介護職員の離職は高い?夜勤や給与その他の離職理由を考察

日本は超高齢化社会の先進国で、介護が必要な高齢者が増加する一方、多くの介護施設は人手不足に悩まされています。人手不足の一因として、介護職の離職率の高さが挙げられます。本記事では、介護職の離職率や退職理由、そして離職者を減らすための対策について解説します。

介護職員の離職率は減少傾向にある

介護職は過酷な仕事と思われがちですが、実際には離職率は徐々に低下しています。公益財団法人介護労働安定センターの「令和4年度介護労働実態調査」によると、2022年の離職率は14.4%で、近年のピークだった2009年(21.6%)以降、減少傾向にあります。

介護職の離職率の変遷

2022年の介護職員の離職率は14.4%で、前年から0.1ポイント上がりましたが、全体的には減少傾向にあります。特に事業開始後3年未満の事業者では、採用率が高い反面、離職率も高いことが明らかになっています。直近1年間の統計では、採用者数1万6,177人に対して離職者数は1万4,433人となっています。

他業種との離職率比較

2022年の全産業平均離職率は15%で、介護職の離職率はこれを下回っています。全産業で離職率が上下する中、介護職の離職率は下がっています。しかし介護業界は依然として厳しい状況にあり、国もさまざまな施策で現状打開を試みています。

介護業界の現在の状況

内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によれば、高齢者の人口は3,624万人に達し、総人口の29.0%を占めています。2040年には高齢者が総人口の3分の1を占めると推定されており、介護サービスのニーズはますます高まると考えられます。一方で、介護業界も人手不足に悩まされており、2022年度の介護労働実態調査では、人材不足を感じている介護事業所の割合が66.3%に達しています。

介護業界に対する政府の対策

国は「介護福祉士等修学資金貸付制度」「再就職準備金貸付事業」「介護職員処遇改善加算」といった施策で介護職へのなり手を増やし、待遇を改善しようとしています。これらの施策は、介護職の魅力を高め、離職率を低下させることを目指しています。

介護職員の主な退職理由

介護職は意義のある仕事ですが、さまざまな理由で離職する人がいます。

人間関係のストレス

介護職は多くの人と協力するため、人間関係のストレスが大きいことがあります。スタッフや上司、被介護者やその家族との関係が複雑になることもあります。特に被介護者の家族との関係は、介護の内容や方法についての意見の相違がストレスの原因となることがあります。

業務負担の過多

介護業界は慢性的な人手不足で、業務負担が大きくなることがあります。被介護者の数が増えると、残業が増え、疲労がたまることがあります。業務負担の大きさは、職員の心身に大きな負担をかけ、離職の原因となります。

不規則な勤務シフト

介護職は勤務時間や業務内容が不規則で、シフト勤務が多く、規則正しい生活が難しいです。特に夜勤や早番・遅番のシフトが頻繁に変わることが、生活リズムを乱す原因となります。

身体的な負担

介護職は身体的な負担が大きく、腰痛や肩こりに悩まされることが多いです。特に重い被介護者を持ち上げる作業や、長時間の立ち仕事が身体に負担をかけます。

低い給与水準

介護職は大変な仕事でありながら、給与が低いことが続いています。給与の財源が介護保険による介護報酬でまかなわれているため、増額が難しい状況です。これにより、生活費を補うために他の仕事を探す職員も少なくありません。

施設と価値観の不一致

施設と介護職のスタンスが合わないことがあります。例えば、施設が「数をこなす」ことを求める一方、介護職は「丁寧な介護」をしたいと考える場合などです。このようなスタンスの違いが、職員のモチベーションを低下させる原因となります。

ライフステージの変化

結婚・出産・子育て・介護などのライフステージの変化に対応できず、離職することがあります。産休や育休、時短勤務などの支援制度が整っていない施設も多く、家庭との両立が難しいことが離職の原因となります。

離職率が高い職場の特徴

離職率が高いと判断されやすいポイントを紹介します。

採用基準が緩い

採用予定数が多い施設は、離職者が多い可能性があります。求職者は採用のハードルが低い求人に対して、「より早く人手を確保したい」という施設側の意向が反映されていると考えることがあります。

常に求人を出している

頻繁に求人を出している施設は、採用者や応募者が少ない、離職者が多い可能性があります。よく求人を出している施設は、そもそも採用者または応募者が少ない、または離職者が多い、あるいはその両方である可能性が高いと求職者から判断される恐れがあります。

