更新日:2011.9.21.
第八章 「龍二への手紙」 其の七
■ 「父さんの仕事 中」
みんな順番にその新人に解説を加える。そこで、父さんは、今度は哲朗ではなく、ほかの子に用事を頼む。
「なぁ、ゆきちゃん、おっちゃんにお茶飲ませて」
「うん、いいよ」
ゆきちゃんは、もう何度も父さんにお茶を飲ませてくれているベテランだから、上手にストローをロに運んでくれる。こうなると父さんが主役だ。哲朗の友だちはゲームをほったらかしにして父さんの周りに集まってくる。もちろん、その新人も一緒に。
「おっちゃん、この車椅子どうやって動かすの?」
「ちょっと動かしてみるか? じゃあ、後ろから押してみ」
もうここまでくると大騒ぎになってしまう。いつもお母さんが怒るのも無理はないだろう。
また、あるとき哲朗の新しい友だちがやってきた。その子の父さんを見る目は、いつもの“新人”と同じだった。その子が聞いてきた。
「おっちゃん、手ぇ動かへんの? ほんまに動かへんの」
「うん、動かんよ。ためしにおっちゃんの手を上げてみ、そして、放してみ」
その子は、恐るおそる父さんの手を取って胸のあたりまで上げ、次に放してバタンと落ちるのを見て本当に驚いた顔をした。
「ほんまや、おっちゃんの手ぇ動かへん。ジャンケンもでけへんの?」
「ああ、グーチョキパーはでけへんけど、おっちゃんはジャンケン強いで。やってみよか」
「うん!」
「でもな、おっちゃんのジャンケン、ちょっと変わってるよ。チョキなしジャンケンやで。ほないくで、チョキなしジャンケン。ジャンケンホイ!」
(次回につづく)
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