EPAや技能実習、留学生から「特定技能」へ。国内の外国人が移行するケースとは?

EPAや技能実習、留学生から「特定技能」へ。国内の外国人が移行するケースとは? 

人材不足に悩む介護業界では、2019年に新設された在留資格「特定技能」が注目されています。

「特定技能」は、その分野において一定の技能を身に付けた外国人を即戦力として日本の各分野の現場に迎えるための在留資格です。以前からある「EPA」や「技能実習」の在留資格で既に国内で働いている外国人が、「特定技能」に移行するケースも認められています。また、日本での就職を目指す留学生からも、介護分野がにわかに注目を集め、試験合格~在留資格の変更に至るケースが認められます。この背景には、世界中を襲った新型コロナウイルスによる社会情勢の変化があげられます。

今回は、国内で働く外国人の「特定技能:介護」への移行について解説します。

<目 次>

介護分野で働く外国人介護人材、4つの在留資格                 

「特定技能1号」とは?                                               

特定技能への移行で試験が免除されるのは?                      

EPA介護福祉士候補者の特定技能への移行とは?              

EPA介護福祉士候補者から特定技能へ資格変更の手続きは?

技能実習から特定技能への在留資格の移行は?       

留学生から「特定技能1号」へ移行するケースは?      

新型コロナウイルスで技能実習生が異業種に移行可能に   

コロナ禍で外国人労働者や留学生の意識に変化が!?               

外国人介護人材が拡大するチャンスに                             

介護分野で働く外国人介護人材、4つの在留資格

日本の介護業界で働く外国人介護人材には現在、以下の4つの在留資格が設けられています。

(1)EPA(経済連携協定)(インドネシア・フィリピン・ベトナム)

二国間の経済連携の強化を目的とする。

(2)在留資格「介護」

専門的・技術的分野の外国人の受入れを目的とする。

(3)技能実習

本国への技術移転を目的とする。

(4)特定技能1号

人手不足対応のための一定の専門性・技能を有する外国人の受入れを目的とする。

以下は、外国人介護人材の4つの在留資格と受入れの仕組みをまとめた図です。

外国人介護人材受入れの仕組み.jpg

外国人介護人材受入れの仕組み(厚生労働省HPより)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000656925.pdf

「特定技能1号」とは?

「特定技能1号」は、人材不足が深刻な14分野に即戦力となる外国人を確保することを目的として、2019年4月に新設された在留資格です。日本での就労を希望する外国人は、日本語試験とその業界が実施する特定技能の試験に合格することが必要です。

介護分野において、日本で就労を希望する外国人は、現地(または日本)で日本語試験に加え介護に必要な介護技能評価試験と介護日本語評価試験に合格しなければなりません。そののち、日本の受入れ機関(介護施設等)と雇用契約を結びます。必要な手続きをした上で、日本に入国して就労することになります。就労できる期間は通算5年で、その間に転職することも可能です。

特定技能への移行で試験が免除されるのは?

すでに日本の介護施設で就労や研修をしている外国人は、「特定技能1号」の在留資格取得に当たり、介護技能評価試験と介護日本語評価試験が免除されるケースがあります。以下に掲げる人が該当します。

○介護分野の第2号技能実習を修了した人

○介護福祉士養成施設を修了した人

○EPA介護福祉士候補者としての在留期間満了(4年間)の人

EPA介護福祉士候補者から特定技能への移行とは?

EPA(経済連携協定)に基づく受入れの場合、介護福祉士候補者として日本に入国します。介護福祉士の養成施設で2年以上就学する就学コース(フィリピン・ベトナム)と、介護施設等で3年以上の就労・研修する就労コース(インドネシア・フィリピン・ベトナム)が設けられています。いずれも、介護福祉士国家試験を受験して、介護福祉士の資格取得を目指します。

では、EPA介護福祉士候補者として入国して、特定技能1号に移行するのは、どのようなケースでしょうか?