給与が相場よりも高い

給与が相場よりも高すぎる施設は、注意が必要です。たとえば、給与額に残業代の占める割合が高い場合、残業時間が多いと判断される可能性があります。また、離職率が高いために常に応募者を集める必要があり、そのために高い給与を提示していると考えられることもあります。給与が高い一方で、業務内容が過酷であったり、職場環境が悪い可能性があるため、求職者は慎重に判断する必要があります。

待遇が明確でない

待遇が明示されていない施設は、求職者が働くイメージを持ちにくいため注意が必要です。勤務時間や平均残業時間、年間の休日日数、スタッフ一人あたりの夜勤回数、基本給、各種手当の金額といった待遇を明示していない施設には、そもそも求職者自身が働くイメージを持ちにくいため求人内容として適切とはいえません。待遇面が不明瞭であることは、応募者数を確保するために厳しい項目の記載を避けている可能性も考えられます。

離職率を低下させるための対策

介護職員の離職率を下げるためには、以下の対策が重要です。

評価制度の明確化

介護職員の離職を防ぐには、仕事に対する適切な評価が欠かせません。評価者(施設長やリーダーなど)によって評価基準が異なると、不公平と感じ、介護職の離職原因になります。そのため、評価制度を体系化し、誰もが確認できる状態にしておくことが大切です。「何がどのように評価されるのか」「自分はどのような努力をする必要があるのか」が明確になれば、日々の目標が定まり、業務に対する意欲も向上します。

充実した教育体制

介護職員が仕事にやりがいを感じ、知識や技能を現場で活かせるよう、教育体制を充実させることが重要です。施設が定期的に勉強会や講習会を開催することで、職員のモチベーションの低下を防ぎます。人材不足の状況では研修や技術の習得に時間をかけられないこともありますが、施設が教育に力を入れることで、内外に「教育に力を入れている」とアピールする効果も期待できます。

定期的な面談の実施

介護の現場では、複数の介護職員が連携して業務に取り組む必要があります。お互いの人間関係に問題があると、介護サービスに影響が出るため、ミーティングや一対一の面談などでのコミュニケーションの機会を設けることが重要です。コミュニケーションが希薄になると、施設や他の介護職との「つながり」を感じられず、離職しやすい状況を招きます。定期的に面談の時間を設けることで、日常業務では話しにくい悩みを相談しやすくなります。

業務の効率化

介護職の現場では、業務の効率化も重要なテーマです。業務の見直しやICTの活用を通じて、職員の負担を軽減し、心の余裕を持たせることができます。例えば、重複する内容のミーティングを合同で開催し、開催回数を減らすことで現場の業務が効率化されます。また、報告書の作成や勤務時間報告などはICTを活用することで効率化されます。業務の見直しを定期的に行い、改善点を洗い出していくことが重要です。

ライフステージ変化への対応

介護職員の離職理由に多いのが、結婚や出産、妊娠、育児、介護といったライフステージの変化です。一時的な休職や時短勤務などでも対応できますが、欠員補充が十分でないと、「施設に迷惑をかけたくない」と離職する原因にもなります。ポイントは、業務や人員の割り振りの変更にスムーズに対応できるかです。突然の欠員に対して、どのように対応するかを事前に想定し、仕組みを作り、実際に運用できることが求められます。

夜勤や残業の軽減

夜勤や残業を減らし、職員の負担を軽減することも重要です。夜勤専従のスタッフを配置したり、業務の分担を見直すことで、夜勤や残業の必要性を最小限に抑えます。業務効率化によって、短縮勤務やシフト調整を行うことで、職員が働きやすい環境を提供します。

施設理念の共有

施設の理念や方針を全職員に共有し、共通の価値観を持って働くことができる環境を作ります。定期的な会議や研修で理念を伝え、職員の意識統一を図ります。理念がしっかり共有できていれば、運営上発生するさまざまな問題や、現場業務の認識の違いにも対処しやすくなります。

退職理由を把握して離職率を下げよう

介護職の離職率は、介護業界における現場での改善や国の施策などによって減少傾向にあります。しかし、慢性的な人手不足や介護業務での身体的・精神的な負担の大きさから、離職する介護職員は後を絶ちません。一部には採用と離職を繰り返す悪循環に陥っている施設もあります。施設側は、離職の原因を把握し、適切な対策を講じることが重要です。評価制度の明確化や教育体制の充実、施設内の円滑なコミュニケーション、理念の共有、ライフステージの変化への対応など、さまざまな施策を通じて、職員が長く働き続けられる環境を整えることが求められます。離職率の低下は、介護施設の運営の安定化に寄与し、最終的には高齢者の生活の質向上にもつながります。

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