【ゲスト】元三洋電機株式会社 代表取締役 井植 基温氏「受け入れ側の日本が国際化を。ピラミッド型ではないダイバーシティな仕組みをつくる」

【スペシャル対談 vol.3】― 2019.3.4 ―

2019年、出入国管理法の改正によって、外国人労働者の働き口として介護業界が注目を集めています。そうした動向に対して、「新法案が始動、これからをどう生き抜く?ニッポン人。」をテーマに【スペシャル対談vol.3】として、サンヨー・ノースアメリカ・コーポレーション時代に多くの外国人労働者を雇用していた元三洋電機株式会社 代表取締役である井植基温さんにお話をうかがいました。

春山 井植さんは父・春山 満と、当社の代表商品である浴槽収納式の介護入浴システム『hirb(ハーブ)』を、三洋電機株式会社とのコラボレーションとして開発されました。父とはどういう出会いだったのでしょうか。

井植 昭和11年に生まれたメンバーが集う異業種交流会があったんです。リクルートの創業者である江副さんなど、様々な業界の人が参加していました。そのメンバーの一人に今野由梨さんという“ベンチャーの母”と呼ばれていた女性がいて、その方が主催する「原宿サロン」でお父様と出会いました。お父様は進行性筋ジストロフィーという難病で身体は動きませんでしたが、口が達者な人でしたね(笑)。『hirb』の開発時には、“人間洗濯機”というコンセプトで、車椅子に乗ったまま、昔のトルコ風呂みたいに前開きで湯に浸かれるようにして欲しいと、むずかしい宿題を出されました。

春山 おかげさまで、『hirb』は介護施設へ500台以上も納品され、今も現場の介護スタッフの入浴介護における負担軽減に貢献しています。

異民族国家として、外国人労働者を受け入れる

春山 今回の対談では、多くの外国人労働者を従業員として抱えていた井植さんの経験から、出入国管理法の改正に対するご意見をいただければと思っています。三洋電機さんは群馬県大泉町に事業所がありましたが、大泉町と隣り町の太田市に住む外国人の割合ってすごく高いですよね。外国人人口の割合では、東京都、愛知県に続いて、群馬県は第3位です。これはやっぱり三洋グループさんの影響ですか。

井植 そうですね。東京の三洋電機は、昭和34年にスタートして36年から急成長していきました。関西メーカーとして知られる三洋電機ですが、市場の広い関東に進出するのは会社の夢でした。そこで、大泉町にある中島飛行機製作所の跡地を買収したんです。120万平米くらいありました。今あの地域には、60カ国くらいの外国人が住んでいると思います。

春山 井植さんは、その大泉工場にも勤めていらっしゃいましたよね。

井植 はい。当時、8,000人くらいの従業員がいました。最初は地元の人を中心に雇用していましたが、作業員が足りなくなってきたので、海外労働者の受け入れをはじめました。そういう意味では、今の日本の状況と似ていますね。日本は、少子高齢化などの影響で人口が減り人手が足りなくなってきたので、海外からの労働者の受け入れをはじめています。

春山 たしかにそうですね。何十年も前から海外の労働者を受け入れてきた三洋電機さんは、先進的な事例と言えます。昨年、とくに秋口から年末にかけて、出入国管理法の改正に関するニュースが頻繁に流れていましたが、改正の一つとして、4月から運用が始まる「特定技能」という新資格ができました。これは、単純労働者の受け入れを初めて日本が認めた制度になります。

井植 政府は34万5千人の外国人を補正労働者として受け入れると言っていますが、おそらくそれでは足りないでしょう。一方で安い賃金で働く海外労働者をどんどん入れたら、日本の労働者側からも賃金が上がらなくなるという声が出るでしょうし。どちらにしても、今の論点だけで議論していることが、付け焼き刃的な発想です。刹那刹那で色々と不備や困ることがあったとしても、方向性としては異民族国家を目指すべきでしょうね。これは、日本の歴史を振り返っても明らかです。

日本の労働環境をボーダーレスに

春山 先ほど賃金のお話をされていらっしゃいましたが、今回の法改正では、外国人労働者に対しても、一定レベルのスキルや語学力が求められており、それにより給与面もある程度保証される予定です。その点については、どうお考えですか。

井植 給与面については、日本人と同等がよいでしょう。場合によっては、外国人労働者の賃金が日本人よりも上回ることはあるでしょうし、また、そうあるべきだと思います。わたしは、三洋電機のアメリカ支社の立ち上げにも関わりましたが、駐在員以外はすべて外国人で6,000人くらい雇用していました。世界のスタンダードで比較すると、日本は外国人の労働環境がまだまだ発展途上です。まず雇用する側が、人が足りないから時間給いくらで雇ってなんとか繋ぐというコンセプトしかないし、働く側も、日本だったら母国よりも高給で働けるからとか、留学中で暇だから小遣い稼ぎのためにとか、そういう考え方が目立ちます。

春山 おっしゃる通りです。

井植 例えば、昇格や昇給、ボーナスなどの評価基準を同等にすることで、外国人労働者も会社に愛着が生まれます。国籍に関係なく、日本で働きたい人が孫の代まで働ける慣習をつくったり、企業側もそういう受け入れ方をしたり、双方にとって良い環境を整えることが、継続的な経済循環へとつながっていくはずです。要は日本人と同じ扱いにするべきです。

春山 外国人労働者を、どう受け入れて、どんな労働環境を作るのか。受け入れに関して言うと、日本側にかかってくると思っています。3年5年と、現状の改正では期限付きで日本へ来る人もいますが、その人たちが暮らしやすいように、住環境や地域環境を整える必要がありますよね。井植さんは、大泉町の工場では外国人を受け入れる立場として、アメリカでは外国人という立場で働いてきたご経験があります。今後受け入れ側の日本としては、どういったことに気をつけていくべきだとお考えでしょうか。

