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春山 満の僕の元気 〜春山 満 コラム集〜

新しい家族へ

第1話後編
更新日:2009.7.10
第1話「看取る」(後編)

◆日本だけが持つキーワード「死なせない」◆

'88年(昭和63年)、全国初の福祉のデパート「ハンディ・コープ」を開設し、大型介護ショップの
先駆けになった。この事業が、中枢神経系の権威者であるジョージア州立大学の教授の目に
とまり、「日本にもやっと春山さんのような人が現れた。アメリカにはあなたが求めている情報が
すべてある」と誘われ、アトランタをきっかけに気づけば22年間、全米、ヨーロッパ、豪州と400カ所
以上を“巡礼”し、介護付き集合住宅「アシステッド・リビング」の成功事例や、ナーシングホーム
(介護付き老人ホーム)が、看取りまで担保する療養施設「スキルドナースケア」へと変わっていく
過程など医療・介護ビジネスの成長と変節を徹底的に学んだ。

「老い」に関して、医療および介護の制度を完成させた先進国はいまだ存在しない。「ゆりかごから
墓場まで」の壮大なスローガンを掲げ、社会福祉の充実を目指した英国は、膨大な財政支出を
もたらして国力を落とした。在宅サービスを充実させたデンマークも、集合住宅へ軸足を移した。

国が豊かになれば高齢化、すなわち人は簡単に死ななくなる。「死なない・死ねない」に加え、 日本だけが第3のキーワード「死なせない」の項目を持ち合わせてしまったのは、やればやるほど儲かる 出来高算定がもたらしたもの。

「いかに死ぬか」の答えは、ホスピス探訪の中に見出した。淀川キリスト教病院(大阪市)を嚆矢と
する日本のホスピスは、痛みを緩和しつつ6カ月間のタームで「死なせる」医療を主目的にしてきたように思う。

欧米のホスピスは「限られた時間でいかに生かすか」を使命とし、人生の最期に苛(さいな)まされる「痛み」「不安」「死の恐怖」の3つを取ることを完遂する。まさに究極のサービス業。私は日本に本物のホスピス機能を持った総合サービスを構築したいと考えている。

◆看取りのホスピタリティに生前贈与の対価◆

ロンドンから車で2時間ほど走った郊外にセント・ウィルフリッドというホスピスがある。訪問してまず、 病床の少なさに驚いた。たった20床しかない。しかし、その20倍の在宅の患者を持っている。

その在宅専門の介護・看護士、薬剤師、セラピストたちはサポートシスターズと呼ばれていた。
小規模ホスピスと在宅を結ぶインターフェースとなる「ホスピス・デイケア」も充実。今後、日本でも
新しいサービスとして認知されるだろう。

セント・ウィルフリッドの施設長には財務諸表の閲覧をお願いした。そこには国の補助金やさまざま な収支項目が記されている。自己負担分はほとんどなく、Donation(寄付)で賄われていた。 「Legacy」(遺産)という予算もしっかり明記されていた。

ところが、同施設の会計項目には「Investment」(投資)という科目がある。ホスピスに誰が投資する のかと質すと、米語でなく英語では「生前贈与」の意味があると教えられた。最期を看取る献身的な サービスに対し、身寄りのない多くのがん患者が財産を託す。これが「Investment」。セント・ウィル
フリッドは、次年度目標額(ターゲット)まで予算計上している。

痛み・不安・死の恐怖を取るプロ集団のホスピタリティを継続するため自助努力を惜しまず、健全な 財源を確保する。日本だとICUにいるレベルの末期がん患者が誕生パーティーを催され、笑顔で
「ラブリー!」と涙するデイサービスの現場を見た時、私が目指す「看取り」「究極のサービス業」
とは何かを知らされた。この原体験が「ロマンとソロバン」という永遠のキャッチフレーズにつながっていく。

ホスピスだけでなく、高齢者を取り巻く複合的な医療・療養サービスにおいて、多くのキーパーソン が熟練した看護師と薬剤師であった。これを確認した時、情報ハブセンターとなる薬局をコアとした 総合介護チームが、地域医療も巻き込みながら初期の要介護から命の看取りまで、すべて包括した システムを構築するヒントを得た。

(第2話につづく)次回7月17日(金)UP予定!





※このコラムは「DRUG magazin」2009年5月号に掲載された連載を再掲載したものです。





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