更新日:2010.10.22
ささやかでも爽やかに 其の一
「いつもお元気で、ますますエネルギーに満ち溢れていますね」
私の仕事関係者や講演会主催者などはいつも半分呆れたようにこう言われる。
その都度「何しろ零細企業のおやじですから。まだまだ稼がなければならないんですよ」と受け答えた後、
「そう簡単にはあの世へ行きませんからご安心下さい」こう付け加え、ニヤッと笑いながら睨(にら)み返すと
「春山さんにはかなわない。うかうかしていると、こちらの方が早くやられてしまいそうだ」と呆れられる。
■ 人間は弱くない。
命への執着心が私をそう見せているのかもしれない。
しかし、ゆっくりだが病状は確実に進行している。
首の運動機能がもうかなり侵されているのが自分でもわかる。
いったん頭がうしろにのけ反ると、私はそれを自力でもとに戻すことができない。
もし誰もいない時に何かの拍子で頭がのけ反り長時間そのままでいると、気管機能の弱っている私は呼吸困難を起こす危険性もある。
万が一に備えて後頭部を固定するため、車椅子にヘッドレストを装備する日はそんなに遠くないのかもしれない。
私はそんな現実の中で、毎日を本のページを一枚一枚捲(めく)るように生きている。
健康な人の多くは、人生という本の最終ページをほとんど意識しないで毎日を送っている。
あと何ページで最終章になるのかはわからない。
しかし、進行性の難病を抱えた私は、心のどこかで常にページの終わりを少しだけ意識している。
だからといって「終わり」に、恐怖心も不安感も抱いてはいない。
人間は、私たちが考えているほど本質的には弱くはない。
これまで乗り越えてきた過程から、私はこのことに気付いた。
それは一日一日を精一杯生きてきたという思いがゆえの実感なのかもしれない。
(次回に続く)
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