特定技能の転職 介護施設にとってマイナスなのか?

特定技能の転職 介護施設にとってマイナスなのか?

人材不足に悩む国内の各業界において、新たな人材確保の手段として注目される外国人労働者の在留資格「特定技能」。2019年に新設されてから、介護業界でもその動きが注目されてきました。

特定技能の特徴のひとつに、外国人が転職できることがあげられます。
受入れ側の介護施設にとってはこのことが特定技能のマイナスイメージにつながるようですが、現実はどうなのでしょうか?

2回に渡って「特定技能」で来日した外国人介護人材の転職を取り上げます。

<目 次>

転職してもすぐに次の職場で働けない          

「転職できる特定技能」は介護施設にとってマイナスなのか?

外国人の働き方、理想と現実              

特定技能「介護」、今後の動きは?           

転職してもすぐに次の職場で働けない

転職のための手続き中は働くことができないと、「特定技能の転職 外国人介護人材のデメリット」でお話ししました。

特定技能外国人が退職した場合、元の雇用主だった介護施設は2週間以内に届け出をする義務がありますが、手続に不慣れだったり多忙な時期だったりすると、それが期限ギリギリになる可能性も考えられます。特定技能制度は一つの介護施設としか雇用契約が結べないため、退職した介護施設から雇用契約終了の届け出が出されない場合、外国人介護人材は転職のために必要な在留資格の変更許可申請の審査が前に進まず、ますます時間がかかることになります。

変更申請の時期によっては、丸2カ月間も仕事がないことも起こりえます。つまり、無給状態が2カ月に及ぶことも考えられるのです。

特定技能の在留資格では、通算で5年しか働くことが出来ません。彼女ら彼らが日本で働く目的は稼いだお金を母国に持ち帰ることであり、出来るだけ多く貯金をしたいと考えています。2カ月間も無給状態になる可能性を考えれば、転職は冷静に考える必要があるのです。

それに加え、届け出期間中に住むところは、どうするのか? 職場が変わると、引っ越しをしなくてはいけない可能性が高くなります。その費用は誰が持つのか? 新しい職場が負担してくれるのか? など、さまざまな問題も生じます。

「特定技能は転職OK」というものの、このように現実的にはハードルが高いと思われます。働く側から見た場合、できるだけ条件のよいところ、自分の働きたい職場を希望するのは当然なのですが、外国人介護人材にとっては使いにくい仕組みといえそうです。

ただし、職場で人権侵害や虐待を受けているなどの場合には、転職は環境を整える手段になるというプラス面があります。

日本人が転職する場合とは、さまざまな面で異なるということを覚えておく必要があります。

「転職できる特定技能」は介護施設にとってマイナスなのか?

「技能実習は転職できないからいいが、特定技能は転職される可能性があるから導入を躊躇してしまう」

介護施設等の経営者の発言として、よく耳にします。「特定技能は転職できる」ということを、介護施設側ではネガティブに捉えがちのようです。

受入れ側の、「せっかく時間と手間と費用をかけて確保した人材が、すぐに別のところに転職されては元も子もない」というマイナスイメージが、積極的に特定技能外国人を採用しない原因につながっているかもしれません。

しかし実態としては、転職はそれほど簡単なことではないということが、わかっていただけたと思います。

また、「特定技能外国人は転職が可能だから、うちの施設にスカウトしてしまおう」と考える介護施設があるかもしれませんが、転職後にそのマイナス面に気づいた外国人介護人材が不満を持つ可能性は高いため、安易な考えで実施することはお勧めできません。

外国人の働き方、理想と現実

日本人には職業選択の自由があります。しかし、日本で働く外国人には在留資格という壁があり、職業や働く会社を自由に選べないという現実があります。外国人からみると、この現実は人権的に問題だと思う人もいるでしょう。

人材不足が深刻で海外に救いを求める日本でありながら、外国人にとって現状が理想的な就業状況というには課題が多くあります。

たしかに、人材紹介業者から外国人介護人材を紹介してもらい、雇用してわずか数カ月で辞められたらガッカリするでしょう、腹も立つでしょう。やっと仕事を覚えて、「さあ、これから本格的に頑張ってもらおう」という時期で、既に紹介業者に手数料の支払いも済ませ、返金があったとしても僅かな額です。

ただしそれは、日本人の人材でも同じではないでしょうか。

外国人であれ日本人であれ就労した人材に転職されないためには、待遇面の条件もありますが、仕事の進め方やスキルアップ、職場の雰囲気や人間関係など、さまざまな面で魅力的であること、「ここで働きたい」と思えるような職場であることが大切といえます。このことに、外国人も日本人も大差ないといえます。

特定技能の外国人介護人材は日本人と同等の条件で受け入れることが前提ですから、本来は転職についても日本人と同等の条件であるべきでしょう。しかし、法整備としては、まだそこまでは至っていません。今後、法整備がどのように進むのか注視する必要があります。

特定技能「介護」、今後の動きは?

2019年4月に新設された在留資格「特定技能」は、まもなく丸2年を迎えます。特定技能に関連した法律は2年ごとに見直される予定ですので、2021年にはなんらかの動きがあるかもしれません。場合によっては大きく改変される可能性も考えられます。

新型コロナウイルスの影響もありますが、景気や社会の動きに関係なく働ける職業として、介護業界への関心は依然高く、また在留資格を得たい外国人が、介護士を目指すことも考えられます。人材確保のチャンスとして、引き続き特定技能の情報を収集することをおすすめします。

(参考)
○厚生労働省:介護分野における特定技能外国人の受入れについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_000117702.html

○出入国在留管理庁:特定技能制度
http://www.moj.go.jp/isa/policies/ssw/nyuukokukanri01_00127.html