EPA介護福祉士候補者は、在留期間4年間のうちに介護福祉士国家試験に合格すると、在留資格「特定活動(EPA介護福祉士)」、または在留資格「介護」へ移行することができ、期間の制限なく、日本の介護現場で働くことが可能になります。それが、本来のEPAのゴールといえます。

EPAとは国と国が定めた条約であり、在留資格「特定活動(EPA介護福祉士)」はその条約下にあります。そのためEPA介護福祉士候補者に対しては、同じ法人で働くことを前提として、特別な研修を無料で受けられるなどレベルアップのサポートがあります。また、受入れ施設は定期的に地方出入国在留管理官署やJICWELS(国際厚生事業団)へ報告する義務(法務省および厚労省告示による)があるなど、EPA介護福祉士候補者を守っています。

一方、在留資格「介護」へ移行すると、こうした特典を受けることが出来なくなりますが、自由に働く場所を選べるようになります。

しかし、EPA介護福祉士候補者として入国したけれど、国家試験に合格できないケースもあります。そうした場合でも、4年にわたり、EPA介護福祉士候補生として就労コースで就労・研修に従事した場合、国家試験での一定点数獲得を条件に、介護技能評価試験と介護日本語評価試験等は免除され、「特定技能1号」への移行が可能です。「特定技能1号」に移行することにより、さらに最長で5年間、介護施設等で就労することが可能となります。

この逆のパターンとして、特定技能の在留資格で滞在中に介護福祉士国家試験に合格した場合にも、期間の制限なく、日本の介護現場で働くことが可能になります。

在留資格「特定技能1号」への移行について(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000507781.pdf

特定技能1号への移行について.jpg

EPA介護福祉士候補者から特定技能へ資格変更の手続きは?

EPA介護福祉士候補者から「特定技能1号」への在留資格を変更する際の手続きの詳細は、以下に案内されています。

○必要な手続きについて(厚生労働省HP)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000507827.pdf

○介護福祉士養成施設を卒業して介護等の業務に従事する留学生の取扱いについて(出入国在留管理庁HP)
http://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri07_00119.html

技能実習から特定技能への在留資格の移行とは?

在留資格「技能実習」の場合、介護分野の第2号技能実習を終えた人は「特定技能1号」への移行が可能です。また、すでに介護業務に携わり一定の専門性・技能を有した人材と認められるため、介護技能評価試験と介護日本語評価試験が免除されます。

この移行により、技能実習での3年間に加えて、特定技能1号で5年間、合わせて8年間、日本の介護施設で働くことが可能になります。

また、特定技能では外国人介護人材の転職が認められています。そのため、より待遇のよい介護施設に移ることも可能になります。

留学生から「特定技能1号」へ移行するケースは?

日本の介護施設で働くことを目指して日本に留学した外国人が、「特定技能1号」に移行するケースは想定されるでしょうか?

留学生は日本語学校で1年~2年ほど日本語を学び、その後、介護福祉士養成校(以下、「養成校」と称す)へ入学し、2年間勉強を重ねて介護福祉士国家試験を受験する、というのが一般的な流れです。もし国家試験に合格できなかった場合は、「特定技能1号」へ移行できる救済措置が用意されています。

しかし、実際に「特定技能1号」に移行する人材はないといえます。なぜなら、養成校を卒業しただけで介護福祉士の国家資格が暫定的に得られるルールが延長されたからです。

(卒業後5年勤続すれば、自動的に介護福祉士の資格を取得できます)

このルールは2022年度には撤廃されるはずでした。それに歩調を合わせるため、2019年に施行された特定技能では、養成校を卒業した外国人に対して、国家試験に不合格であっても特定技能1号へ移行し在留資格が取得できるようにしていたのです。

しかし、養成校を卒業するだけで介護福祉士の国家資格が暫定的でも得られれば、外国人にとって価値の高い在留資格「介護」が取得できるので、わざわざ特定技能1号を取得する人はいないでしょう。
  

