を判定する共通の試験を受け、一定レベル以上と認められること。
   *介護分野については、職場で使われる専門用語の試験も必要。
   ②分野を管轄する省庁が見定める技能の試験がある。
   ③合格した分野での仕事しかできない。
(4)外国人技能実習制度における「技能実習2号」を修了すれば、日本語と技能の試験は免除される。
(5)日本に滞在できるのは、通算で5年間。家族を連れてくることはできない。

●特定技能2号とは

特定技能2号のポイントをまとめると、以下のようになります。

(1)特定技能1号よりも熟練した技能を持っていることが条件となる。
(2)管轄する分野の省庁が定める試験を受けて合格すると、1号から2号へ在留資格を移行することができる。建設分野、造船分野での適用が検討されており、しばらくは検討が続くと予測される。
 *介護分野では、2号の創設の予定はなし。
(3)特定技能2号への移行ができれば、母国から家族を呼び寄せることが可能になる。
(4)在留資格の更新に制限がなくなる。そのため、日本で永住できる可能性も生まれる。

これまでの在留資格と特定技能1号と2号について、技能水準の考え方は、以下のようになっています。

【在留が認められる在留資格の技能水準】

01_01>在留が認められる在留資格の技能水準.jpg” width=”1296″ height=”905″><br>(法務省・新たな在留資格「特定技能」について より)</p>



<h2 class=特定技能〜即戦力として働ける人材

特定技能として日本に在留し、働くためには、特定技能ビザを取得する必要があります。

特定技能のビザ取得の案件には、学歴や実務経験は問われていません。必要なのは、一定レベルの日本語ができること、そして即戦力として働ける技能を持っていることです。

日本語は、全分野共通の「日本語試験」の合格が条件となります。ただし、介護分野については、これに加えて「介護日本語評価試験」に合格する必要があります。

技能については、各分野で試験を設定しており、その試験に合格することが条件となります。

現在(2019年8月)、介護分野、宿泊分野、外食業分野について、それぞれの試験が実施されています。それ以外の分野については、まだ準備中で随時開始が見込まれます。

すでに技能実習制度で働いている人については、技能実習を修了した後に特定技能へ切り替える場合には、これらの試験は免除されます。

外国人労働者にとってのメリット

日本で働きたいという外国人にとって、特定技能には、これまでにないメリットがあります。

例えば、以下のようなことが考えられます。

[特定技能・労働者のメリット]

  1. ①日本で働くためのビザ取得が、これまでよりもしやすくなった
  2. ②5年を超えて日本に在留できる可能性がある(技能実習では5年間)
  3. ③転職が可能
  4. ④家族が滞在できる
  5. ⑤日本に永住できる可能性
  6. ⑥来日するための費用負担が軽くなる など

「技能実習」から「特定技能」への切り替え

前述したように、技能実習を修了すれば、日本語の能力試験と技能試験が免除となります。そのため、今後、技能実習から特定技能へ切り替える人が多くなることが予想されます。特に建設業や製造業などでは、相当数の切り替えが見込まれています。

しかし、介護分野については、状況が異なります。

介護の技能実習については、昨年(2018年)の夏に実習生が初入国しています。もしも特定技能に移行するとしても、2年間が必要です。そのため、技能実習から特定技能への切り替えを行うにしても、2年後以降の申請となります。

外国人介護士、雇用のポイント

特定技能で特徴的なことのひとつに、労働者と雇い主の雇用関係があります。

特定技能では、働き手である外国人と雇い主となる雇用主(受入れ機関)は直接契約することが定められています。ただし、農業や漁業のような季節性の強い分野では、人材派遣会社による雇用が認められています。

では、介護施設ではどのような雇用になるのでしょうか?

