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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

闇に活路あり

第三十四章其の一


更新日:2013.3.13
恐怖のバトンタッチ 其の一

ある大手自動車会社での幹部研修会での出来事。
いつものように講演が終わって一息ついていると、面識の無い紳士が笑顔を浮かべながら、私の方に歩いてきた。差し出された名刺を見ると、その会社の常務である。
「いやー、春山さん、今日の話はよかったよ。それにしても『超高齢化社会の恐怖』とは、いいタイトルをつけたもんですね。まさに“恐怖”って言葉がぴったりだよ」

■ 3年間の在宅介護

そして、彼は自室にて私にお茶を勧めながら、亡くなった母親の話を切り出した。彼の母はその四年ほど前、脳梗塞で倒れて入院し重度の寝たきり状態になったという。やがて彼は妻と相談のうえ、母親を自宅に引き取って最後まで看取ろうと決心する。そして三年間の在宅介護生活が始まる。

「母はとにかく風呂が好きだったんで、何もしてやれない代わりに、せめて風呂だけは入れてやろうと心に決めたんです」
私は静かに耳を傾けた。
「だけどあれは、やはり恐怖なんですよ。二日に一度の入浴です。女房が母の寝巻を脱がせて、私が脇(わき)の下と膝(ひざ)下を抱えて浴槽に入れる。そんな生活が一年を過ぎたころから、家庭の雰囲気がおかしくなり始めました。女房は自分自身の時間をなくしていきました。そして私はというと、二日に一回風呂に入れる作業をストレスと感じるようになっていたんです」

彼は内心「自分はいつまで、もつのかな? 寝たきりの母より自分の体の方が先にまいってしまうのではないか?」と不安だったという。
それでもなんとか頑張り続けていたが、ある冬の日、母を抱いたまま風呂場で滑ってしまう。幸いにも彼女を落とすことはまぬがれたが、かばった拍子に彼の方が浴槽の端で腰を強く打ってしまった。
「ただその時は、腰の痛みよりも、気持ちの張りがプツンと切れ、『もうだめだ!』と思いました」


(次回に続く)







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