イスラム教徒の多いインドネシア人雇用に特別な配慮は必要か?(2)

イスラム教徒の多いインドネシア人雇用に特別な配慮は必要か?(2)

前回はインドネシア人の特性やトラブル事例を紹介致しましたが、今回も引き続きご紹介します。実際に国外での就業経験があるインドネシア人へのヒアリングを元にその雇用について説明をしていきます。

<目 次>

1.国外で働くインドネシア人の不安や要望と事業主の対応

2.雇用にあたり事業主が押えて置くべきポイント。

3.最後に

国外で働くインドネシア人の不安や要望と事業主の対応

ネット上で断片的なインタビュー記事を見かけますが、本音はなかなか出てこないものです。以下は、実際に国外で働いた経験をもつインドネシア人からヒアリングしたものをまとめたものです。代表的な質問と回答に加え、事業主が行なうべき対応について説明します。
( )内は滞在国です。

《礼拝》
Q.国外で礼拝の要望はあるか。また礼拝の場所や時間はどう対応していたか。

A1.できなくても問題はない。できる時に礼拝をすることが大事。(日本)

A2.夜自宅で行っていた。場所は関係ないし、毎回やる必要はない。(日本)

A3.事前に職場から許可をもらった場所で、昼休みにあわせて礼拝した。(日本)

A4.時間がある時に近くのモスクに行っていた。(シンガポール)

A5.相部屋で非イスラムの同室者だったので礼拝はしなかった。どこでも良いので礼拝できる場所が欲しい。(台湾)

イスラム教には1日5回の礼拝時間があります。ただしそれ程厳格なものではなく、インドネシア国内でも毎回礼拝を欠かさずする人は多くはありません。また、香港やシンガポールで家政婦として働いている人にとって通常礼拝の時間は与えられていません。インドネシア国内の日系企業の場合、礼拝室があり、礼拝の時間を設けているケースが多いですが、国外で仕事をする場合はその様な要求は殆どなく、事業主が敢えて対応する必要は無いと思います。ただし、時間があれば礼拝を行うと答える人も多く、職場や自宅で礼拝ができれば最善な対応と言えます。
因みに通常の礼拝では殆ど声を出しませんので周りの迷惑になることはありません。礼拝についての事業主の対応は、事前に説明しておいた方が良いでしょう。

《服装》
Q.ヒジャブは着用していたか、服装について雇用主から何か要求された事はあるか。

A1.通勤・外出・就業時間は着用していた。何かを要求された事はない(日本)

A2.家政婦で雇用主と一緒に外出の時はヒジャブの着用をやめてくれと言われたが特に問題はない。(香港)

インドネシア人の服装は、イスラム教徒であっても殆ど日本人と変わりません。一部地域ではアラブ諸国と同様に厳格なルールが慣習となっており、女性が外出する時はアバヤと呼ばれる全身を覆う黒い服を着用しますがインドネシアではこれは例外です。
通常、フォーマルな場所、職場で、また年配の女性はヒジャブと呼ばれるスカーフを着用しますが、色が地味で単色な事を除けば通常のスカーフと殆ど変わりません。インドネシアの場合はイスラム教徒だからと言うより殆ど慣習のようになっているので、敢えて禁止にするような事はしない方が良いでしょう。
欧米でヒジャブを禁止する動きがありましたが、日本で同様な事をした場合、恐らくインドネシア人は従うはずですが不満が溜まっていくのは間違いありません。
インドネシア人と付き合うには、寛容である事も大切なポイントです。

《コミュニティ》
Q.インドネシア人コミュニティは利用したか。近くにコミュニティがない場合はどうしたか。

A1.応募前に情報を集めた。周りにインドネシア人がいないところは避けた。日本に行きたかったが、日本で仕事をした経験がある人が周りにいなかったので不安でやめた。(台湾)

A2.コミュニティはなかったが従業員にインドネシア人が沢山いるのは事前に知っていた。インドネシア人がいない場合は不安で行けない。(台湾)

企業に対する要望ではありませんが、インドネシア人が日本で仕事をするにあたり不安に思うことの多くに『インドネシア人コミュニティが存在するか』というものがあります。
多数のインドネシア人の中で働く場合は問題になりませんが、周りに同胞がいないと言うのはインドネシア人にとって大きな不安になります。
殆どの場合、本人が事前にコミュニティを探し十分な情報を収集していると思いますが、近隣にコミュニティが存在しない場合は、複数のインドネシア人を雇用する、または近くで働くインドネシア人を紹介してあげる等の対応が望まれます。

《食事》
Q.日本ではハラル食材(イスラムの手順に従い処理した食材)は手に入らないケースが多いが食事はどうするか。食事に関する要望はあるか。

A1.自炊する。豚由来の食材は食べるつもりはなく、自分で作れば問題ない。仕事先で豚肉を使ったお弁当を出されたことがあったが食べなかった。(日本)

A2.できたら、食堂のメニューに豚由来の食材を使用していない旨を明記してほしい。(日本)

イスラム教徒は豚や豚由来の食べ物は一切口にしません。香港やシンガポールはイスラムコミュニティがしっかりしているため、いわゆるハラル食材を提供するレストランや食料品店が数多くあり、日本とは大きく違います。これについて事業主側で対応することは、文化の理解、自炊をする場合の買物先の紹介、食事を提供す場合は豚由来の食材を避ける等の注意をして頂ければ良いと思います。
ただこの点についてもインドネシア人コミュニティを通じて事前に十分な情報を得ているのが常であり、事業主はそのサポートを日常的・継続的に行うことが必要です。

