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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第二章其の五




更新日:2010.8.25
第二章 「モルモットにはならない」 其の五


■ 「目を背けたい 上」

 スキーから帰って一ヵ月ほどしてのことだった。仕事の帰りに友人の家に立ち寄ったときのことだ。一杯飲んで他愛もない話をしているとき、ふと見るとぶら下がり健康器が置いてある。
「最近、仕事が忙しくてな、ちょっと運動不足なんや」
そう言って冗談半分にぶら下がってみると、三秒も経たぬうちにズルッと落ちた。

 「春山、何やってるんや、もう酔っ払ったんか」友人は笑って言った。
少し意地になってもう一度ぶら下がってみたが同じことだった。
「いやぁ、運動不足でいかんわ。オレもこの機械買うて体鍛えなあかんな。ナンボするんや」
そう言ってごまかしてはみたが、かつて、私の利き腕である右手の握力は五十六キロもあった。それまで自分の体重を支えられなかったことなど一度もない。鉄棒で懸垂をすれば片手でさえ楽にできた。両手なら五十回でも百回でも可能だった。

 私は、このとき、あの赤倉の温泉宿で感じた体内に棲みはじめた得体の知れない何かの存在を、再び思い出した。
次に気づいた異変は、足の衰えである。棚の上にあるものを取ろうとして爪先立ちをしようとしても、できなくなっていた。

 人間の体とは不思議なものである。うまく機能しているときは、まったくそれを自覚しないように出来ている。たとえば、私たちが食べたものは胃袋で消化され腸に送り込まれ、やがて排泄されていくが、健康なときは、そのような体の営みを意識することがない。
ところが飲みすぎなどで胃の調子を悪くすると、食べたものが消化できず、腹の中に胃袋が居心地悪く存在しているという感覚を覚える。

 これと同じように、私は日頃意識もしていなかった自分の足首に何かが起こりつつあるのを知った。アキレス腱が急に溶け出して細くなってしまったのかという思いにとらわれ、足首を意識的に回そうとすると、それも思うようにできない。足の指でジャンケンをしても、グーもチョキもパーも思うようにできない。 触ってみると、やはり赤倉の夜のように冷たかった。そして次にふくらはぎの筋肉に力が入らなくなった。

(次回につづく)





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