井植 まず、受け入れ側の日本が国際化できていないのが問題です。三洋電機では、サウジアラビアやドバイなど中近東国との取引もありました。彼らは、一日5回メッカに向かって礼拝をする習慣があるので、礼拝の時間になったらそわそわするんです。礼拝をしたいから部屋を貸して欲しいと言われました。だからわたしは、絨毯を敷いて心静かに礼拝できる部屋を用意し、方位磁針でメッカ(聖地)の方向を示したり、手や足を洗うための水場を案内していました。とくに商談に来たバイヤーには好評で、商談もうまくいくことが多かったです。当時、他の事業部で同じようなことをした話は聞かなかったので、特異なことをしていましたね。

春山 すばらしい取り組みですね。当社には、インドネシアなどイスラム圏の労働者の受け入れについて相談が入ることもあるのですが、礼拝の時間を作らないといけないとか、日本ではまだそういう環境が整っていないので、つい躊躇してしまいます。

井植 ちょっとした思いやりで、お互いの心が通じ合うものです。わたしは無神論者ですが、中近東へも度々行っていたので、巡礼がどういうものかを理解していました。だからこそ、彼らの気持ちに寄り添えたのだと思います。外国を見てきた人とそうでない人は、こうした国際問題に対する対処の仕方が全然違ってきます。日本に入ってくる外国人労働者の数だけ、今の日本の若者は海外に行って、他国の文化や仕事を学ぶべきです。

春山 なるほど。日本人と外国人の関係性において、わたしはこの法改正で、外国人が日本人の仕事を担い、時には優秀な外国人が日本人の仕事を奪う可能性もあると考えています。正当な評価の基であればそうあるべきです。それに加え、入ってくる外国人の数だけ、日本人が世界を学んで帰って来るというのは、ひとつの指針になりますね。

相手の純真な思いを汲み取るために

春山 これからは働く現場だけではなく、生活する地域でも、外国人が暮らしやすい環境を整える必要がありますね。

井植 太田市でブラジル日系人用のアパートを用意して、好評を得た人は知っています。同じ人ばかりでまとまるのがいい事かどうかはわからないですが、素の人間で考えたら、やっぱり勝手知ったる同国の人と住めたら安心です。大泉町や太田市では、そうした海外の人たちのニーズに合わせて、サービスを提供し成功した人たちがたくさんいました。三洋電機で働く人がほとんどでしたから、三洋電機が全体を管理する中で、街と連携して必要な環境を整えるという、いたってシンプルな流れです。いずれにしても、相手の純真な気持ちを汲み取れるかどうかが、大事なことだと思います。

春山 参考になります。今後は環境整備だけではなく、教育という点で考えたときに、日本人と同じように指導しても伝わらない可能性が出てくると思うんです。伝え方も気をつけていかないといけないですね。

井植 そうですね。日本人は以心伝心が当たり前だと思っていますが、海外では通じません。海外の人は意思表示がはっきりしています。自分の意思を明確に伝えるために、まずは、日本人には英語を、外国人には日本語を教えることです。言葉は意思疎通の基本です。努力すれば習得は可能でしょう。但し、言葉だけに頼るのではなく、人に何かを教える場合には手を取って相手の表情を見ながら丁寧に伝え、最後は自分でやって見せることが大切です。自分が見本を見せられないことをやれと言っても、相手にうまく伝えることはできません。

将来を見据えた思考で、人生100年時代を考える

春山 当社に相談に来られたある介護施設では、昨年度の採用コストに700万円かかったそうです。介護業界は離職率が高く、雇っては辞めて、雇っては辞めての繰り返し。なかなか職員が定着しないのが現状です。そういう意味では、今回の法改正は日本人が選ばなくなった職業に対して扉が開いています。

井植 人生100年時代になって元気老人が増えたと言っても、終末期は昔のように、朝起きたら座敷の布団で自然死していた、というわけにはいきません。今後、介護事業の果たす役割は非常に大きくなるでしょうね。だからこそ、一時的な目線で労働者を増やすのではなく、水が流れていくのと同じように、将来を見据え自然な流れを考えていかなければなりません。民族ごとに得手不得手があるのは個性と同じで当然のことなので、その特性がうまく混じり合う仕組みが必要になるでしょう。いずれにしても、自分が生きる責任は自分で確立することです。それにはまず、今与えられた仕事に対して最善の努力をしていくことが、もっとも最善で最短な道だと思います。

春山 これから大きな流れで外国人労働者を受け入れようと思うと、日本人がまずは受け入れをする国のこと、宗教観の理解などを深めなくてはいけません。日本はどこか上から目線で他国を見ている傾向があります。今の需給バランスから考えても、「他国が日本に働きに行きたい」というよりは、人手不足の日本側が「他国から来てもらわなければならない」と考えるべきでしょう。井植さんが言われるように、日本人こそがもっと海外に出て他国の理解を深め、それを外国人受け入れのノウハウにしなければいけないと強く感じます。

ゲストプロフィール(対談が行われた2019年3月4日現在)
井植 基温
1936年生まれ。59年、三洋電機株式会社入社。77年、常務取締役冷凍機事業部長就任。92年、サンヨー・ノースアメリカ・コーポレーション代表取締役就任。99年4月、三洋電機株式会社の専務取締役、同年6月、代表取締役、2002年6月、相談役に就任。06年3月、相談役退任。関西経済連合会評議員のほか、関西生産性本部・国際交流委員長、現・特別参与日中経済貿易センター・副会長を経て、現在同センターの顧問を務める。

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