《ラマダーン》
Q.ラマダーン期間はどう対応をしていたか。雇用主への要望はあるか。

A1.普通に断食をしていたが、特に問題はない。要望はないがラマダーン中にしきりに食べ物を勧めるのはやめてほしい(台湾)

A2.インドネシアにいるときほど守ってはいない。仕方ないので気にしない。(香港)

イスラム圏にはラマダーンと呼ばれる断食月が存在します。イスラム暦の1年は354日のため毎年11日ずつずれてラマダーンが始まります。病気や生理の時を除いては日の入りから日没まで一切の飲食を避けます。ラマダーンに入ると生活環境が変わり、午前3時に起きて朝食を取り、また眠ると言った生活になります。国外で仕事をしていても断食は行いますが、若干緩くなるようです。
事業主から見ると生産性が落ちるのではないかという懸念があるかと思いますが、仕事に支障がでるようになるまで無理はしないのが常です。
事業主が特別な対応をする必要はないと思いますが、生産性の低下を懸念して飲食を無理強いするような事は避けてください。

《住居》
Q.住居についての要望はあるか。

A1.狭くても良いので個室を用意してくれたら嬉しい。

A2.インターネットが繋がらないところは勘弁して欲しい。実家と電話ができない。
インドネシア人が国外で仕事をする場合、家政婦の場合は住み込み、その他の場合は、極めて狭い個室か他の従業員との相部屋になります。住居に対する要望としてよく聞くのは水道光熱費を含めた住居費用が思ったより高かったという事です。このあたりは事業主の対応は難しいと思いますが、事前に住居や生活にかかる費用などについては明確に説明することが望まれます。
また、インドネシア人はコミュニケーションを重視するため、電話の時間がとても長いのが特徴です。家族がいる場合は殆ど毎日電話をしますが、国際電話は料金が高く使用しません。通常はインターネット通話を使うため、?。インドネシア人にとって通話の為のネット環境優先度はかなり高いと言えます。

《給与》
Q.給与については満足できるものか。要望はあるか。

A1.他国で家政婦として働いた場合は日本ほどの給料は貰えない。ただ思ったより生活費がかかる(日本)

A2.仕事によって給料はほぼ決まっているので要望を言っても仕方がない(香港)

A3.イスラムの正月前にはボーナスを出してくれると嬉しい。(台湾)

断食が終わるとイスラムの正月になりますが、インドネシアの一般的な企業では断食に入る頃に一ヶ月分のボーナスを出します。正月前はインドネシアで一番消費が進む時期であるため、お正月の支度金という位置づけになります。
日本ではこれに対応することは給与支払いシステムや経理上・事務上の手続きが煩雑になることからも困難であり対応は不要です。
これも事前にしっかり伝えておいた方が良いでしょう。

雇用にあたり事業主が押えて置くべきポイント。

以上のように、インドネシア人だからといって事業主が特別に不安に思ったり留意しなくてはいけないような事は殆ど無いと言っても良いでしょう。特段宗教面での特別な対応が必要と言うこともありません。以下のポイントに留意することで十分な対応が可能なはずです。

《異文化を理解する》
インドネシアに限った事ではありませんが、お互いの文化を理解し合うことが何よりも重要です。善悪の判断や物事の優先順位はその国の文化で大きく左右されます。外国人と仕事をすると時折、日本では考えられないようなプロセスで仕事を進める場合があります。このような時もなぜその様なプロセスを選んだかを理解した上で良く話し合い、日本の仕事の進め方を理解して貰えるように努める事がポイントになります。

《疎外感を与えない》
インドネシア人は人間関係を重視します。また他人からどう思われているかをかなり気にします。
周りから疎外感を感じる状況は本人にとって相当な精神的ダメージになりますので、良好な職場環境の維持はとても大切です。

《高圧的な態度はNG》
インドネシア人が最も嫌うのは横柄な態度や高圧的な人間です。
このような傾向が見える社員を職場のリーダーに置くと生産性の低下や離職率の増加に直結します。
これは海外の日系企業でも大きな注意を払っているポイントです。

《仕事は細部まで徹底して教える》
先にも記述しましたが、インドネシア人は相対的に結果を予測しながらプロセスを変えていくという仕事の仕方をしません。決められたルーティンをこなす仕事には向いていますが、それでも『このくらいなら教えなくても大丈夫だろう』と考えるのは禁物です。日本人には要らない細かい説明まで十分に行うことが完成度の高い仕事に繋がります。

最後に

2回にわたりインドネシア人の雇用について様々な視点から事例を紹介してきました。漠然とではあるかもしれませんが一般的なインドネシア人像をイメージして頂けたのではないでしょうか。

イスラムというと『日本では雇用しづらいのではないか』という先入観が働きがちですが、実際にはイスラム圏では無い諸外国で、多くのインドネシア人が労働者として働いており、雇用上のトラブルも極めて少ないのが現状です。
日本社会の実情から考えれば、IT化や機械化が進んでも介護関連などとりわけ人間の労働力を必要とする職種はますます雇用ニーズが高くなり、外国人雇用は避けて通れないのです。

人間の労働力を必要とする職種は、高いホスピタリティが求められる場合が多くあります。インドネシア人が持つ高いホスピタリティは介護関連を始め、様々な職種においてその力を発揮するでしょう。

2回にわたるグッドタイムマガジンから、インドネシア人がイスラム教徒だからと言う理由で雇用を躊躇することなどまったくはなく、それ以上に価値ある労働力として期待ができることをご理解頂けたと思います。

▼ベトナム人材が来ない? インドネシア人材を知ろう(1) https://www.hni.co.jp/1307/ も是非お読みください!