新型コロナウイルスで技能実習生が異業種に移行可能に

2020年、世界を襲った新型コロナウイルスの影響は、特定技能で来日を目指す外国人、そして日本で働く外国人にも及んでいます。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて就業先が休業になって働けなくなったり、解雇されたりした外国人は少なくありません。技能検定等の受験ができない、解雇などで技能実習が継続できなくなった、自国へ帰ることができないなど、困難な状況に追い込まれるケースもあります。そうした技能実習生等を救済する制度として、特定活動(就労可:1年間)という特別措置が設けられました。

これまで、技能実習生の特定技能1号への移行は、同様の業種に限られていました。しかし、新型コロナウイルスの影響により制度が変更され、今まで就労していた業種以外にも移行が認められるようになりました。

例えば、建設業界で技能実習生として働いている最中に会社の経営が傾き、実習の継続が困難になった場合、特定活動の期間に、特定技能介護に必要な要件である試験の合格を目指すことを前提に、介護施設で働くことも可能になったのです。

ただし、特定活動という在留資格が与えられるのは、特定技能の業務に必要な技能を身に付けたいと希望する外国人に限られます。

○新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生等に対する雇用維持支援(出入国在留管理庁HP)
http://www.moj.go.jp/isa/nyuukokukanri14_00008.html

コロナ禍で外国人労働者や留学生の意識に変化が!?

新型コロナウイルスで大きな影響を受けた分野というと、まず宿泊や外食業などが思い浮かびますが、それだけにとどまらず、多くの業界が停滞を余儀なくされました。

農業や漁業、建設などの分野は、季節や天候に左右される職種で、収入が不安定という特性がもともとありました。たくさん働いてお金を稼ぎたい外国人にとっては、思うように働けないという実情がありました。そこにコロナ禍が重なり、稼働できる日が激減し、働けず稼げない深刻な状況に陥っています。

そうした状況において、「介護」が注目され始めています。季節や天候、また社会の動向や景気に関係なく、1年中働くことができ、求人が常に途絶えることがない業界だからです。ここにきて、安定した業種として外国人が関心を寄せているのです。

また、日本に留学している留学生の中にも、在学中に特定技能の試験を受ける学生が増えています。

昨年まで、留学生に多く見られたのは、在留資格「技術・人文知識・国際業務」を目指して、日本語学校→専門学校→大学・短大(または日本語学校→大学・短大)へ進むコースでした。日本で学業と並行してアルバイトでお金を稼ぎ、その間に就職活動をするケースです。

しかし、大学や短期大学・専門学校を卒業しても日本で正社員として働ける可能性が低いことにコロナ禍が加わり、在留資格「技術・人文知識・国際業務」の取得を諦めて、特定技能に活路を見出す留学生が増えているのです。

特定技能がスタートした当初は、介護以外の分野に注目が集まっていましたが、コロナ禍でも影響されにくい介護分野に関心が集まってきました。

外国人介護人材が拡大するチャンスに

今後、技能実習生として他業種で就労する外国人が、技能実習2号を修了後、特定技能1号(介護)への移行を考えるケースが増えることが予想されます。

技能実習生の立場から引き続き日本に在留し続けるには、技能実習期間中に特定技能の試験(介護日本語評価試験、介護技能評価試験)に合格する必要があるためハードルが高いと思うかもしれませんが、技能実習生に向けて介護教育を無料で支援する会社も現れています。必要とされる業種の人材を育成し、多くの人材を就職させることで紹介料を得られるからです。

介護の現場では、介護のスキルとともに高齢者とのコミュニケーション能力が要求されます。特定技能の試験や日本語の試験に合格しているのは当然ですが、どれだけ日本語でコミュニケーションが取れるのかを確認することも大切です。

いずれにしても、在留資格を移行して、できるだけ長く日本で働きたい外国人材が介護分野に流入し、外国人介護人材が増える大きなチャンスといえます。