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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第八章其の三




更新日:2011.8.24.
第八章 「龍二への手紙」 其の三


■ 「膝の上」

 龍二、君は覚えているか。父さんの膝に乗って春の潮干狩り、夏の海、そして秋の山に行ったことを。北海道から沖縄まで、毎年、少なくとも三回はみんなで旅行に行っているね。父さんにとっても楽しみな旅行だが、君も少しずつ大きくなり、いろいろなことがわかるようになって、旅行が楽しみになったようだ。

 小さいころ、父さんの膝に乗って一緒に浜辺を散歩した龍二が、やがて父さんの膝から下り、お兄ちゃんと浜辺を走り回るようになった。あの沖縄のことを覚えているか。
お正月に行った沖縄では、君たちに驚かされたことがあったね。父さんとお母さんは浜辺で遊んでいる君たちを見ながら、ホテルのテラスデッキでゆっくりとコーヒーを飲んでいた。

「オーイ、泳いだらいかんよ。まだ水は冷たいから」
「わかってる。わかってるー」
父さんとお母さんは、今年もいい年になりそうだと、仕事やいろいろな話を一時間も二時間も続けていたように思う。ふと浜辺に目をやると、君たちはいつの間にか、首まですっぽり海に浸って、一月だというのに泳ぎ回っていた。あの沖縄の冬の日を、君は覚えているか。

 初めて君をスキーに連れていったとき、父さんは感心したものだ。あれはお兄ちゃんがスキーに夢中になっていて、どうしても冬に寒いところへ行きたいとせがんだ年のことだ。それまでは夏は北海道、冬は沖縄と決まっていたわが家の旅行パターンがその年から逆転した。

 君はまだ小さいのに、お兄ちゃんが滑るのを見て、「ボクもボクも」とスキーをやりたがった。君はあれよあれよという間に上達した。
父さんは本当に嬉しく、そして誇らしく思ったよ。キラキラ輝くような笑顔で、父さんがいるテラスデッキの前を「おとうさーん」とストックを振り回しながら駆け抜けていった君の姿を。

 これからも旅は続けよう。それは思い出を作るためではない。それは成長していく君たちと、そしてそれを見守りつづける父さんとお母さん、家族四人みんなが楽しいからだ。ただ、あと何年こうした家族の旅行を続けられるかはわからない。

 やがて君も成長し、家を出ていくだろう。そして、家庭を持つことだろう。そのときは、君が君の家族を旅行に連れていけばいい。君が父親になったとき、車椅子に乗りながら子どもたちを旅行に連れ歩いた父さんの気持ちが少しわかると思う。
ふとしたときに思い返してほしい。あの車椅子の父の膝に乗って歩き回った清々(すがすが)しい日々のことを。


(次回につづく)





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