更新日:2011.9.28.
第八章 「龍二への手紙」 其の八
■ 「父さんの仕事 下」
これで父さんは必ず二回は勝ったものだ。でも、さすがに三回目はこうはいかない。
「おっちゃん、ズルイ!パーしか出せへんもん」
今の龍二は笑うかもしれないが、君だって三歳か四歳のころは、父さんのチョキなしジャンケンにずいぶん騙されたものだ。
こうして、父さんの病気は哲朗や龍二ばかりでなく、君たちの友だちにもわかってもらえるようになった。父さんが保育所へ行くと、みんな父さんの車椅子に乗りたがり、順番に膝の上に乗って廊下を走り回ったこともある。君も、小さいころ歩くのに疲れると、よく膝の上に乗りたがったものだ。
もう龍二もいろいろなことがわかってきたことだろう。人間はいろいろなことがわかってくると、その分だけ悩んだり、苦しんだりするものだ。君が父さんの車椅子を不思議に思ったのも、その始まりなんだ。そんな君の心の動きを、父さんとお母さんは、これからも見守りつづけるつもりだ。
父さんは、体が不自由にならなければ、今の仕事をしていなかったかもしれない。お母さんは、父さんが車椅子に乗ることをわかっていながら、お兄ちゃんと君を生んだ。幸い、君たちは元気に成長し、父さんの仕事も順調にいっている。
父さんの仕事は、父さんのように病気で体が不自由になってしまった人や、年をとって寝たきりになったお年寄りがどうしたら快適に生きていけるかを考える仕事だ。
そんな人たちに幸せになってほしいと願って、毎日仕事をしている。その人たちが少しでも幸せになってくれれば、父さんはちょっとだけ幸せな気持ちになることができるのだ。
(次回につづく)
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