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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜 



第八章其の六




更新日:2011.9.14.
第八章 「龍二への手紙」 其の六


■ 「父さんの仕事 上」

 そういうお兄ちゃんも、父さんが車椅子に乗っていることを龍二と同じように不思議に思ったことがある。お兄ちゃんが五歳になったばかりで、まだ保育所に通っていたころだった。

「お父さん、何で病気になったん?」
父さんは、お兄ちゃんの質問に対して、手や足の筋肉がだんだん弱くなっていって、体が思うように動かないからこうして車椅子に乗っているのだと説明した。お兄ちゃんは「ふーん」と言ったきりだった。

 今では君にもたくさん友だちができて、この家に連れてくるようになったが、そのことでもお兄ちゃんは先輩であることを、君も認めるだろう。お兄ちゃんは、保育所に通っていたころから年がら年中、友だちを家に連れてきていたからね。

 そんなとき、これまで何度もうちに来ている友だちは「テッちゃんのお父さん!」とか「おっちゃん!」と言って、父さんに駆け寄ってくる。でも初めて来た友だちは、車椅子に座っている父さんのことを不思議そうな顔をして見ていたものだ。それこそ、目を丸くして−。

 そんな子は、お兄ちゃんと一緒にゲームを始めても父さんのことが気になって仕方がないらしい。ときどき父さんのことをチラチラと見る。そして、父さんと目が合うと、そっぽを向いてしまう。そのうち、チラチラ見ていたのがジーッと見るようになる。
どうやらあの車椅子に座っている“おっちゃん”は、危険人物ではないと思ったらしい。そこで父さんは、得意の演技力を発揮する。

「テッちゃん、悪いけど、お父さんの煙草に火をつけてくれ」
父さんは、その子が父さんに興味を持ちはじめたのを知って、わざとお兄ちゃんを呼んだ。お兄ちゃんが火をつけるのを見て、やっとその子が口を開く。そして、お兄ちゃんや友だちに、こう聞くのだ。

「テッちゃんのお父さんが乗ってるの、あれ何?」
「アホ、おまえ何も知らんねんな。あれは車椅子いうんや」
「テッちゃんのお父さん、病気なんや。病気で手も足も動かないんや。だから車椅子に乗ってるんや」
「ふーん」


(次回につづく)





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