介護業界においては、外国人介護士の雇用形態は、原則として受け入れる法人(受入れ機関)による直接契約となります。

特定技能の雇用関係については、これまで多くの業種で利用されてきた「技能実習制度」とは考え方が違いますから、それについて十分理解しておくことが大切です。

特定技能の雇用〜技能実習制度との違い

「特定技能」と「技能実習制度」における雇用の違いについて説明します。

すでに長年の運用実績がある「技能実習制度」は、実習生と雇用者の間に、それを仲介する機関があります。

まず、日本に実習生を送る役割を担う「送出し機関」です。送出し機関は国外にあり、いわば、技能実習生を集める窓口のような存在です。

そして、送出し機関から技能実習生を日本に受け入れるのが、日本にある「監理団体」です。監理団体は、技能実習生を企業に紹介し、監理・監督する機関です。

技能実習を希望する外国人は、送出し機関に費用を支払って来日していました。また、雇用する側の企業は、監理団体に費用を支払って、技能実習生を受け入れています。

一方、2019年4月に始まった「特定技能」の制度では、雇用者(受入れ機関)は直接、外国人労働者と契約し、雇用することになります。

そのため、技能実習制度における仲介機関は原則として必要なくなります(ただし、各国によって異なる)。これにより、外国人労働者は来日のための金銭的負担費が軽減され、雇用主は監理団体へ費用を支払う必要がなくなります。

今回新設された「特定技能」では、雇用者が外国人を直接受け入れ、就労だけでなく、入国や各種契約、生活面も含めた支援を行うことになっています。また、どのような支援を行うのか、その内容についても具体的に定められています。

例えば、「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針の概要」には、制度の運用に関する重要事項として、以下のような記載があります。

●1号特定技能外国人に対する支援

生活オリエンテーション、生活のための日本語習得の支援、外国人からの相談・苦情対応、外国人と日本人との交流の促進に係る支援

転職する際にハローワークを利用する場合には、ハローワークは希望条件、技能水準、日本語能力等を把握し適切に職業相談・紹介を実施

(「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針の概要」より)

この概要の発表後に具体的な支援内容が示され、実際の支援内容は、もっと多くなっています。

受入れ機関である雇用者は、外国人支援のための準備が十分にできない場合も考えられます。また、雇用者が定められた要件を満たしていない場合もあるでしょう。

そうした場合には、外国人を支援するために新たに設けられた「登録支援機関」へ外国人労働者の支援を依頼することが可能です。

[外国人材と雇用者の関係]

○技能実習制度
   実習生←→送出し機関←→監理団体←→雇用主

○特定技能
   労働者←→雇用主(登録支援機関の利用も可能)

【特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針の概要】

01_02_特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針の概要.jpg

(法務省 ホームページより)

特定技能の受け入れ対象国

現在の特定技能の受け入れ対象国は、以下の8カ国9カ国(2019年8月)11カ国(令和元年12月)となっています。

フィリピン、カンボジア、ネパール、ミャンマー、モンゴル、スリランカ、インドネシア、ベトナム、バングラデシュ(2019年8月追加)、ウズベキスタン、パキスタン(令和元年12月追加)(協力覚書公表順)

特定技能外国人の円滑かつ適正な送り出しと受け入れのために、送出国との間で協力覚書が作成されます。ただし、特定技能の受け入れ対象国は、二国間の協力覚書を締結した先に限定はされません。

【「特定技能」に関する二国間取り決め(MOC)の概要】

(変更版②)01_03_「特定技能」に関する二国間取決め(MOC)の概要.jpg

(法務省 ホームページより)

今後の流れ

2019年4月からスタートした「特定技能」。対象は14分野ですが、すぐにすべての分野において動き出したわけではありません。

4月にスタートしたのは、介護分野、宿泊業分野、外食業分野の3分野のみ。これ以外の分野では、2020年3月までに開始が予定されています。

本サイトでは、介護分野の特定技能について、情報を発信していきます。

次回は、外国人材受け入れの種類と仕組み、介護施設での「特定技能」導入について取り上げます。